時計は午後の7時を表示した。
もうこんな時間か。 沙耶はソファーから立ち上がろうとした。そのとき ガチャチャ・・・っと玄関から音がした。 祐一が鍵を開ける音だった。
しばらくすると、ドンっとドアを閉める音がした。
「パパ〜おかえり〜!」 体いっぱいの大声で叫びながら、涼太が祐一の下へ走っていく。 そんな涼太を見ると、疲れきった祐一の顔がほころぶ。
そんな顔、私が話しかけてもしないのにな・・・。 沙耶は、ふと思った。しかし、それもまた、口に出すことはない。
ドンドンと大きな足音を立てながら、祐一が部屋に入ってきた。 もう少し静かに歩けないものかと思いながら 「お帰り」 という言葉と共に祐一を迎える。
祐一は、無造作にポイッと上着を脱ぎ捨てた。 そして、リビングに座ることなく、奥の部屋のパソコンへ向かった。
「今日ね、すぐそこでカップルがケンカしてたの。その内容がね〜・・」 そこまで言うと、沙耶は話をやめた。 パソコンを始めた祐一からは、返事がない。聞いているのだろうか?
一方、祐一は、ちゃんと聞いていた。 しかし、何で帰って早々、こんなどうでもいい話を聞かされるのかと思っていた。 返事をするのも面倒だったし、沙耶が途中で話をやめたことを追求する気もなかった。
お互い、相手に興味がないわけでもなく、邪魔に思っているわけでもない。
ただ・・・
いつもの事だから。
その一言で片付いてしまう感覚だった。
夕飯を、テーブルに並べると、沙耶は、パソコンの前にいる祐一と、祐一にピッタリくっついている涼太を見た。
どうせ呼んでもすぐに来ないだろう。 一体何の為に、帰ってくるのを待って、暖かい料理を出しているんだろう。 せっかくの料理が冷めてしまう。
そんな色んな考えを、一瞬で考えた。いつも思っていることだから、時間は要さない。
沙耶は、お箸を手に取ったまま、 「ご飯できたよ」 といい、二人を見た。案の定、動く気配もなければ、返事もなかった。
沙耶は一人、料理の並んだテーブルの前に座り、二人が来るのを待った。
祐一は思っていた。 今パソコンを付けたところなのに、もう少しやってから食べよう。 なんなら、先に食べてくれていてもいいくらいなのに・。
沙耶は、祐一のそんな考えもわかっていたが、コドモの為、時間をこれ以上遅らせるわけにもいかなかった。
沙耶と祐一の間には、色々と相手に思うことがある。 それは、不満ともいえない曖昧なものだ。 お互い、それを口に出して相手に言うことはあまりない。 いつも同じところで、それを感じ。そして、お互いに口に出しこともなく通り過ぎる。
それは、当たり前のこと。 いつも一緒にいるための、当たり前の行為。
そう。
いつものことだから・・・・・・。
時計が7時25分を表示した。テレビの番組がCMに切り替わった。 祐一が、ようやくパソコンから離れ、テーブルの前に来た。 そして、何事もなかったようにご飯を食べ始める。 沙耶も、笑顔でご飯を食べ始めた。 そこには、どこにでもある家族でご飯を食べる風景が広がっていた。
日中強く吹いていた風は、ようやく落ち着き、リビングの端に置かれた籠には、昼間に風に煽られ、乾燥した洗濯物がはいっていた。
|
|