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作品名:女神の愛し子 作者:夢あい

第6回   6
王の執務室の前までくると、扉が少し開いており、中から話し声が聞こえた。

「ユウ様の意向も伺わず、事を強引に進めてよろしいのですか?」
「かまわない。」
「、、、、ユウ様を、女神の愛し子である方を王妃に迎えるという案は、この国にとって良い事でしょう。
 しかし、ユウ様の気持ちは? 陛下のお気持ちはいかがなのです?」
「関係ない。」
「、、、陛下には、心に決めた方がいらっしゃったんではないのですか?」
「、、、、、。」
「よろしいのですか?」

ばんっ。たまらず扉を押し開いた。そこには、山のような書類に向かって黙々と仕事をするアルバートと
こちらを驚いたように見るジルベールがいた。

「ユウ様!どうしてこちらに?」

「ジルベールさんは黙ってて! アルバート王! 私だって、意思はあります。この国のために何か
 出来ることがあるなら頑張ります! でもいきなり王妃なんて! それに、今の話では貴女には
 決めた人がいるみたいじゃないですか! 私じゃなくたって!」

かみつくように話す優をちろりと見て、ため息をつきつつアルバートはペンを置いた。

「おまえを王妃にすることは、大臣達も乗り気だ。国民も望んでいる。
 私が嫌だというなら、お飾りの王妃で良い。女神と王が結婚したという事実があればよいのだ。
 おまえは好きに暮らせば文句は言わない。」

「なっ、、、。」

ジルベールは王と優を交互に見て、ため息をついた。沈黙が数分続いた後

「分かりました。好きにすればいいんですね? 私は、神殿で暮らします。王宮にいるなんてまっぴら。
 結婚式も、誰か代理をたててください。失礼します。」

優は、言うだけ言うと部屋から出て行ってしまった。あんな王だ、何したって文句は言わないだろう。
早速、部屋まで戻るとキャロルに頼んで、簡素な服を出してもらう。

「ユウ様〜〜。」
「ユウです!」
「うっユウ、、、本当に出て行くんですか?」
「もちろんよ! こんな所にいたって窮屈なだけじゃない。たぶん神殿の方が住みやすいわよ。」
「でも、いきなり〜〜」
「私は女神の愛し子なんでしょ? 大丈夫よ! 多分、、、、。」
「は〜〜。分かりました。私も一緒に参ります。」
「ええっ駄目よ! 貴女はここにいた方が幸せよ?」
「でも私、女神の愛し子に仕えることが夢でしたし、ついて行かせて下さい!」
「うっ分かった。私がこの国に慣れるまでの間、お願いします。」
「はい。そうと決まれば、さっさと荷物まとめて出て行きましょう!夜になっちゃいますよ。」

いきなりうきうきと動き出したキャロルにあきれながら、だんだん冷静になってくる。
これで良かったかと疑問がわいてくるが、今更どうすることも思いつかず、なんとかなるかと部屋を
後にした。

城門では、誰かに止められるかと思ったが報告がいっているのか誰も何も言わなかった。
さらに、ジルベールが馬車まで用意しておいてくれた。
先日、王宮まで連れてこられた時は混乱していて、町の様子など見ていられなかったが、今回は
よく眺められた。
石畳のヨーロッパのような町並みは、美しくそして圧巻だった。王宮の前の広場から四方に伸びる道の
両側には、いろんなお店が建ち並んで、賑やかにこの国がいかに豊かかがうかがい知れた。
神殿は、その道のひとつが少し丘に登った所に建てられていた。

「ようこそいらっしゃいました。急な事で何もできませんが、心行くまでご滞在くださいますよう。」

いきなり押しかけたはずだが、快く神官達は出迎えてくれた。
優にあたえられた部屋は、神官の為の部屋だそうで、質素だが落ち着ける部屋だった。

「ユウ、私の部屋は隣に用意してもらいました。何かあったら言ってくださいね。
 ここは、他の神官の方達の部屋よりは奥まっているそうですわ。その分、静かですね。
 では私、お茶を用意いたしますのでお待ち下さい。」

「ありがとう。」

キャロルが出て行ってしまった後、優はなんとはなしに本棚に近づいた。本棚には、分厚い聖書らしき
ものがぎっしり並んでいる。ちょうど目の高さより一段上の棚に隙間があった。ふとその隙間が気になって
手を入れてみる。すると、丸いものが感じられた。思い切って掴みだしてみると、それは透明な水晶の
ようなものだった。

「あら、きれい。なんでこんな所にあるのかしら?」

不思議に思って、色んな方向から光に当てて見つめていると、突然、水晶がまばゆい光を発しだした。

「ええっこの光、何??」

後には、光の消えた水晶が一つ床に落ちているだけだった。


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