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作品名:境界 作者:東 広

第2回   絶望と呆れと孤独
 晴天。セミの鳴く音が耳障りに聞こえる。
そしてまた、授業をする先生の声も。
「教科書七十三ページを開け」先生の指示でみんなが教科書を手際よく開く。私はいつも通りいやいや教科書を開いた。
教科書には永遠に続くのではないかと思わせるアルファベットがずらりと並んでいた。
私はそのページを上からずらっと見ていった。簡単だった。内容はクローン医学に対する反論のレポート。クローンは人間にとって必要の無いという専門家らしい人の意見がまとめてあった。
この程度の長文なら考えずともわかった。私は教科書から目を離し、空を見ていた。流れる雲は遅いが、確実に前へ進んでいった。そんな雲を見ていたとき、私にみんなの視線が集中していることに気がついた。
「神薙。お前に聞いているんだ。いくら頭がいいからって、授業を聞いてないと単位やらないぞ!」先生の声が教室に響く。
私は、隣の席の友達に質問を聞いた。質問はクローンとはどうゆうものか。そんなのどうでもいいと思いつつ私は答えた。
 「クローンとはギリシア語。一つの細胞または生物から無性生殖的に増殖した生物の一群です。また遺伝子が完全に等しい遺伝子や細胞。生物の集団。別名、分枝系。現在のクローン技術では食物危機の改善等を中心とした研究が行われています」
 本当にどうでもいい事だった。私は辞書どおりの答えと私の思考を織り交ぜ答えた。先生は何も言わない。英語の先生だ、生物的なことの基本は知っているとしても専門的なことまでは知らないだろう。
授業は何事も無かったように続いた。私はずっと流れる雲を追っていた。授業が終わり、私は職員室に呼び出された。
何回目だろう?
呼び出されるのは。職員室に入った私をさっきの英語の先生、担任、教育指導の先生が囲む。
「いくらできるといっても…」
「単位はいらないのかね…」
「もっと真面目に…」
取り囲まれた私は動くことも反論することもせず、ずっと下を向き、目を閉じていた。
すると、右頬に痛みを感じた。平手で叩かれた。英語の先生だった。「なんだその態度は、まったく教育が………」永遠に続く説教。さっきの授業が七時間目で最後の授業だった。
いつまで続くんだろう。長い、うるさい。
―――嫌だ、イヤだ、いやだ―――。
ついに私の怒りは爆発した。
近くに置いてあった本を取った。私が取った本は幸か不幸か全授業で一番厚いと思われている国語の教科書だった。
私は英語の先生に向かって本を振り降ろした、もちろん角で。先生は椅子から滑り落ちるように倒れこんだ。
私は倒れた先生を何度も殴った。楽しかった。
いけないことだってわかっていた。もちろん、他の先生は私の手を押さえた。でも、あのときの私はなんか力に満ちていたって言うか、取り押さえる先生全員を振り払った。
それで、気がついたら警察病院のベッドの中だった。あとで聞いた話によると、近くにいた先生が警察に通報して、私は駆けつけた警察官四名でやっと押さえつけられたらしい。
そして、押さえつけられた私はそのまま昏倒した。これも後で聞いたんだけど、その英語の先生は軽傷。どうせなら死ねばよかったのに。
その後、事情聴取。何時間やっただろう?私は黙秘した。しゃべりたくなかった。どうせしゃべった時点で何も変わらない。
黙秘した結果、先生も悪いところがあったと言うことがあり、四十八時間で釈放。でも両親に散々怒られた。
お母さんには「あんたなんか私の娘じゃない」って言われたしね。成績がいいと「よくやったね。さすが私たちの子供ね」とか言って笑っていたくせに。私はその時確信した。両親は私を人間と思ってない。犬かなんかの動物だと思っている。すぐに切り捨てられる。そのことを脅しに私に絶対服従を命令する。
そんな生活が嫌になった。
その日の夜、泣いて疲れれば寝られると思った。
安易な考えはすぐに私を裏切る。眠れなかった。
昼間の快晴は嘘のように外には星一つでていなかった。結局一睡もできなかった。寝られなかっただけいろいろなことが考えられた。考えてみれば親友と呼べる友達もいないし、両親からは見捨てられた。
私の生きている価値が見つからなかった。
長い夜の中で一つも。だから決意した。私はいつものように家を出た。制服を着て、両親にばれないように。ただ一つだけ違ったのはカバンの重さ。雨が降っていた。
でもすぐにでも家から離れたかった私は傘も持たずに走った。そして、着いたのが森の中。切らした息を整えた。濡れた髪を何回かき上げただろう。落ち着きを取り戻したかった。最後の落ち着きを。しばらくして、私は唯一カバンに入れたカッターナイフを取り出した。


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