森の中程まで来ると、アルバートはつかんでいた腕を離し、優の方を見て立ち止まった。
「おまえ、名前は?」
「え? えっと、、、佐倉、、、。」
「サクラ?」
「うん。そうよ。」
なんだか優と答えるのがためらわれて、名字で答えてしまった。別に間違ってないし、、、と 自分で納得させてではあるが。
森に入ってから、アルバートはフードをはずしていたので、表情がよく分かった。 前は氷のように冷たい表情しかさせていなかったのに、今はとても柔和で、もともと男にしては 美しい顔立ちをしているので、優は知らず知らずのうちに見とれてしまっていた。
「ん? なんだ? 俺の顔になんかついてるか?」
「え? いいえ何にも、、、。」
慌てて真っ赤になってうつむく優を笑いながら、ほら行くぞ とやさしく促して今度はゆっくり 優の横を歩き出した。やがて、魔女の家までたどり着くとアルバートは声をかけながら、家の中に 入っていった。
「お久しぶりです。」
「おう、アルよ。元気そうでなによりじゃな。送ってくれたのかい、ありがとうよ。」
「いいえ、偶然町で会ったものですから。おばばも元気そうで嬉しいです。」
「元気だけが取り柄じゃからな。おつかいありがとうよ。」
「あ、はいこれ。」
優から袋を受け取ると、魔女は二人のためにお茶を入れてくれ、優は町であったことや、 貴聖石の事などを魔女に報告した。
「ほう。めずらしいものに巡り会ったの。貴聖石は久しぶりじゃな。また良い形になったな。 アルよ、買ってくれてありがとうよ。」
言われたアルバートは、少し赤くなって視線を逸らしている。そんな表情にもびっくりして、優は また見とれていた。 しばらく話し込んだアルバートは、また来る、と言って帰って行った。 アルバートが帰った後、窓の外を見つめていた優に
「アルに惚れたかい?」魔女はにこにこしながら訪ねてきた。
「ほっ惚れた? え? 」
「いやいや、若いもんはええの。」
なんだか1人で納得しだした魔女に、慌てて優は駆け寄った。
「えっと、違うの!私がここに来る前の時代には、アルバートは王様でとても怖い、冷たい人だったの。 それがここじゃ、すごくやさしそうで、なんだか別人って感じで!」
「ふむ。おまえさんは少し後の時代からやってきたんじゃな。アルが王様か、、、。」
考え込んだ魔女を見ていて、そう言えばアルバートは第二王子って言ってたような、と思い出した。
「アルバートって、第二王子なんですよね? 第一王子ってどうなったんだろう、、、?」
「うむ。第一王子のヒューバートはちゃんとおるぞ。ただ、今の王は病がちでな、そうは長くないとは 思うんじゃが、、、、ふむ、、、アルが王様で、変わっておると、、、。」
「何かあったんでしょうか、、、、?」
「そうじゃな。何があったのかは分からんが、おまえさんがここに今おるのは意味があるのじゃないか? 私からも頼むよ、アルはいいやつじゃ。アルの時代の愛し子のおまえさんじゃ、アルを助けてやって くれ。」
真剣なまなざしで見つめられ、優はふとアルに買ってもらった指輪を見つめた。 何かできるのかしら? あの笑顔をいつまでも見ていたい。と優は願うようになった。
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