時計が、7時12分を表示している。
「朝だよ!遅刻!仕事遅れるよ!」 沙耶の声が、家中に響いた。 その声を聞いているのか、いないのか、ベットの上の盛りあがった布団がもモゾモゾと動く。
「ご飯食べないと間に合わないよ!起きて〜〜!」 沙耶が叫びながら、布団をめくり上げると、そこには、よく似た親子が丸まっていた。
時計は、7時45分を表示した。 不機嫌そうに、まず、起きてきたのは、沙耶の夫の祐一。 その後を、チョコチョコ寝ぼけ眼でついてきたのが、3歳になる息子の涼太。
朝はいつもこの調子だ。
食の細い祐一は、パン一個すら食べ切らず、一口分くらい残して、 コーヒーを飲みきると、出勤していく。
沙耶は、そんな祐一をみていつも思う。
私は、もっとたくさん食べて、おかわりしてくれるくらいの人が好き。と。
でも、それを口に出すことはない。 夜ゆっくりしているときに、テレビを見ながら、冗談交じりに言うくらいだ。 だから、祐一も、まったく気にしていないだろう。 それに、そう思うだけで、沙耶は、そんな祐一が好きだ。
夫婦ってそんなもの。 不満のない夫婦なんていないはず。 日常のちょっとしたところで、ちょっと不満を感じたりするけれど、 それはわざわざ口に出して言うほどのことでもないので、 自分の中で消化して、しばらくしたらまた忘れる。
「ママァ・・・ココアは?」 見下ろすと沙耶の横で息子の涼太がつぶやいた。 沙耶も、そんな涼太の一言で、もうさっきふと考えたことは忘れる。
「はいはい。今入れるから座ってなさい。」 沙耶は、そう言うと、食器棚から、マグカップを出し、ココアの粉をいれ、 ポットのお湯を注ぎ、小さい涼太のために、冷たい牛乳を入れて、飲みやすい温度にしてやって、机に置く。
「ありがとう〜ママ」 涼太は、ココアを嬉しそうに持つと、ごく自然にいった。
沙耶は、そんな朝が好きだった。
結婚して4年。いわゆるデキ婚だった。 休日は、必ずと言っていいほど、祐一と涼太と一緒に過ごす。 毎日、なんでもない話をして、涼太を見つめ、二人で、思い出話をしたりする。
それが、祐一にとっても、沙耶にとっても、当たり前のことだった。 いつも一緒にいる。 同じ景色をみて、同じご飯を食べて、同じ部屋で一緒に寝る。
でも、祐一も、沙耶も、ふと思う。 繰り返される、同じような日常、それって幸せなことなの?・・・・ お互い、相手を昔のように好きなんだろうか?・・・
結婚をしたら恋愛は終わり?
でも、そんな考えも、あわただしい日常生活の中に、すぅっと溶けてなくなってしまう。 真面目に考えていないわけではない。 でもそれが普通。 沙耶と祐一は、毎日を過ごす為、頑張っている。 いつも楽しく一緒にいるために。
時計が、8時30分を表示した。 祐一は、もう職場に着いて、仕事を始めている頃だろう。 「急いで洗濯しないと」 沙耶は走り出した。
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