「そろそろ時間ね」 灰を灰皿に軽く落としながらアキが呟いた。 「ですね。アキさんの卒業式はどうだったんですか?」 京が資料と睨めっこしながら話題を振る。 「変わったことは無かったわ。ただ、校長の話が長くて、在校生の心にもない言葉が耳障りだっただけ。ただ卒業生の答辞は素晴らしかったわ」 思い出すように天井を見上げながら言う。 「珍しいですね。アキさんが人の事を褒めるなんて」 本当に珍しいと京は思ったが、次のアキの言葉で全て納得する。 「人のことなんか褒めてないわよ。私がやったんだから」 少しも誇らしく話さないアキに、本当に嫌々なんだなと心で思う。 「昔の話よ」 この一言をきっかけにまた沈黙に戻る。しかし、その沈黙も長くは続かなかった。 「こんにちは」 ゆっくりとドアが開く。そこにはいつもと変わらない格好、表情の美里がいた。 「こんにちは。どうでした?卒業式は」 京が椅子をクルリと回しながら、美里のほうを向く。 「どうもこうもないわ。校長の話は長いし、在校生の話は心がこもってないし。ただ答辞だけは素晴らしかったわ」 京とアキが顔を見合わせる。 「その答辞ってもしかして…」 コーヒーをすすりながらアキが聞くと、楽しそうに美里が話した。 「もちろん私がやったからに決まってるじゃない」 二人はもう一度顔を合わせ、大きく笑った。 「えっなんで笑うのよー」
時の流れはもう一人の天才をここへと導いた。 彼女の名が世界に知れ渡るのはそう時間のかかることではなかった。
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