冷たく底しれぬ暗黒の渕に
ある日、突然 !! なにも聞こえてこない なにも見えてこない 凍(え)てつくように冷たく底しれぬ暗黒の渕にオレは突き落とされてしまった それは なにも予期していなかった不意のことだった 研ぎ澄まされた鋭敏な五感によっても感知することができない不意撃ちだった なにひとつ その前兆らしきものは認知されてはいなかった 前兆らしきものを感知することができるチャンスはなんら与えられてはいなかった ある日 なんの兆(きざ)しもなく突然に 悪魔はオレの頭上から襲いかかってきた その瞬間 !! オレは金縛(かなしば)りに遭(あ)った。 目には見えない強靭(きょうじん)な鉄の鎖(くさり)によってオレは緊縛(きんばく)されてしまった 些(いささ)かもオレは身動きすることができなくなってしまった オレは 喚きながら全身の力を振り絞り冷たい暗黒の渕から這(は)いあがろうとした しかし どんなに力を振り絞ってみても どんなにもがいてみても どんなに足掻(あが)いてみても もはや 決して ふたたび 太陽光線が燦燦(さんさん)と降りそそぐ『明の世界』に浮かびあがることはできない 眩(まばゆ)く明るいエリアに浮かびあがることはできなかった 万物を育(はぐく)む太陽の照り輝く地上に這いあがることはできなかった オレは凍てつくように冷たくなにも見えない暗黒の渕で、喚(わめ)き、もがき、 苦悶(くもん)した オレを取り巻く環境は凍てつくように冷たく底深い暗黒の世界だった もはや どうすることもできない どんなに 喚き もがき 足掻いてみても 冷たい『暗の世界』から『明の世界』に這いあがることはできなかった
上野公園の桜が満開になった 玉川上水の水源地『羽村堰』でも桜が満開になった 日本列島は百花爛漫の季節になった 一糸纏わぬ全裸のオレは桜並木の下をゆっくりあるいていった 桜の花吹雪が全裸のオレに降りかかった 花吹雪ののなかをオレはゆっくりあるいてゆく 公然猥褻(わいせつ)罪で逮捕するぞ 野暮なこといっちゃいけない オレにだって全裸で公然と闊歩(かっぽ)する自由はあるはずだ そのうち 全裸のオレはふわりと宙に舞いあがった 両腕に羽が生えたように軽やかに浮かびがった 全裸のオレのからだは軽やかに空中滑走をはじめた これはどこまでも飛翔(と)んでゆけそうだ どこまで飛翔することができるんだろうか オレは胸を膨(ふく)らませた すいすいと多摩川の上空を飛翔んでいった 上空から見下ろす下界にはチュウリップのお花畑が見えてきた 色とりどりのチュウリップの花が咲き乱れてた オレはすいすいと飛翔してゆく 見おろす多摩川の河川敷にはタンポポが黄色い絨毯(じゅうたん)を敷き詰めてる オレは黄色いタンポポの絨毯のうえにフィニッシュしようとトライする だが 風に煽(あお)られて着地をやりそこねた オレはおおきく蹌踉(よろ)めいた 蒼(あお)いおおきな湖にぶつかった もう ここから先へはすすめない オレは湖畔に降りたった オレのうしろでなにかがうごめいた オレの背後からおおきな黒い影がのしかかってきた あっというまにオレは蒼く底深い湖に突き落とされてしまった
わたしは『レム睡眠』の渕に沈鱗(ちんりん)していた 夢の世界からリアルなエリアに降りたった 昨夜は突然、目の異常に襲(おそ)われ、そのショックで寝つかれなかった なんども なんども 寝返りをうった 庭に放し飼いの鶏が鬨(とき)の声をあげた 一番鶏(どり)の鬨の声を聞いてうっと背伸びをし、がくんと全身の力を抜いた 全身が弛緩(しかん)していつのまにか蕩(とろ)けていった 熟睡はできなかった うつらうつらと『レム睡眠』の状態で他愛のないドリームにつき纏(まと)われた 天井をみあげる 天井のぐらつきはなかった 目は痛くも痒(かゆ)くもない
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