体育館でのだらだらな入学式を終え 「校長の話ってきっとどこいっても同じ様な感じなんだろうな」 「だろうな」 どうでもいい雑談をしながら雅人と一年間過ごすことになるであろう 教室に向かっていた。 いや、しかし式は本当につまらなかった もうちょっと新入生を楽しませる努力をしてほしいもんだ。 なんてことを話しているうちに教室に到着し、入った後も 俺たちはこれから始まる高校生活いかに楽しむかについて話をしていたが やがて担任であろう固そうな先生が入ってきたため俺たちは席に着いた。 先生はまず決まりごとのような挨拶をしてそれから自分が通ってきた 人生について存分に語った後、俺たちに自己紹介を強制してきた。 男子から始まり、みな無難な挨拶をしていくなか順番が回ってきた。 「南中からきました、鷺沢です、一年間よろしくおねがいします」 我ながらなんてつまらない挨拶だろう。趣味ぐらいは言えばよかった。 なんて後悔してもすでに遅く、着席してしまったのでどうすることもできなかった。 別にいいけどね そもそも高校でもそんな他人との関係を作るつもりはない、いや作ってはいけないのだ 偶然か、はたまた宿命なのかそれは一高校生であるおれの知るすべはないが 俺と一定以上親しくなった人はかならずロクでもないことが起こる。 家族なんかがいい例だ。 雅人も俺のせいで過去にちょっと面倒にまきこまれた。 本人は 「あれはただの偶然、お前は関係ないだろ」 といって若干俺は怒られた。 とはいってもやはりあれは俺が絡んでいると見る。 たまたまその内容が軽かっただけでもし、昔のお隣さんのようなことが 起こっていたらそんな気を使った発言はできないだろう。 俺は雅人を含め過去に4人不幸にしている。みんな俺に近づいたからだ。 たった4人と思うかもしれないがひとつひとつが重い。 雅人だってひとつ間違えればココにいなかったかもしれない。 だから今でも俺の前にいてくれるあいつの存在は本当にありがたい。 この特性は俺のステータスなのか。 俺になにか起こるんだったら別にかまわない。それで終わるのなら願ったりだ。 ただ、他人を巻き込むのはなんとしても避けたい。 だから俺は他人とかかわるのを拒むのだ そうこうしてる内に自己紹介が終わったらしい、 先生がこれからの予定をおおまかに話しみんなよろしくな、と一言残して 今日の学校は終了となった。 「さて、これからどうするよ?」 「帰る」 「飯でも食いにいくか?」 「帰る」 「じゃあお前の家でも行くか」 「くんな」 こいつはこのめでたい雰囲気の勢いでなにかをしたいらしい しかし、俺は早く帰りたいのだ。用事があるからな 「墓参りなんだ、一応報告しないとな」 「そっか、じゃあ仕方ないな」 「わるいな、じゃあまた明日な」 「おう、じゃ!」 こうして俺たちは別れた
「今日、入学式だったよ。やっぱ先生の話はつまらないわ。雅人と同じクラスになってさ、 あいつは俺と一緒になれたことを大層喜んでてさ。まぁ知ってるやつがいるってのは 確かに心強いわな。」 という、今日あったことをなるべく分かりやすいように俺は墓石に向かって語りかけていた。 ちなみにこれは俺の親の墓。 母は春子で父は健二、いたって平凡な親だと思う。あえてほかの親と違うといえば 小さい頃、父が運動がすこぶる苦手だったため母が代わりにおれとキャッチボールを して遊んでいたことぐらいであろうか。まあそれも普通といえば普通だ。 でもキャッチボールもできない父親ってのはどうだろう・・・ それはそれとして、家庭は世間にいわせれば平和な家族だっただろう。 夫婦喧嘩もなくとくに金に困ったってのは聞いたことはないし、(もっとも俺が子供だったためにそのような話は隠していたかもしれないから真実はわからない)理想の環境だったと思う。 それが突然壊されてしまった。 たった2人の人間によって。 「でさあいつの親、実は偉いらしくてあの学校の運営方針とかにもいろいろ言えるらしいよ。なんでも学校に結構な支援をしてるらしくてね。俺も今日始めて知ったよ」 2人のうち一人はもうこの世にはいないが、あと一人は行方がまったく分からないらしい。 時効はまだ解けていないが、ここまで探してなにも手がかりもないので警察も最近は半分あきらめている感じが否めない。 俺は犯人を捜してくれている警察に感謝すべきなのだが最近は頼りない彼らに対して憤りすら感じている。と、同時に所詮は警察はこんなものかと失望すら感じている。 「あ、そうそう。この新しい制服どうよ?なんか堅苦しくておれは好きじゃないんだけどね」 そんなこんなで俺は今、将来は警察になろうと本気で考えている。 今のままの警察は頼りない。おれが入って変えてやる、そんな安易な理由だ。 しかし前科持ち、大罪を持つ俺が警察なれるなんてそんな甘い話はない。試験は努力次第でなんとでもなるだろうが面接で・・・いやいやマイナス思考はよくない。 まだ試験をうけてすらいないのだ。やる前からこんな考えでは結果は知れてる。 まずは努力あるのみだ。 なんてことを考えてるうちにちょっと寒くなってきた。4月とはいえさすがに夜は まだちょっと寒い。 「じゃあ、今日はとりあいず帰るわ。そっちで二人で俺の入学祝でもしててくれや。 じゃあ次いつくるかは決めてないけど暇ができたらまた来るよ。じゃね!」 別れの挨拶を墓石にしつつ、さぁ帰ろうと思ったとき 「みてよ、この新しい制服!可愛いでしょ?お父さんこういうの好きそうだモンね!」 「こらこらそんなこと言うとお父さん、怒るよ?」 そこにはうちの学校の制服をきた女の子とその母親らしき人が墓石に話しかけていた。 「あははは!冗談、冗談! そうそう、校長先生の話はやっぱりつまらなかったよ〜 なんとかしてほしいよね。本人はいい気持ちかも知んないけどこっちは眠くなっちゃうって。」 同感だ 「お父さん?千春もここまで大きくなりました・・・最近はちょっと何事もいい加減になってきて困ってますよ。」 「そんなことな〜い!」 「そうかしらね?」 そんなこといいながらその母親らしい人は皮肉をこめて笑っていた 「ここまでこれたのもきっとお父さんが守ってくれていたおかげね」 「・・・・・うん」 「でも、この子はまだまだ成長していくから、これからも家事手伝いができない分、全力で娘のことをまもってくださいね」 「私は大丈夫さ!それよりお母さん守ってよ。危なっかしくて一人にしておけないよ!」 「大丈夫よ、お母さんの場合言わなくてもお父さん分かってるから、あんたの場合は念を押して+αで守ってもらうようにいってんのよ」 「私より絶対お母さんのほうが危ないんだと思うけどな〜」 この親子も昔、父親をなくしたんだろう。墓を前にしてこんだけ明るくなれるってことは なくなってから結構時間がたつのだろう。この気持ちは経験者しかわからない・・・ 「あら?なにか・・・」 その言葉が自分に向けられていることにちょっと時間がかかった。 なので気がついたときは少し動揺してしまった。 「もしかしてうちの主人を訪ねてきてくれた方?すみません、気付きませんでした・・・」 「あっいえ、違うんです。たまたま声が聞こえたんでちょっときてみただけなんです。 盗み聞きみたいなことしてすいません・・・」 つい、この二人の会話を聞き入ってしまった。何かいわれても仕方ない・・ 「あら、そうなの。あなたもお墓参りを?」 多少何か言われることを予想していたので、この反応にはまたしても動揺してしまった。 「はい、家族に入学の報告をしようと。」 「あれ?その制服うちのじゃない?」 女の子が話しかけてきた。盗み聞きっぽいことをしていた俺に対しては怒ってはいない様だ。 「そうですね。今年から入学になりますね」 「じゃああたしと一緒だね、織田千春っていうの。とりあいずよろしくね」 「鷺沢 俊です。よろしく」 「あら、じゃあ娘がなにかお世話になることがあるかもしれないのでそのときはよろしくお願いしますね。鷺沢君」 「あっはい、こちらこそ」
その後、学校長の話はつまらないだの、実は同じクラスだの、娘は頑固だの、以外に家が近いのだの、世間話をしてそろそろ寒くなってきたので帰ることになった。 彼女らは車できたらしく乗っていくか?というお誘いを受けたが自分は自転車なので、 丁重にお断りした。その場で二人と別れ、俺はちょっと寒くなってきたので今日の晩飯を考えながらいそいで帰路についた。 そういえばあの女の子、千春さんだっけ?なんとなくだが見たことあるような・・ いやだれかの面影があるようなそんな気がした。なんとなくだけど まあいい、それより今日の晩飯だ 入学式の翌日、クラスでは委員会を決めるため、HRが行われていた。 今は、とりあいずクラス委員長に就任した松崎なる男が仕切っている。 ちなみにクラス女子委員長はまだ決まっていない。 「では行事運営委員をやりたい人、もしくはやってもいいという人はいますか?」 誰も手を挙げない、当然だ。 運営委員なんて名前からしてめんどうさそうじゃないか。そんなめんどそうなのを 率先してやるのはクラス長に就任した松崎ぐらいのもんだ。 「・・・・じゃあこれは最後で、新聞委員やりたいってひといます?」 三人ぐらいが手を挙げた、ていうか新聞委員ってどんな仕事するんだ? そんなこんなで楽そうな委員会が埋まっていく、おれは決まってない。 手を挙げてるやつらは楽ならばやってもいいという考えだろう。 俺はちがう、あわよくば委員会を避けたい人だ。 クラスで数人は委員会に入らなくてもいいのだ。おれはそれを狙っている ちょっとでも面倒なのはごめんだからな。てか女子ほとんど決まってないし 「じゃあ男子はあとは行事運営だけですね」 あっというまにそこまで決まっていたらしい。 「なにもやってない男子は・・・あと4人ですね。このなかでやってもいいという人はいますか?」 いるわけがない。ここまで粘った連中だ、なんとしても就任はしたくないのだ。 「じゃあ、仕方ないですね・・・じゃんけんにしますか?」 ちょっとまて、それはないだろう。こういう場合は帰りまでに考えといてみたいな 感じになって決まるまで帰れませんって感じで折れたやつがやるもんだろう。 てか女子があんま決まってないじゃん。そっち先だろ。 「じゃあ決まってない男子、立ってください。」 今決める方向ですか、俺以外の3人も{じゃんけんかよ}みたいな顔している。 そのうち一人、名前はなんだっけかな?そいつが立つと仕方なくあと二人も立ちだした。 ここで変に意地張って、クラスから嫌煙されるのもいやなので、立つことにした。 まあ、4人だから確率はそれほど高くはないだろう・・・ 「じゃあ、行きます。じゃんけん・・・・」
「いやぁ、まさかお前がなるとは思わなかったね」 今はお昼休み。今日は4時間で終わりだが一部の委員会は放課後にある。 でもって雅人は一緒に飯を食うためおれの前の席で座っている。 HRの時間、三回のあいこの末、一人が抜け、つぎのじゃんけんで俺が一人負けを喫した。 勝負に勝った三人はまるでお宝をみつけたような顔で喜んでいた。いまいましい しかも、今日からさっそく残って会議があるらしい。決めた日に会議ってのはあんまりじゃないか? ちなみにもう一人の行事委員は昨日、墓であった織田さんだった。 さらにちなみに彼女もじゃんけんで負けたなんてそんななさけない理由じゃない。 元中のやつに推薦されたのでしぶしぶ了承という、なんとも輝かしい就任理由だ。 「お前は運がなかったと思って仕事がんばるんだな」 ちなみに俺の前で話してるこの筋肉質は、号令委員とかいう名前からしてふざけてる 委員会を勝ち取った。いまいましい 「でもいいじゃん、もうひとりの織田さん、なかなか可愛いじゃないか。同じ委員会という邪まな理由で仲良くなれるかもよ?うらやましいぜ!」 だったらかわってくれ、女子がかわいかろうがどうだろうが仕事が多くかつ内容が濃いであろう行事運営委員のめんどくささは変わらない。 そんな話をしてると委員会の時間が近づいてきたので俺たちは早々に弁当をかたずけ(もっとも俺はパンだが)教室に向かった。雅人は帰ったけど、号令委員だからな。
担任に指定されたクラスにいってみるとちらほらと生徒が見えた。 すでに織田さんは来ていたがちょっと離れたところに俺は座った。なれなれしく隣に座るなどできるわけがない。 ちょっとすると担当の先生が入ってきてクラスごとに座ってくれと呼びかけてきた しぶしぶ織田さんの隣に座ると、 「こんにちは、えっと鷺沢くんだっけ?昨日あった・・」 「ああ、そうだよ」 「とりあいずこっちでもよろしく」 「ああ。よろしく」 「行運ってめんどくさいね、クラス委員長より大変らしいよ・・」 「そんなに?なんで?」 「行事があるたびに動くからね。スポーツ大会に文化祭、卒業式に送別会、あとは・・」 「もういいよ、後のこと考えたらへこむだけだ」 「確かにねぇ・・・はあ、めんどくさいな」 「なんで行運になったの?」 知ってるけどネタのため聞いてみる 「それがね、元中が「千春なら向いてんじゃない?」って感じでふってきてさ、それを聞いていたクラス委員長になった子がね、ちなみに委員長は小さい頃からの知り合い。でさ、 織田さんお願いできませんか?っていってきてさ、流れ的に断れなくて・・・」 よくしゃべる人だな 「で、引き受けたわけだ」 「仕方なくね。かなり後悔してる・・・鷺沢君は・・・じゃんけんでだっけ?」 「そう」 「うわっ、かわいそ・・・」 そんな哀れみの目でみないでくれ。余計、鬱になるから そこで担当であろう先生が来たので俺たちはおしゃべりをやめた
行事の前線でみんなを引っ張る、率先して行事に参加する、言われたのはおおまかに いうとこの二つ。なんでこんなことでわざわざ残るんだ?プリントに書けばいいじゃん。 「めんどくさそうだねぇ・・・」 「だな」 隣で織田さんは先生に言われたことをふかーく考えてるらしく、これからいろいろ行事があるたびにめんどうがあるということで頭を悩ませているようだ。 おれはどうやって手を抜くかで頭を悩ませている。 「じゃあ終わったし帰ろうか?」 「だな」 こんなとこに長居する理由はないだろう、とっとと帰ることにする 「お疲れ様♪どうだった行運は?」 教室を出たとたんポニーテールが話しかけてきた。だれだっけな? 「あっ!もしかして私の名前が分からなかったり?それはないでしょ〜」 それはないでしょっていわれたって・・・ おそらくは同じクラスの女子であるんだろうが、入って二日目で女子の名前も 覚えるほどおれは器用じゃない 「あれ?遥じゃん、てことはクラス委員は終わったんだ。」 遥、という名前らしい。さらにクラス委員らしい 「たった今終わったとこ♪てか、聞いてよ!鷺沢君、私の名前覚えてなかったらしいよ!」 「う〜ん、まあ仕方ないんじゃない?入って二日目だし」 「でもさ〜クラス委員だよ?HRでがんばって仕切ってたのに・・・・」 なんか俺がすごい悪者みたいだ
聞いたところ彼女の名前は七瀬 遥(はるか) 今日、クラス委員長に就任し、今はそれが終わり友達である緒方さんを待っていたということだ。 そして緒方さんを行運に推薦した人でもある 「遥が推薦なんかしてくれちゃったからこんな時間まで残る羽目になっちゃったんだよ?いい迷惑ですよ・・・」 「いいじゃん!似合ってますよ?」 「どこがですか!ああいう仕事はもっと責任感がある人がやるべきです。」 「適任ジャン♪」 文句をいうのも疲れたみたいな顔をした緒方さんがこちらに話を振ってくる。 ちなみに今は廊下、俺を帰してくれよ二人とも。 「遥とは中学からの付き合いなんです。」 「そうなんだ」 「転校してきて最初に話しかけたのが千春だったの♪」 普通は逆じゃないか? 「話しかけられたんじゃなくて?」 「そんな度胸、千春にあるわけないじゃ〜ん。ちらちらっとこっちを見てるような 気がしたからこっちから話しかけてみたら、見事友情を生まれたってわけさ♪」 「まぁ大方そんな感じですね、転校してきた人ってやっぱりなじみにくいと思ってたんですよ。で、仲良くなれればと思ってきっかけを考えてたら、遥からきたってわけです。」 「へぇー」 見た感じこの二人はただの友達というより親友っていう感じがする。 よほど仲がいいだろう 「あ、わたしそろそろバイトだ!ごめんね、そろそろ帰んなきゃ・・・」 「そういえば私もだ。じゃあまたね、鷺沢君」 「ああ、また明日」 「いい?私の名前は七瀬!ちゃんと覚えてよね。じゃあ俊くん、また明日! いそご、千春!」 そういって二人は結構な速さで走っていってしまった。 「さて、俺も帰るかな」 だいぶ時間をくってしまった、さて今日の飯はなにするかな? なんて昨日のデジャブ感じながらおれは帰路についた。
これから全てがはじまる、すでに引き金はひかれたのだから あとは当たるか外れるか・・・ いや、それは結果は決まっているのだ。
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