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作品名:one-way traffic 作者:ティルト

第1回   1
 いつだろう。いつからだろう。あぁ、たぶんあのときだ。あのとき、から、私のあの人を見る目に、胸の痛みが加わったんだ。



「あ〜!それってあのCDじゃん!」
「そうそう、やっと見つけたのよ〜!」
「ちょっとそれぜひコピーして!」
「え!じゃぁオレもオレも!」
「いいよ〜」
 他愛の無い会話。二人きりでもないし、話の内容も別段、特別なものはない。

だから 胸が 少しだけ 痛い

 私には恋人がいます。
 そして、今私が見ている横顔の人に恋をしています。
 私は恋人を愛しています。
 そして、先日私は、今見ている横顔の人に抱かれました。
 私は恋人が大事です。
 なのに、私は、恋人ではない恋しい人に、抱いてもらいました。

「じゃぁ後でウチでコピーしよ〜ね〜」
「途中でCD-R買ってかないとな。」
 賑やかな車の中でのそんな会話が、昔と大分色違いに映る。そんな感覚は久しかった。
 どうも私は、恋をしてはいけないときにばかり恋をするようです。バカなやつだと自分が一番思います。天罰が下るならさっさと下って私なんか灰になってしまえばいい。とかたまに思うけど恐くてやっぱ却下、と思う小心者にしては、恋人のいる身で他の人に抱いてもらうなんて大胆なことをよくできたと思います。でも出来ない方がよかったかもしれません。
 しかもそれはなんというか、私から仕向けたというか、私が要求したことなので罪悪感も当社比三割増し。
 そのうえそれがきっかけで恋心は急加速。どんなときでもあの人の事ばかり考えてしまうというまさに外道。どうしてこんな私に罰が下らず生きていられるのか不思議でしょうがないです。
 そんなことを考えて呆けている私を、チラッとその人が見たことには気付きませんでした。
「涼ちゃ〜ん、ちゃんと前見てー」
「おっと危ない危ない。」
 後部座席から私は運転席の涼二にそう声をかけました。助手席の鈴ちゃんは笑顔でカーステレオをいじっています。隣にいる綾さんは無表情ですが、これはいつものことで、実はそれなりに楽しんでいるのです。
 それくらいのことがわかるまで、このメンツで遊んできました。私はどうもその辺を感じるのは得意なようで、共有した時間の割には仲良くなるのが早くて助かります。

 そうそう、最近の私の趣味は、運転席から助手席に向かっているちょっと熱い視線を冷ややかな視線で見つめて相殺しようと試みることなんですよ。けっこう高尚だと思いません?見えないものを見えないものでどうにかしようとするって。
「自虐的・・・」
 ボソッと隣の綾さんが呟いたので、私はビクッとしてゆっくりとそっちを向いたら、あの綾さんがにっこり笑っていました。すげー恐かったです。たぶん、自分を虐めすぎるなという心配だと思うのですが、この笑顔でそこまでわかる人はけっこう少数な気がします。
 そういうときに限ってカーステレオからいじわるな歌詞が流れてくるから困ったものです。あぁもう、神様がいるならそこのスキップボタンを押してください。っていうかこの泥沼な私の心情をどうにかしてくれ。裁くならはよ裁け。裁かないなら助けろバカ。できないなら神とか名乗るなバカ。
<わかってるのに 止まれないあたり まるで恋は 交通事故ね>
 あぁまったくその通り。この歌詞を作った人は私みたいな思いをしたのだろうか。もしそうなら結末を教えて欲しいものです。
<どうするのかは決まってる ただ したくないだけで>
<迷えるだけまだ 幸せです>
 そうかもしれない。でも苦しいのは事実。あぁ胸が痛いわ。胃痛の方がまだマシよ。ホント、意地の悪い詩だわ。
 車は鈴ちゃんの家に向かっている。途中できっとどこかお店に寄るだろう。私はひとつため息をついた。
「疲れた?」
「いやいや、大丈夫よ〜」
 隣で綾さんが口元だけで笑った。もうそれが意味する内容もよくわかる。あぁそうです疲れてますよいろいろと!恋をするのは大変です。困ったもんです。


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