「城まで・・・か・・・」 手紙を読み終えたカインはすぐに王の意図を悟った。 「半年前に行けなかった分、今から行って来いってことか。」
彼の名はカイン。ザンスカール島では知らない人がいないほどの有名人である。2年前の剣術大会で見事に優勝した剣士である。その力を認められ、親衛隊への入隊要請もあったが、「修行がまだ途中」の一言で退けた男である。 半年前の遠征隊への参加要請ももちろんあったが、そのときカインは死の淵をさまよっていた。 奥義の伝授の修行のときのことだった。 師の奥義を受けそれを返すことで伝授が行われる。カインは師の奥義を受けきれず直撃してしまい、何とか即死は免れたものの、いつ命が途絶えてもおかしくないという状況だった。討伐部隊の編成が行われる2ヶ月前のことだった。それから半年、討伐部隊が出発するまでカインは目覚めることはなかった。 カインの師はカインの治療に専念していた。奥義の力によって傷をつけられたものは相反する奥義の力を持ってしか癒せない、そのためカインの師はカインの治療に専念していたのだ。
「師匠はなんていうかな。奥義を1つも覚えられないぐらい未熟なのに、あのザンジバル討伐部隊とはな・・・」 カインが操る剣術の奥義、覇王流剣術奥義は覇王流の歴史の中でも限られたものだけが極めることに成功しなかったものであり、奥義を操ることは何者にも勝る力を持つことを証明するものである。が、決して奥義を窮められないことが未熟につながるものではない。 現にカインは剣術大会において優勝の腕前である。 その大会に正規兵や親衛隊からの参加はなかったものの、その力は親衛隊小隊長クラスであることは多くの人に認められるものであった。
「やっぱり剣術大会に出たのがまずかったかな…。とりあえず、師匠のところに行って相談しよう。」
カインは剣と鎧を身につけ、いつものように彼の師匠が住む海辺の小屋に向かった。
彼の住む町、ラグランから山を越え西へ行くと海が見える。その海岸線に彼の師匠が住んでいる。
「師匠、いる?」 カインは小屋の中へと入っていった。 「城へ行くのか、カイン」 「・・・おどろいたな。どうしてそれを?」 「私のところにも討伐部隊への参加要請がきたのだ。おそらくお前のところにもくるだろうとおもってな。やはりそうなのか?」 「師匠、どう思う?俺なんかが行って役に立つのかな?」 「どうもお前は自信がなさ過ぎてダメだな・・・。2年前はまぐれではないぞ」 「でも、俺には剣術以外の力はない。魔法も使えない。この間だって、覇王流の初歩の奥義すらマスターすることができなかった・・・。前に師匠言っていたよね?ザンジバルは自分の力をも凌駕する存在だ、と。ザンジバルに俺が対抗できるのか?」
その質問に師匠は答えずこう言った。
「カイン、私は王からの命令を拒否するつもりだ。私にはやるべきことがあるからな。」 「・・・やるべきこと?」 「カイン、私には私しかできないことがある。覇王流を継いだものとしてな。そしてお前にもお前にしかできないことがある。」 「俺にしか・・・できないこと?」 「そうだ。お前ならばザンジバルをも越えることができる。」 カインは彼の師の思わぬ一言に声を失った。 「・・・師匠、そんな夢みたいなことは・・・」 「そうか?私はそう思わない。今のお前に足りないものは経験だ。」 「経験・・・」 「そう。経験をつめばお前は今より何倍も強くなるだろう。」 「・・・。」 「カインよ、今はここで私とだけ修行するより世界へ旅立て。」 「・・・」 「王の命令でザンジバル討伐に行くのではなく、師の命令で修行に行くと思えばどうだ?」 「でも奥義の伝授は?まだまだ師匠に教えてもらわなければ・・・。」 「もうお前に教えることはほとんどない。覇王流の形は一通り教えてある。これを与えよう。」 カインは一冊の本を受け取った。 「これには覇王流の奥義に関することがすべて書かれてある。」 「すべてが・・」 カインはその本のページをめくり、驚愕した。 書いてある文字はこの世界のものではなく、全く理解できなかった。 どのページをめくってみても、やはり同じことだった。 「師匠・・・。」 「時が来ればその中に書いてあることが理解でき、奥義を扱えるようになるだろう。それに、お前にはすでに奥義の形は伝えてある。」 「え・・・」 「いつか気がつくだろう。」 「覇王流のすべては教えてもらっているのか・・・俺に足りないのは経験・・・」
奥義の形は伝授済み・・・カインはこれまでの修行を思い出していた。 カインがまだ幼かったとき、彼は一人の青年に憧れを抱いていた。そして、今も。 覇王流の弟子は2人いた。カインには兄弟子がいるのだ。
「さて、カインよ、お前の意思を聞こうか。おそらくコ−ウェンも聞きたがっているだろう」
過去の思い出の中の青年、コーウェンという名を聞いたカインは何かを決意したようだ。
「・・・。俺は誰よりも強くなりたい・・・」 カインは首にかかっているペンダントを握り締めた。 いつだろう。同じ言葉を言ったのは。 あの時は師匠が目の前にはいなかった。いたのは青き目の青年・・・。
「カイン。お前ならば強くなれる。私よりもな。」 「そうだったな。師匠を、そしてコーウェンさんを超えるんだ・・・」 「・・・行って来い。」
カインは小さくうなずき小屋をあとにした。 「・・・カインならやれる。なぁ、そうだろう、コーウェンよ。」
カインは城へと向かっていた。泉のほとりでカインは休んだ 「コーウェンさん、俺もこの島を出ることになりそうだよ・・・」 ペンダントに向かい彼は語っていた。
そのペンダントはコーウェンという男から貰ったもの。コーウェンは半年前に討伐隊に参加した男で、カインの兄弟子にあたる。 身寄りのなかったカインにとって、師と、そしてコーウェンは唯一の家族といえる存在であった。
「きっと生きているよな。俺が世界へ旅立てばどこかで会えるよな・・・」 カインは彼の歩みを再び進めた。旅たちが始まるであろう城へと。
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