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作品名:いしこづめ 作者:花城咲一郎

第14回   豪雪のハネムーン
 椿家の邸内では、新雪を被ったツバキの葉が雪明りのなかにうっ
すらと浮かびあがっている。
 宵のうちから一面の銀世界を照らしだしていた寒月は遥か西の
妙高山に沈み、かんと冴えた冬の夜空には、ちかちかと星がまたた
いていた。
 
 離れ家の日本間では、おおきな掘り炬燵をかこみ、心理的構造が
顕著に対立する男女がビールを酌み交わしながら語りつづけていた。
「このまま小松原郷にもどることは、なんとしても」
 林太郎は賢一と幸恵の顔を見比べた。
「避けなければならない。しばらくの間は小松原郷のそとに滞在して
いたほうが安全でしょう。そして、なるべく早く、新潟地方検察庁および
新潟県警本部との合同捜査を開始し、幻の王国ともいうべき小松原郷
にメスをいれるべきではないかな。こうしている間にも、郷民の誰かが
『石子詰』の刑によって処刑されているかもしれない。そうだとすれば、
これ以上、犠牲者をだしてはならない。早急に手を打たなければなら
ない。日本国の主権が事実上は排除されているような無法地帯は、
一刻も早く解消されなければならない」
「たしかに、そのほうがいいかもしれないが。小松原郷は」
 山形検事は、林太郎のグラスにビールをそそぎながら、問題となる
可能性がたかい事項の指摘をはじめる。
「元日本陸軍の歩兵銃で武装されているらしから、小松原郷に乗り
込むとすれば、県警本部の機動隊を出動させなければならない。
しかし、この豪雪では、車はうまく効かないだろう。したがってきわめ
て困難な捜索になることだけはたしかだ」
「そうだね。新里村の清風山部落までは、真冬でも除雪車を出動さ
せているから車もはいれる。しかし、清風山部落から地元では深山
といわれる山奥の熊の峠までは車もむりというしかない」
 グラスにビールを受けながら林太郎は、つけ加えた。
賢一『一体、“キドウタイ”トハドンナ部隊ナンダロウカ。其ノ得体
ノ知レ無エ怪物ガ郷ニ突入スル事ニ成ルカモシレネエ。若シモ、
ソウナレバ俺アガ生レ育ッタ小松原郷ア壊滅シテ仕舞ウカモ
シレネエダ』
 賢一は胸のなかでいい知れない不安に駆られた。
幸恵『其ノド偉イ部隊ガ郷ニ攻込ンデ来タナラバ、郷民ア、一人
残ラズ殺サレテ仕舞ウカモシレナイ。此レア、大変ナ事ニ成ル。
ソウ成ッタラ、ドウシヨウ』
 幸恵の胸のうちでは鼓動がたかまった。
「エエト。今ノ先生方ノ」
 賢一は心配そうに山形検事の顔を覗き込んだ。
「オ話ニ出テ来タ“キドウタイ”言ウノア、鉄砲デ装備サレテルンデ
御座エアスダカ」
「ええ。そもそも機動隊というのは」
 山形検事はおおきく鋭い目をした賢一と視線をあわせた。
「非常事態が発生して、止むに止まれぬ事情がある場合に、事件に
巻き込まれた被害者や市民を救出したり、撹乱された巷の平穏を取り
戻すために、特別に出動される特殊警察隊ですから、もちろん武装
されてます」
「ホウ。然様デ有リアスダカ。ソウスルテエト」
 賢一は厳しく警告する姿勢になった。
「少ナクトモ、“キドウタイ”ガ熊ノ峠ノ頂上ニ到達スルト、銃撃戦ニ成リ
アスダガ。若シモ銃撃戦ニ成レア、此ノ深エ積雪ダスケエ。銃声ガ引金
ニ成リ、忽チ雪崩ガ起ッテ、大変ナ危険ニ曝サレル事オバ覚悟セニア、
成リアセンデ御座エアスダガ。決シテ雪崩オバ起シテア成リアセエンダ」
「なるほど。そうかもしれない」
 林太郎は、おおきく鋭い賢一の目を凝視した。
「たしかに、銃声による雪崩の危険は十分に考えられる。そうだと
すれば、慎重に対処しなければならない」
「今、直チニ、例ノ『キドウタイ』ヲ出動サセテ郷民ヲ救ッテ戴ク事ア、
本当ニ有難インデ有リアスガ。雪崩ノ危険ガ解消サレル5月上旬迄、
『キドウタイ』ノ出動ア、延期シテ貰エネエデアスダカ」
「そうだね。小松原郷への突入を強行するにしても、二重遭難だけは
避けなければならない。そうだとすれば、融雪を待って5月上旬ごろ
まで、機動隊の出動は延期するしかあるまい」
 と、山形検事は腕を組んで天井をみあげた。
「それでは山形検事」
 林太郎は山形検事のグラスにビールをそそいだ。
「とりあえず一応のところ、5月上旬をメドに新潟県警本部と連絡を
密にして、新潟地方検察庁との合同捜査の準備をしてくれないか。
小松原郷といえども、日本国の統治権がおよぶ地域である以上、
捜査のことは日本国の捜査機関に任せるしかない」
「そうだね。考えておこう」
 山形検事は林太郎のグラスにビールを注いだ。
「そうすると」
 林太郎は賢一と幸恵の顔を見比べた。
「ことしの5月ごろの融雪の季節まで、君たちはどうするかね。わしが
新里村の役場に出向いて、福祉課あたりに掛け合い、君たちの生活
を援助するように手続きをとることにしてもいいんだがな」
「ハイ。イロイロト」
 長髪を肩まで靡かせた賢一は、戸惑いの表情になった。
賢一『此ノ儘、郷ニ戻レア、石子詰ノ刑デ処刑サレテ仕舞ノガオチダ。
ダトスレバ新里村ニ逗留スルシカ生キ延ビル道アネエダガ。ドウシタ
ラ良イカナア。俺アニア、百姓ノオ手伝イグレエシカ出来ネエダガ。
椿家ニデモ雇ッテ貰エレア幸チャント一緒ニ暮セルカモ知レネエダ』
 賢一は胸のなかで呟いた。
「御配慮有難ウ御座エアスダ。幸チャン、ドウシタラ良イベカ。ドウシタ
ラエエカナ。本当ニ迷ッテ仕舞ウ」
「アノサア。今、オ世話ニ成ッテ居ル、此処ノ」
 幸恵は愛狂しいまなざしを林太郎に向けた。
「椿家ニ余ンマリ長エ間、滞在シ、オ世話ニ成ル事ア、御迷惑デショウ
カラ、椿先生ニ助ケテ戴イタ彼ノ山小屋ヲ御借リシテ、二人デ力ヲ合ワ
セ、何トカ、5月上旬頃迄、過ゴス事ニシタラドウカシラ。アタイア、其ノ
方ガエエト思ウワ」
「なるほど。そのほうが周りにも気兼ねは要らないし、いいかも」
 林太郎は細い狐目の瓜実顔を見返した。
「たしかに、その」
 山形検事は自分のグラスにビールをそそいだ。
「あの山小屋で逗留するのは妙案だが。新里村役場の福祉課を説得
するのは疑問だ。それはちょっとむりじゃないかな。新里村の住民とし
ては登録すらされていないんだから」
「まあね、いわれてみれば」
 林太郎は腕を組んで天井を見あげた。
「いろいろと問題が残る。そもそも小松原郷の住民は、幻の里の住民
として、郷の外とは久しく交通が途絶えていたというし。それに、まず何
よりも、出生届もなされていないはずだ。つまり戸籍簿にも名前が記載さ
れていないし、まして住民登録もなされていないはずだ。そうだとすれば
山形検事が指摘したように、新里村役場を説得するのは、かなり困難か
もしれない。さて、どうしたらいいものかな。これはたしかに難問だ」
 林太郎はおもわず溜め息を吐いた。

 深夜の日本間では、しばらく沈黙がつづいた。
 小榊賢一は、肩まで垂れた長髪を両手で掻きあげた。ふうっとおおきな
溜め息を吐いた。
 連鎖反応のように小榊幸恵も深い溜め息をする。
 静寂の淀んだ日本間に、どさりとなにかが落下したような重みのある音
がつたわってきた。
「庭に生えている桧の枝に降り積もった雪が崩れ落ちたようだ。雪国なら
ではのムードだな」
 林太郎は独り言のように呟き、窓のほうに視線をうつした。
「オ受ケシタ御恩ハ、必ズ」
 賢一は炬燵から抜けだし、畳のうえであとじさりした。
「オ返シ致シアスケエニ。5月上旬頃迄ノ食料品ト寝具ダケ、オ借リ願エ
アスデショウカ。此ノ通リ伏シテオ願エ致シアスダ」
賢一は両手をついて畳に額を擦り付けた。
 幸恵も炬燵から抜けだし、両手をついて畳に白い瓜実顔を擦り付けた。
「よくわかりました。それでは5月上旬までの食料品として、米、味噌、醤油
その他の調味料野菜類など数ヶ月分の食料品は、弟の林次郎に山小屋
まではこんでもらうことにしましょう。それに寝具ですが。その昔、父母が
生前に使っていたものがある。絹織物で造った絹布の布団が土蔵のなか
の大箱に保存してあるはずだ。この布団も了解を得て山小屋まではこんで
もらいましょう。これで決まりだ。さあ、かなり冷え込んできたから、炬燵に
はいりなさい。そうと決まったら、熱いコーヒーでも飲んで、温まったところ
で寝むことにしましょう」
 林太郎は炬燵の脇のテーブルでインスタントコーヒーを炒れる。
「さあ。熱いうちにどうぞ」
 4人分のコーヒーを林太郎は炬燵板のうえにさしだした。
「それでは、いただくとするか」
 山形検事はコーヒーカップを引き寄せた。
「戴キアス」
 賢一はコーヒーカップに手をかけた。
「其レデア、戴キアス」
 幸恵も白い手でコーヒーカップを引き寄せた。
 みんな、ふうふう吹きながら熱いコーヒーをすすった。
「お疲れでしょうから、どうぞ」
 林太郎は賢一と幸恵を見比べた。
「二階にあがって寝んでください。二階にも炬燵がありますし、その
奥の部屋には布団も敷いてありますから。さあ、どうぞ。ごゆっくり」
「其レデア、寝マセテ貰エアスダ」
 賢一は起ちあがり廊下へでてゆく。
「オ寝ミナサイアシ」
 白い瓜実顔に微笑を残し、幸恵も賢一のあとを追った。
「そいじゃ、わしらも寝むとするか」
 林太郎は襖を開け、布団が敷かれた隣室へはいってゆく。
 そのあとを追うように山形も襖の奥へ消えていった。

椿家離れ屋二階の十畳間に襖を開けて賢一がはいってくる。
 ほんのりと藺草の香りがする青畳を敷き詰めた日本間が黄褐色を
した2色の電灯でエロチックなムードを醸しだしている。
 階段を登る足音の軋りが消えて幸恵がはいってきた。
「アラ、素敵ナオ部屋ネ」
 幸恵は突然、青畳のうえで仰向けになった。交尾して受精をおえた
ばかりの猫のように、ごろごろ寝転がり背中を青畳に摺りつけ、子供
染みて大袈裟にはしゃいだ。
 賢一は幸恵のセクシーな仕草をみてみぬふりをした。
「炬燵デ少シ温マル事ニシヨウ」
 賢一は掘り炬燵のなかに足を突っ込んだ。
「幸チャンモ炬燵ニ入ッテ」
 賢一は背中を丸め両腕を炬燵に突っ込み目を瞑った。
 幸恵は起きあがり賢一の背後から彼の顔を両手で包み、いきなり
逆さ接吻をあびせた。
 賢一は背筋を延ばし、うしろに身をゆだね、幸恵のなすがままにした。
 
 しばらく深夜の逆さ接吻はつづいた。

 幸恵は賢一から唇を離した。目を瞑った賢一の瞼を幸恵は赤い舌で
ソフトに愛撫しはじめる。
「モウ、ヘトヘトニ疲レテ居ルカラ、今夜ハ此処マデニシテオコウ」
 賢一は独り言のように呟いた。
「ワカッタワ。ソウシマショウ」
 幸恵は賢一から離れ、差し向いで炬燵に足を入れ、背中を丸め両腕
も炬燵布団のしたに突っ込んだ。
「良くマア、凍エ死ナナカッタモンダネ」
 目を瞑ったまま幸恵は呟いた。
「皆ナ、椿先生ノオ陰ダワ」
 幸恵はふうっと深い溜め息を吐いた。
「山小屋ノ近クデア、熊ト思ワレ、危ク撃殺サレルトコロダッタ」
 賢一も深い溜め息を吐いた。
「天井カラ吊サレタモンガ『デンキ』言ウモンラシイ。一階ノモンハ、モット
明ルカッタガナア。此処ア、何デ黄褐色ナンダロウ」
 賢一は天井から吊るされた蛍光ランプを見あげる。
「何故ダロウカ。オカシイワネ」
 幸恵は起ちあがった。
「アラ、コンナモンガブラサガッテルワ。此レア」
 首を捻りながら幸恵は蛍光灯から垂れさがる黒い紐を下に引いた。
 途端に十畳間はぱあっと明るくなった。
「此ノ紐ガ『魔法の紐』ナンダワ」
 幸恵はもういちど紐を引っ張った。部屋は2色の灯かりにもどった。
「便利ナモンヤナア。『魔法の紐』チュウ言ウモンハ」
 賢一は起ちあがり、黒い紐を下のほうに引いた。
 ふたたび部屋は明るくなった。
「此ノ『デンキ』言ウモンア、石油ランプト違イ匂モナイシ、エエモンヤ」
 幸恵は炬燵に潜り込んだ。賢一も炬燵に潜り込んだ。
 ふたりとも綿のように疲れきっていた。
 いつのまにか、こっくりこっくり転寝(うたたね)がはじまった。

 窓の外でどさりと重い音がして賢一は目覚めた。
「木ノ枝カラ、積モッタ雪ガ落下シタラシイ」
 賢一は目を擦った。
「幸チャン。モウ布団ノ中ニ入ロウ」
「アタイ。モウ起キレナイ。アタイヲ抱ッコシテ」
 幸恵は賢一に甘えた。
「其レデア、隣ノ部屋デ寝ミマショウ」
 賢一は襖をおおきく開けた。
 隣室には二組の布団が敷かれていた。
「サア。幸チャン」
 賢一は長髪を揺らせ、幸恵を抱きあげ隣室へはいってゆく。
 隣の十畳間に幸恵を抱えた賢一が入ってくる。幸恵を布団に寝かせ、
やさしく掛け布団を掛けてやる。
 賢一は幸恵の隣に敷かれた布団に潜り込んだ。

 椿家離れ屋二階の日本間には黄褐色の2色のランプが灯されている。
 二組の布団では賢一と幸恵が眠りこけていた。
 寝返りをうった賢一は軽い鼾をかきはじめる。
 幸恵は、すやすや眠りの渕に溶け込んでいる。

 六角形の縁取りをした古い文字盤の柱時計の長針がぴくりとうごいた。
ぼんぼんと柱時計が4つ鳴り響き午前4時を告げる。
 庭に植え込まれた桧の枝から降り積もった雪が崩れ落ち、どすんと重い
物音がして、二階にまでつたわってくる。
 物音で賢一は目を覚ました。 
 起きあがった賢一は襖を開けて廊下にでた。賢一はトイレに向かった。
 賢一がトイレから帰ってくると幸恵も目を覚ましていた。
「アタイモ行ッテ来ルワ」
 幸恵は襖をそっと開け廊下へ消えてゆく。
 
 賢一は黄褐色の灯かりのなかで、目を開け天井を見あげていた。
 すうっと襖が開いて幸恵がもどってきた。
 幸恵は自分の布団には入らないで賢一の枕元に屈みこんだ。
「入ッテモイイ」
 幸恵は賢一の額に白い手を載せた。
「アア。待チ遠オシカッタ」
「嬉シイワ。アタイ、ホントニ」
 賢一は掛け布団を剥いだ。
 幸恵は丹前を脱ぎ捨て賢一の左側にそっとしなやかなからだを寄せた。
 ふたりは天井を見つめた。
「幸チャン。眠レタ」
 賢一は幸恵にやさしく声をかけた。
「夢モ見ナイデ。グッスリ眠ッタワ」
「俺モダ。石子詰デ処刑サレル夢ヲ見ルカト不安ダッタガ」
「此ンナ綺麗ナオ部屋デ、此ンナ素敵ナオ布団デ眠ッタノ、初メテダワ」
「普段、郷デア、万年床デ、汗臭エ布団ニ入ッテルスケイニ」
「本当ダワ。マルデ夢ミタイ」
「幸チャン。アノナ。ソノォ」
「賢チャン。ドウシタノ」
「俺ア、未ダ、女ノ抱キ方ヲ知ラネエダ」
「知ラナクテモ大丈夫ダワ。アタシガ教エテアゲル」
「幸チャン。男ニ抱レル時ノ抱レ方、知ッテンノ」
「知ッテルワ」
「男ニ抱カレタ事アルノ」
「マサカ。アタシノ総テヲアゲルノア、賢チャンダケヨ。決ッテルジャナイ」
「ダッタラ、ドウシテ又、夜ノ作法ヲ知ッテルノ」
「ホラ。山小屋デ話シタデショウ。姉ガ『オ篭り』デ郷祭司サマカラ夜ノ作法
ヲ伝授サレタト言ウ事ニツイテ。ダカラ、アタシア、其ノ総テヲ姉カラ教ッタノ。
ダカラ、賢チャン、知ラナクテモ大丈夫ダカラ」
「其レデ、安心シタ。手取リ、足取リ、チャント教エテクレネエカ」
「ワカッタワ。ソレジャ」
「一等最初ハ、何処カラ始メルノ」
 賢一は幸恵の方にからだを向けた。
「先ズ女ノ髪ノ毛ニ優シクスルノ」
「優シクスルッテ、ドンナ遣リ方デ」
「ドンナッテ。両手デ優シク髪ノ毛ヲ撫デタリシテ愛撫シテアゲルノ」
「其レデ、其ノ次ハ」
「目ヲ瞑ッタ女ノ瞼ニ優シクスルノ。舌デ愛撫スルノ」
「ソシテ、ドウナルノ」
「瞼ノ次ア、耳タブニ優シクシテアゲルノ。耳ノ穴迄。舌デ愛撫スルノ」
「其ノアトハ」
「今度ア、女ノ両方ノ乳房ニ優シクシテアゲルノ」
「男ダッテ、乳首ハ感ジルモンナア」
「ソウナノ。乳房ヤ乳首ア、性感帯ナンダワ」
「恐ラクネ。其ノ次ハ」
「ソシテ女ノ脇腹ヲ優シク、撫デサスッテアゲアス」
「ツマリ、体ノ上ノ方カラハジメテ、段々下腹部ノ方ヘ手ヲ差伸ベテ行クトイウ
手法ミタイダナ」
「ソウナノ。ダカラ、脇腹カラ下腹部ノ肝心要ノ女ニトッテ一番大事ナ性器以下ノ
愛撫ノ仕方ハ省略スルワ。賢チャンガ後デ実際ニアタシヲ愛撫スル段ニ成ッテ
カラ具体的ニ教エテアゲルワ。兎モ角、頭ノ天辺カラ足ノ先マデ。愛情ヲ込メテ
優シクシテアゲルノ。体ノ皮膚ヲ触レ合ッタリ、唇ヲ触レタリ、舌デ嘗メマワシタリ、
イロイロナ方法ガアルンダワ」
「成ル程。ソウ言ウ事カ」
「マアネ。賢チャン、ソロソロ、アタシヲ抱イテミテ」
「ソレジャ。先ズ最初ニ」
 幸恵は向き直り、賢一の胸のなかに顔を埋めた。
 賢一は、いくらか慄えながら幸恵の顔を両手で包み、白い瓜実顔の黒髪を
愛撫しはじめた。
 稀にみる豪雪のなかのハネムーンだった。


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