天馬は王宮を飛び立つと、北にそびえる山の頂上を目指した。 やがて頂上に静かに降り立つと、ゆっくり優を降ろしてくれた。 目の前には一本道があり、それ以外は何も見あたらない、優は仕方なく一本道を歩き出した。
歩き出してすぐに、周りに霧が立ちこめてきて、視界がなくなるころに神殿のようなものが見えてきた。 そうっと様子を伺いながら入っていくと、奥に祭壇のような場所があった。 祭壇の所までたどり着き、白一色の荘厳な神殿に見惚れていると、ふいに後ろから声がかかった。
「ようこそ、愛し子よ」
心に暖かいものが注がれるような感覚に、喜びともつかぬ驚きで振り向けば、そこには1人の美しい女性が 立っていた。 流れるような髪は、銀とも金とも光とともに色を変え、慈愛に満ちた顔は言葉に言い表せぬほど、輝きと 美をたたえていた。しなやかな体からは、淡い光のようなものがゆらめいて見えた。
「あなたが、、、。」
「そう、私がこの国を守る女神です。貴女は愛し子として、この国の為に生きてくれますか?」
やさしい笑顔で聞かれ、一瞬とまどう。優は、透を助けたいが為に承諾したのであって、まだ愛し子として どうするべきか、決心がついていなかった。しかし、女神に嘘をついてはいけないと思い、思い切って 今思っていることを口にした。
「私は、一緒に召還されてしまった透を助けたい。だからここにやってきました。 だから、本当に私が愛し子としてやっていけるなんて、自信がありません。 だって、ここには私が大事とするものが何もないんです。愛する家族や、夢が。」
それを聞いた女神は、優を愛しそうに見つめ微笑みを一層強くした。
「そうですね。でも私は貴女にお願いしたいわ。あの子には貴女が必要だと思うから。」 「あの子?」 「ええ。貴女でなくてはきっと駄目。 貴女と一緒に連れてこられた人は私が元の場所に返してあげましょう。 どうかしら?」
透が元の世界に戻れると知って、優は安堵のため息をついた。 女神に直接頼まれると、愛し子をやめたいとは言いにくく、私でなければ駄目という言葉が心に響く。 優はもう一度、軽くため息をつくと、今度は晴れやかに答えた。
「分かりました。私にしか出来ないとおっしゃられるなら、頑張ってみます。頼りないかもしれませんが。」
ようやく笑顔になった優を見て、女神は安心したような笑顔を見せ、優の額に右手をあてた。 それと同時に、額から暖かいものが流れてくる。優の全身が淡い光に包まれると、女神が手を離した。
「さあ、これで貴女は私の愛し子となりました。この国のため、よろしくお願いしますね。 貴女が良いと思うことをなさい。私はいつでも見守っています。」
女神は言い終えると、いつのまにか優の前からいなくなっていた。さらに、気がつけば天馬から降りた その場所に戻ってきていた。 天馬は優が戻ってきたことに気がつくと、また跪き乗るようにうながす。 優は、半分呆けながら天馬の背に乗り、王宮まで戻った。
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