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作品名:いしこづめ 作者:花城咲一郎

第16回   機動隊の出動
 清津館の『桔梗の間』の床の間には野村画伯が描いた山水の墨絵
の掛け軸が掛けられている。
 その床の間の脇にはデラックスなテレビがおかれている。
 自分の座椅子にもどった山形検事はリモコンでテレビの電源をいれ、
テレビの画面をビデオの画面にきりかえた。
「それでは、いまから、機動隊の出動状況を開示しますから」
 山形検事はリモコンでビデオの操作をする。
 県警本部の機動隊が小松原郷に突入した当時のドキュメンタリーな
映像がテレビドラマのようにその画面に映写されはじめた。

〇 林道
  機動隊員を搭乗させた数台の装甲車が狭い林道を縫ってすすむ。
  隊列の最後部に黒塗りの公用車がつづく。
  林道の周辺は雑木林の樹海に包まれている。
〇 公用車の中
  滝沢検察事務官がハンドルを握っている。
  後部座席に山形検事と南雲県警本部長が凭れている。
〇 林道 
  ヘッドライトで照らしだされた林道を装甲車は進む。
〇 東の空
  朝焼けで東の空が明るくなってくる。
  やがて朝陽が山の端にのぼりはじめる。
〇 林道
  ヘッドライトを消した装甲車が林道をはしりつづける。
〇 小川の畔
  林道が行き止まりになったところに小川が流れている。
  装甲車が順次、林道の終着地点に停車する。
  装甲車から隊員が降りてくる。
  最後部の装甲車から隊員に付き添われ小榊賢一と幸恵が降りてくる。
  黒塗りの公用車から山形検事、滝沢検察事務官が降りる。
  そのあとから南雲県警本部長が降りてくる。
石川「ここで小休止とする」
 県警刑事部長の石川機動隊長が叫ぶ。
 隊員は清流で洗い流された砂利や石のうえに腰をおろす。
石川「30分間、自由行動で、軽食をとることにしよう」
 石川機動隊長は隊員に自由行動を許可する。
 隊員らは、背嚢をおろし飲料水や乾パンをとりだし食べはじめる。
 賢一と幸恵が公用車から降りた山形検事のところへ寄ってくる。
 山形検事は車のなかを覗き込み座席からショルダーバッグをもちだし、
 バッグのなかから乾パンの袋をとりだす。
山形「賢一君、乾パンをどうぞ」
 両手をさしだした賢一の手の皿に乾パン数個を載せる。
山形「幸恵さんもどうぞ」
 幸恵の白い手の皿に乾パンを数個載せてやる。
賢一「此レア、『カンパン』言ウモンデアスカ。俺ア食ッタ事ネエダデ」
幸恵「郷ニア、コゲエナ食べ物ア、有リアセンダ」
 賢一も幸恵も食べることを戸惑い、きょろきょろ周囲を見まわす。
賢一「俺ア、『カンパン』言ウノア、初メテダデ。食ッテモ大丈夫デアスカ」
山形「大丈夫だよ。ほら、隊員たちはみんな食べてるでしょう」
 山形検事は苦笑する。
 賢一も幸恵も隊員らの食べっぷりをきょろきょろ見まわす。
賢一「其レデア、戴キアス」
 賢一は恐るおそる乾パンをくちにいれる。
幸恵「アタイモ戴キアス」
 幸恵も乾パンを頬張る。
 南雲県警本部長が、長髪を肩まで垂らした賢一の個性的な風貌と
艶やかな幸恵の姿態を見つめて微笑む。
山形「ところで、賢一君。ここから先はテクシーでゆくしかないが」
賢一「アノォ。『テクシー』ッテ何ンノ事デ有リアスカ」
 怪訝な顔をした賢一は首を傾げる。
山形「ごめん。テクシーとは歩くことの別語だ。もはや車は効かないから
 ここからは歩くしかないが。熊の峠までの道筋はわかるかな」
賢一「ハイ。道ハ有ッテモ無エヨウナモンデ御座エアスダガ。只、熊ノ峠
 ノ麓ニア、此ノ川ト同ジグラエナ川ガ有リアスケイエニ。此ノ川ニ沿ッテ
 登ッテ行ケバ、熊ノ峠ニ辿リ着キアス筈ダガ。ソウ思イアスダガ」
山形「なるほど。この川を遡ればいいわけか」
賢一「ハイ。然様デ御座エアスダガ」
幸恵「其レニ、熊ノ峠ノ頂上ニア、背ノ高エ一本杉ガ生エテ居アスケエニ。
 遠くカラデモ見エアスダガ」
山形「ほう。一本杉ね。その杉の木をターゲットにすればいいわけだ」
 石川機動隊長が寄ってきた。
石川「本部長。今の話、聞こえました。一本杉が目標ですな」
南雲「ああ。そいうことだ。そろそろ行軍開始だ」
石川「わかりました。行軍にかかります」
 挙手の敬礼をした石川は、隊員らの方向に向き直った。
石川「全員、集合 !! 携帯品は背嚢と小銃だけだ」
 隊員は装甲車にもどり、小銃を手にして川原に集合する。
石川「桑原と河田はここに残留して装甲車をまもること」
桑原「はい」
河田「はい」
 桑原隊員と河田隊員は駆け足で装甲車にもどる。
石川「小榊君と幸恵さんは自分に寄り添って道案内してください」
賢一「ハイ。解カリアシタ」
 賢一と幸恵は石川隊長の傍に駆け寄る。
石川「出発 ! 」
 賢一は先頭に起ち川の流れに沿って川原道を歩き始める。 
 幸恵は賢一のあとにしたがう。
 石川隊長が陣頭指揮をとる隊列は川の上流に向かって前進し
てゆく。数十名の隊員が足並みをそろえる。
 隊列の最後部に山形検事、滝沢検察事務官、そして南雲県警本部長
 がつづく。
〇 天空
  谷間から見あげる天空は両岸の山に挟まれ狭くなっている。
  その天空に朝陽が昇ってくる。
〇 川原道
   小川に沿って隊列がつづく。
   歩く賢一。そして幸恵がクローズアップされる。
   賢一が一歩一歩足を踏み締めて前進する。  
   幸恵が懸命に賢一のあとを追う。。
〇 山形検事の顔
  山形検事の顔がクローズアップされる。
〇 川原道  
  山形検事が隊列の後部で歩きつづける。
  隊列の先頭で賢一が急に起ち止る。
賢一「アッ ! 見エテキマシタ。一本杉ガ」
幸恵「アレガ一本杉ダワ」
石川「一本杉が見えてきたか。もうすこしだ。がんばろう」
〇 川原道
  機動隊の隊列がつづく。
〇 天空
  太陽がさらに高く昇っている。
〇 熊の峠の麓
  熊の峠に隊列が辿りつく。
賢一「此処ガ熊ノ峠デ御座エアスダガ。隊長サン」
石川「案内役ご苦労さまでした」
  隊員が順次、山麓に到着する。
石川「ようし。ここで小休止だ。放尿は藪のほうに向かって放水こと」
  隊員のなかからどっと笑い声が沸き起こる。
  隊員は小銃を数挺ずつ縦に組あわせて相互に立て掛ける。すると、
  きれいに叉銃(さじゅう)の態勢ができあがる。
  隊員は各自、草むらに腰をおろし休息する。 


 清津館には夜の帳(とばり)がおろされ静寂の渕に沈んでいた。

 襖がそっと開いて『桔梗の間』に和服姿の仲居が料理をはこんできた。
 反射的に山形検事は、リモコンでビデオの電源をきった。
「ご飯をおもちしました」
 仲居は微笑みながらお櫃をテーブルのうえに載せる。
「ご飯は、先生方のご都合のよろしいときに、ご自分でよそってお召し
あがりください。ごゆるりと」
 若い仲居は三つ指をついて『桔梗の間』から消えてゆく。
「それじゃ。ここで小休止して、飯にしよう」 
 椿弁護士は座椅子から身を乗りだし、お櫃を引き寄せ、ご飯をお椀に
よそり、お櫃を山形検事のまえにまわす。
「そうだね。冷めないうちに飯にするか」
 山形検事はお櫃の蓋に手をかけた


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