「よくきたな、カインよ」 カインの目の前にはザンスカール国王が座っている。現在の世界の統一者である英雄だ。 老いたとはいえ、その威厳は対峙しているカインに伝わってきて、畏怖せずには居られない存在である。
「さて、カイン、そなたにはカルディアに向かってほしい。」 「カルディア・・・」 「そうだ。そこでカルディア国の遠征部隊に加わってほしいのだ。」
この要請はカインにとって予想外なことがあった。
「王、失礼ながらお聞きしたいことがあります。」 「なにかね?」 「わが国からの討伐隊は編成なさらないのですか?」
カインが受け取った手紙には、討伐隊の参加要請とその説明の為城まで来るようにとのことしか書いてなった。そのため、カインはザンスカール王国の討伐隊が編成され、その中に組み込まれると思っていた。王に対して思わず聞かずにはいられなかった。
「ふむ・・・。半年前に討伐隊を出征させたことは知っておるな。情けないことだが、わが国の戦力はもはや自国の防衛に専念することしかできないのだ。」
現在、ザンスカール島にもモンスターの侵略が進んできている。
「なので、わが国から新しく討伐隊を編成することは無理なのだ・・・」
ならば、自分が討伐隊に加わる必要性はないのではないだろうか。他国に任せるしかないのならば・・・。自分も自国の防衛に参加すべきでは・・・。 カインはそう思いながらも、うつむき黙っていた。 王はカインのその様子から何かを悟ったようだ。
「カインよ、お主が考えていることは分かるつもりだ。なぜ、お主を他国の討伐隊に参加させるその意味はたしかに疑問だろう。」
・・・・! なぜこの王が4大王国の統一王なのか、その所以を垣間見たように、カインは感じた。
「一国の王として、このような私情を挟むのはどうかとも思ったのだが・・・」 王は続けた。 「ザンジバルは我が国の重鎮であったもので、私の親友でもあった男だ。できることならば、私自身で過ちを気づかせてやりたい。」 カインは王の考えを理解できた。 「彼が起こした問題を、他国の王に迷惑をかけることはしたくないのだ。彼を正すのは、原因を作ってしまったわが国の戦士でなければ、ザンスカール国の名誉にかかわる。」 責任感の強い王・・・だからこそ、統一の主席たりえたのだろう。 「だからこそ、お主には私の代わりとして討伐隊に参加してもらい、その手でザンジバルを正してほしいのだ。頼む!」
カインは驚いた。王が自分に頭を下げている。 「やめてください!王!」 王の気持ちがカインには痛いほど伝わってきた。王は本気でザンジバル討伐を自分の手で行いたいと願っているのだ。 他国の誰かがザンジバルを討伐し世界が平和になる、その結果だけを求めてはいないのだ。確かに私情である。だが・・・ 「王、謹んでおうけいたします。」 カインはそう答えた。ザンスカール王国の住民として、王の代理、王の成したいことを行うという名誉と使命感とに彼は満ちていた。 「力足らずとは存じますが、全力で王の思いかなえて見せます。」 「ありがとう、カインよ。」
この瞬間、ザンスカール王国の名誉はカインに託された。
「王、討伐隊に参加する前にお聞きしたいことがございます。」 「何かね?」 「わが国から討伐隊に参加する者はほかには?」 横にいた大臣がその質問に答えた。 「わが国の状況を考えると、親衛隊や軍隊からは参加させることが難しかったのだ。」 『なるほど、それではクリスは参加しないのか・・・』カインは心の中でつぶやいた。クリスが一緒ならばどれだけ心強かっただろう。 「そのため、参加の勅命…まぁ、王は要請とおっしゃっておられるが・・・」 勅命ならば強制力があり、断ることは不敬罪にあたる。要請としたのは王の人柄だろう。 「・・・参加の要請を出したのはお主を含め4人。」 一人はもちろんカインである。もう一人はカインの師。 「私と私の師が二人ですね。あとの二人は?」 カインの質問に対して、今度は王が答えた。 「一人はお主も良く知る人物だ。レインという者だ。」 レインは、カインの幼馴染の一人。魔道の勉強をしていた。たしか・・・ 「たしかレインはカルディアに修行中の身では?」 「その通り。彼女の師は彼女自身の修行になるからと要請を受けてくれた。」 レインの師は、カルディア王国の魔導士バルバロッサである。おそらくカインが彼の師に言われたことと同じ事をレインも言われたのだろうとカインは思った。 「それで、もう一人は?」 「フェリックスというものだ。サザーン村に流れてきた者でな。要請は出したものの一向に返事が来ないのだ。」 この王の要請を無視し続けるとは、大した胆力だ。と変に感心してしまったカインは、フェリックスという男に興味を持った。 「どうだろう、カインよ。出発の前にサザーン村により、フェリックスという男を説得してきてはくれないだろうか。」 カインにとって願ってもいない要請である。もちろん、 「分かりました。私もその男には興味があります。」 王の要請を無視し続ける男とは、どのような男なのか、どれほどの腕前なのか。今のカインの興味はその一点に注がれていた。
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