夜の更けた椿家の邸内は、ひっそりと鎮まりかえっていた。 生垣として植え込まれた、黒緑色のツバキの葉に白く積もった雪の 笠が蒼い月光に浮かびあがった。 重厚な茅葺屋根の母屋は、分厚い木製の雨戸も締めきられ、寝静 まっていた。 蒼い月光と白い雪明りで、椿家の邸内に浮かびあがった離れ家だ けは、鎧戸もおろさないで煌々と電灯が輝いている。 離れ家の日本間では、おなじ大和民族の血がながれているのに、 その心理的構造が顕著に異なる男女がビールを酌み交わしながら かたりつづけている。 「ところで、そのぉ」 林太郎は、炬燵板のうえに載せられた重箱から、金平牛蒡を箸で 小皿に移した。 「小松原郷御定書第13條に規定されている『石子詰』の刑は、どんな 処刑方法になっているのでしょうか。その刑の執行をご覧になったこと がありますか」 「ハイ。其ノ『石子詰』ノ刑ノ執行ア」 胸を張っていた小榊賢一は炬燵板のうえに目をおとし俯いてしまう。 「其ノ刑ノ執行ガ為サレル時期ニ生存シテ居タ郷民ナラバ、誰デモ皆 ンナ刑ノ執行ヲ見ル事ガ義務付ケラレテ居ルノデ御座エアスダ」 「そうですか。そもそも『石子詰』の刑は、沿革的には古い時代の私刑 で、国家による刑ではありません。部族の長や家長がその集団の構成 員を処罰する『私的』な刑罰でした。この刑は、罪人を生きたまま穴の 中に入れ、その上から小石を詰め込み、生き埋めにしてその生命を奪 うという残虐な刑罰とされています。たとえば、わが国の例では春日神社 の鹿を殺した者が『石子詰』の刑に処せられたとされております」 林太郎は金平牛蒡に箸をつけた。 「然様デ御座エアスカ」 小声でこたえた賢一は、いっそう肩を窄めてしまった。
林太郎『この青年は急にしょげ込んでしまった。なぜだろう。しょげ 込んだのはなぜだろう。石子詰めの刑の執行のはなしになったせ いだろうか。もし、そだとすれば、その刑の執行に対しては、強い 抵抗感をもってるのかもしれない。おそらくそだろう』
しばらく沈黙がつづいた。 「そうすると、その」 林太郎は遠慮がちに炬燵板のうえに目をおとしたままきりだした。 「小松原郷における『石子詰』の刑の執行も、罪人を穴に入れ小石 を詰め込み、埋め殺すという執行方法ですか」 「椿先生。『石子詰』ノ刑ノ執行ニ就イテア、俺ア、余リ話シタクア有リ アセンダ」 戸惑いがちに、賢一は俯いたままだった。 「それはまた、どうしてですか」 林太郎は俯いたままの賢一を見据えた。 「ハイ。俺アガ一番親シカッタ郷民学校ノ同級生ガ俺アノ目ノ前デ処刑 サレ有シタケエニ。彼ノ時ノ惨イ情景ア、二度ト想イ出シタクア有リアセ ンダ。ソウダスケエニ。ハイ」 俯いたまま賢一は右手で目頭をおさえる。 「なるほど。そうでしたか。そういうご事情がおありでしたか」 「ハイ。ソウダスケエニ。澄イアセンガ其ノ話ニ就イテア、幸チャンニ話 サセアスケエニ。澄イアセン。椿先生、本当ニ澄イアセン」 賢一は肩まで垂れさがる長髪を波打たせ、ぺこりと頭をさげた。 「わかりました。それでは」 林太郎は両腕を組んで宙を見つめる。 「ここから先は幸恵さんに、おはなしねがいましょうか」 「ハイ。幸チャン。見タ通リノ有リノ儘ヲ話シテ。俺ア我慢スルスケエ」 「ええと。それでは」 林太郎は、細い狐目で白い瓜実顔の幸恵に視線をうつした。 「選手交替で、幸恵さんにうかがいますが。まず小松原郷における 例の『石子詰』の刑の処刑場はどこになっていますか」 「其レデア、アタシカラオ話シサセテ戴キアスダ」 幸恵は、柿色に漆を塗りこめた炬燵板のうえに目をおとし歯切れ のいい声で語りだした。
幸恵『其ノ処刑場ア、山神大社カラ二百メートル程、坂道を登ッタ 山ノ中腹ニナッテ居アスダ。処刑場ア、山ノ中腹ヲ切崩シテ造成シ タ平地デシテ、其ノ周囲ア、竹矢来デ囲マレテ居アスダガ。竹矢来 ノ外ニア、観覧席ノヨウナ杉丸太デ造ラレタ長椅子ガ有リアスダ。 郷民ア、其ノ長椅子ニ掛ケサセラレ、処刑ノ一部始終ヲ観覧スル 事ガ義務付ケラレテ居ルノデ御座エアスダ。其レト言ウノモ郷民 ヘノ見セシメノ為デ有リアスダ』
そこまで語った幸恵は、いかにも忌々しそうに、炬燵板のうえで 白い手を握り締めた。 「おっしゃるとおりですね。そのように」 林太郎は幸恵に同情のまなざしをおくる。 「郷民に対し、処刑の現場を見るように義務付けているのは、たし かに見せしめのためでしょう。そうした見せしめのための刑の執行 方法を採る刑罰を『威嚇刑』といいます。たとえば江戸時代における 『市中引き回しのうえ磔獄門』というのも『威嚇刑』の一態様でした。 つまり罪人は、このようにして処断されるのだという、厳しい現実を 市民の目の当たりに見せつけることによって、市民を威嚇し、刑罰 の効果を高めようとするわけですな。このような刑の性格に着目して 『威嚇刑』と呼んでいるわけです。小松原郷の場合も郷民を威嚇して 刑罰の効果を高めようとする狙いがあるのでしょうな」 「然様デ御座エアスカ」 ちらっと林太郎を見た幸恵は、炬燵板のうえに目をおとし、ふたたび かたりだした。
幸恵『兎ニ角、其ノ処刑場ノ周囲ア、鬱蒼トシタ密林ニ囲マレテ居アス ケエ。恐ラク上空カラア、見エ難ク成ッテ居ルノデア無エカト想ワレアス ダ。『石子詰』ノ刑ガ執行サレル日ニア、山神大社ノ『オ籠リノ館』ノ館番 ガ、カンカント板木ヲ叩キ鳴シアスダ。カンカント板木ガ叩キ鳴サレアスト 郷民ア、老モ若キモ一斉ニ、処刑場ヘ向ッテ坂道ヲバ駆登リアスダ』 幸恵は白い両手の拳で、忌々しそうに炬燵板をこつんとたたいた。 「そうですか。まるで」 山形検事は、幅の広い肩を揺すって深い溜め息を吐いた。 「そのぉ。時代劇のシーンを見てるような光景ですな」 「然様デ有リアスカ。其レデア、話ヲ続サセテ戴キアス」 幸恵は伏目がちに、ふたたび語りだした。
幸恵『罪人ア、後手ニ縛ラレ、処刑番ニ追回サレルヨウニシテ処刑場 ニ連行サレテ来アスダ。罪人ノ身内ノ者ア、泣喚キアスダ。別ニ二人ノ 処刑番ア、深サ一メートル程ノ穴ヲ堀リアスダ。罪人ア目隠シサレテ居 アスダ。其ノ上、罪人ア、地ベタニ座ラセラレアスダ。座ラサレタ儘ノ姿勢 デ両方ノ下肢ト両方ノ股ア、藤蔓デ綯ッタ荒縄デ確リト縛ラレテ居アスダ。 其レ迄、縛ラレテ居タ後手ノ縄ア解カレテ、新タニ藤蔓デ綯ッタ荒縄デ縛 リ直サレアスダ。ソウナルト最早、罪人ア、身動キ一ツ為ル事ガ出来ナク 成リアスダ。観覧席ノ長椅子ニ掛ケサセラレタ郷民ア、ドウナル事カト固唾 ヲ呑ンデジイット見守リアスダ』
「なるほど。それで、郷祭司は処刑場に来ているのですか」 林太郎は、細い狐目の白い瓜実顔を覗き込んだ。 「ハイ。郷祭司サマア、アノ」 幸恵は強力になにかを訴えでもするように、じいっと林太郎の顔を凝視 するのだった。 「処刑場ノ一番奥ノ白木造リノ座席ニ腰掛ケアシテ、処刑ノ状況ヲ監視シテ 居リアスダ」 「そうですか。すると『石子詰』の刑の処刑は、その後どうなるのですか」 「ハイ。続ケサセテ戴キアス」 小榊幸恵は伏目がちになり、ふたたび語りだした。
幸恵『両足ト両手ヲ縛ラレテ、身動キ一ツ為ル事ガ出来ナク成ッタ罪人ヲ 四人ノ処刑番ア、掘リ終エタ穴迄、運ビアスダ。処刑ア大キナ山場ニ成リ アシタダ。観覧席ニ動揺ノ渦ガ竜巻ノヨウニ湧キアスダ。其リャモウ文字 通リノ阿鼻叫喚 !! イイヤ、言葉デア言イ表セナイ情景ニ成リアスダ。見ル モ悲惨ナ光景デ有リアスダ』
幸恵は零れかけた涙を白い右の手の拳で拭った。 「目を背けたくなるような悲惨な光景ですな」 山形検事が幅の広い肩を揺すって溜め息を吐いた。 「ハイ。其リアモウ」 炬燵板のうえに目をおとし、ふたたび幸恵はかたりだした。
幸恵『何ントモ言イヨウノ無エ、筆舌ニ盡シ難エ光景デア有リアスダ。 其レデ四人ノ処刑番ア、目隠シサレ、両足ト両手ヲ縛ラレ身動キ一ツ 為ル事ア出来ネエ罪人ヲ穴ノ中ニ運ビ込ミアスダ。恰モ死者ヲ葬ル時 ノヨウニ、生キテ居ル生身ノ人間ヲ穴ノ中ニ埋メルノデ有リアスダ。未ダ 脈々ト赤イ血ガ通ッテ居ル生身ノ人間、心ノ臓ガ刻々ト脈打ッテ居ル人間、 未ダ肺臓ガ呼吸シテ居ル人間、其レヲ其ノ儘、穴ニ生メテ仕舞ウノデ有リ アスダ。此レ程、惨イ話ガ有リアスダカ。罪人ヲ穴ノ中ニ入レルト、今度ア、 四人ノ処刑番ア、罪人ノ周リニ小石ヲ投込ミアスダ。小石ア、罪人ノ頭ヤ 顔ニモ命中スル事モ有リアスダ。小石ガ顔ニ命中スルト赤イ血ガ噴出シ アスダ。真ニ残酷ナ話デ有リアスダ。郷民学校デア、人ヲ殺シテアナラネ エト教リアシタ。所ガ刑ノ執行ト言ウ只、其レダケノ理由デ、未ダ生キテ居ル 人間ノ手足ヲ縛リ、穴ニ入レ、小石ヲ詰メ、長イ時間ヲカケテ人間ノ生命ヲ 断絶為ルトイウノア、ドウ見テモ納得スル事ア出来アセンダ。人ヲ殺シテア ナラネエト教エテオキナガラ、ワザワザ郷民ヲバ呼ビ集メテ、皆ガ見テル 目ノ前デ人ヲ殺スト言ウ事ア、全ク矛盾シテ居リアスダガ。此ノ事ア、何時、 何処デ、誰ガ考エタッテ明ラカニ矛盾ヲ孕ンデ居ルトシカ言エアセンダ』
そこまで語りつづけた幸恵は、白い右手の拳で瓜実顔の額を叩いた。 「ネエ。椿先生 ! ソウジャ有リアセンカ」 「おっしゃるとおりです。まさに」 林太郎は白い瓜実顔の細い狐目に視線をあわせた。 「人を殺してはならないという規範を定律し、そのような教育まで 施しておきながら、その規範の定律者みずから人を殺すというこ とは、その行為の現象面に着目すれば、たしかに一種の矛盾を 孕んでおります」 「ネエ。椿先生。ソウデ御座エアショウ」 「ええ、まあ。その行為を現象的に見るかぎり、一種の矛盾は払拭 しきれません。この点については、日本国刑法も、その第199条で 『人を殺した者は、死刑又は無機若しくは3年以上の懲役に処する』 と規定しております。そして刑法第11条第1項では『死刑は監獄内 において、絞首して執行する』と規定しているのです。このように刑法 は、一方において殺人を犯罪として重く処罰しておきながら他方にお いて死刑の執行として、受刑者の生命を断絶することを明文で容認 しているわけです。死刑の執行と雖も人を殺すことに変わりはありま せん。ですから現象的・形式的にみれば、これらの規定は二律背反 として矛盾しているようにも考えられます」 「ソウデ御座エアショウ。先生」 幸恵は、怒りを込めたように激しい口調で捲くし立てた。 「エエト。『人ヲ殺シテア、成りリアセン』ト言ッテオキナガラ、人ヲ殺ス トイウ事ア、誰ガ考エタッテ矛盾シテ居リアスダガ」 「ええ。現象的にみれば、たしかに矛盾しているわけです。そこで刑法 学者は、この矛盾を解消するための刑法理論に苦心することになりま す。言い換えれば、死刑の執行による人の生命の断絶という殺人行為 を正当化するための理論構成を工夫せざるをえなくなりました」
幸恵『椿先生ガ仰ッテ居ル事ノ意味ガ、アタシニア、サッパリ判ラナイ。 偉レエ学者ノ先生方ガ、矛盾ヲ解消シヨウトシテル、トイウ事カモ知レ ナイ。マルデ意味ノ判ラナイオ経ヲ聞イテルヨウナモンダ』
「アノォ。アタシ、学ガ無エデスケエ。先生ノオ話ア、判リアセンダ」 「ああ。ここから先は、高度に専門的な話しになりますから、お判りに ならなくても結構です。ただ、一応のコメントだけはしておきましょう。 死刑の執行として人の生命を断絶することは、殺人罪を構成しない という、死刑の執行を正当化するための理論としては、刑法第35条 の『法令による行為』だからとする学説がうまれました。その結果とし て死刑の執行は刑法第35条の『正当行為』に該当し、犯罪の成立 要件のひとつである『違法性』が阻却されるという説明をしたのです。 しかし、このような理論は、高度に専門的な刑法理論における違法性 阻却を基礎づけるための工夫にすぎません。振り返って考えるならば、 死刑の執行といえども、人の生命を断絶することに変わりはありませ ん。専門的なはなしになりますが、死刑の執行行為は明らかに殺人 罪の構成要件に該当する行為なのですね。ただ刑法の世界では、 その違法性理論の段階において、法令行為として違法性が阻却され るという消極的な発想で、その行為を正当化するという理論づけをし ているわけですな」 林太郎は両腕を組んで 宙を見つめながら滔々とコメントをつづけた。 「ヘエエ。何ノ事ヤラ」 長髪を肩まで垂らした賢一は唇を突きだし首を傾げる。 「サッパリ判リアセンガ。ソウ言ウモンデ御座エアスダカ」 「これは法律の世界における専門的なはなしだから、お判りにならなく ても結構です。とにかく死刑の執行は、法令行為として違法性が阻却 されると解釈するわけですね。そもそも人を殺すという行為は『自然の 死期に先立って人の生命を断絶すること』だと定義されておりますが、 このような定義に照らしてみても死刑の執行は人の死期を早める行為 である以上、やはり自然の死期に先立って人の生命を断絶すること にほかなりません」
林太郎『国家は一方において人を殺す行為を処罰しながら、他方に おいて死刑により人を殺している。これは明らかに二律背反であり 自己矛盾だ。そこで刑法学者はこの自己矛盾を解消するため理論 構成に苦慮してきた。死刑の執行を正当化できると、法律の素人に 理解してもらうことは至難だ』
幸恵『俺ア、学ガ無エデスケエ。ソゲエナ事ア、判ル筈ガ無エダ。何 ンテ言ワレヨウト、石子詰ア、人ヲ殺ス事ニ変リア無エダ』
「椿先生。ソゲエナ難シイ事ア、何テッタッテ」 幸恵は、いくらか椿弁護士に対し反発のまなざしになった。 「アタシ達ノヨウニ学問ノ無エ者ニア、良ク判リアセンダガ。デモ素人 感覚トシテア、郷民学校デア人ヲ殺シテアナラネエ、ト教エテオキ乍ラ、 石子詰ノ処刑デ、一ツシカ無エ人ノ生命ヲバ断絶スル事ア、イクラ考エ タッテ納得スル事ア、出来アセンデ御座エアスダガ」 「ええ。幸恵さんのお気持ちは」 山形検事にビールを勧めた林太郎は自分のグラスにも手酌した。 「よくわかりますが。その疑問は、ひとまず脇において、小松原郷に おける『石子詰』の刑の執行について、はなしの続きをお聞かせねが いましょうか」 「ハイ。オ喋リシタラバ、喉カ渇イチャッタ。アタシニモ」 幸恵は甘えるように微笑みながら林太郎のまえにグラスをさしだした。 「オビール頂戴イ」 「あ、どうぞ、どうぞ」 林太郎は幸恵のグラスに並々とビールをそそぐ。 「遠慮は無用ですから」 「澄イアセン」 幸恵は、泡立つグラスを口元にあてがい、グラスを傾け、ひそひそと 囁くような白い泡と小麦色の液体との境界線をグラスの縁まで導き、その 隙間から吸いあげるようにしてビールを味わった。 「ほう。幸恵さんも、その」 林太郎は、細い狐目の白い瓜実顔に微笑みかける。 「ビール通の飲み方ができるようになりましたね」 「ハイ。椿先生ノ飲ミ方ヲ、ソックリ其ノ儘、盗ミ取リシアシタダ」 幸恵は、苦笑いしながらグラスを炬燵板のうえにおいた。 「それでは、『石子詰』の刑の執行状況の続きをおはなしください」 「ハイ。喉ガ潤イアシタンデ、続キヲオ話シ致シアス」 柿色に漆を塗りこめた炬燵板のうえに目をおとし幸恵は語りだした。
幸恵『彼ノォ。四人ノ処刑番ア、手足ヲ縛ラレ、身動キ一ツ為ル事ア、 出来無ネエ罪人ヲ恰モ死者ヲ葬ル時ノヨウニ、穴ノ中ニ入レアシタダ。 ソシテ処刑場ノ片隅カラ、大キナ箱ヲ取付ケタ『リヤカー』ヲ引張ッテ 来アシタダ。其ノ『リヤカー』ニ取付ラレタ大キナ箱ニア、谷間ノ川原 カラ採取シテ来タ小石ガ山積ミサレテ居アスダ。四人ノ処刑番ア其ノ 小石オバ、罪人ガ入レラレタ穴ニ向カッテ容赦ナク投込ミアスダガ。 スルト竹矢来ノ外デア、罪人ノ身内ノ者ア、『止メテ呉レエ ! 』・『止メテ 呉レエ !! 』ト泣叫ビアスダ。彼方、此方カラ咽泣キガ起リアスダ。其レ デモ四人ノ処刑番ア、残酷ニモ、容赦ナク小石ヲ詰込ンデユキアスダ。 ヤガテ生キタ儘ノ罪人ノ首カラ下ア、小石デ埋メラレテユキアスダガ。 目隠シサレタ罪人ノ首ダケガ処刑場ノ地上ニ浮ビ上リアスダ。四人ノ 処刑番ア、土足デ穴ニ詰込マレタ小石ヲバ踏固メアスダ。ソシテ最後 ニ、罪人ノ目隠ガ取外サレルノデ有リアスダ。罪人ノ顔ア、蒼ザメテ 目ヲ閉ジタ儘デ有りリアシタ。此レデ、石子詰ノ刑ノ執行ア、終ルノデ 御座エアスダガ』
身慄えしながら語り終えた幸恵は、細い両手を白い瓜実顔にあて、 わあっと泣き伏してしまう。 長髪を肩まで靡かせ、きちんと正座した小榊賢一も、大粒の涙を 零し、節くれだった拳で零れる涙を拭った
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