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作品名:女神の愛し子 作者:夢あい

第10回   10
森の中程まで来ると、アルバートはつかんでいた腕を離し、優の方を見て立ち止まった。

「おまえ、名前は?」

「え? えっと、、、佐倉、、、。」

「サクラ?」

「うん。そうよ。」

なんだか優と答えるのがためらわれて、名字で答えてしまった。別に間違ってないし、、、と
自分で納得させてではあるが。

森に入ってから、アルバートはフードをはずしていたので、表情がよく分かった。
前は氷のように冷たい表情しかさせていなかったのに、今はとても柔和で、もともと男にしては
美しい顔立ちをしているので、優は知らず知らずのうちに見とれてしまっていた。

「ん? なんだ? 俺の顔になんかついてるか?」

「え? いいえ何にも、、、。」

慌てて真っ赤になってうつむく優を笑いながら、ほら行くぞ とやさしく促して今度はゆっくり
優の横を歩き出した。やがて、魔女の家までたどり着くとアルバートは声をかけながら、家の中に
入っていった。

「お久しぶりです。」

「おう、アルよ。元気そうでなによりじゃな。送ってくれたのかい、ありがとうよ。」

「いいえ、偶然町で会ったものですから。おばばも元気そうで嬉しいです。」

「元気だけが取り柄じゃからな。おつかいありがとうよ。」

「あ、はいこれ。」

優から袋を受け取ると、魔女は二人のためにお茶を入れてくれ、優は町であったことや、
貴聖石の事などを魔女に報告した。

「ほう。めずらしいものに巡り会ったの。貴聖石は久しぶりじゃな。また良い形になったな。
 アルよ、買ってくれてありがとうよ。」

言われたアルバートは、少し赤くなって視線を逸らしている。そんな表情にもびっくりして、優は
また見とれていた。
しばらく話し込んだアルバートは、また来る、と言って帰って行った。
アルバートが帰った後、窓の外を見つめていた優に

「アルに惚れたかい?」魔女はにこにこしながら訪ねてきた。

「ほっ惚れた? え? 」

「いやいや、若いもんはええの。」

なんだか1人で納得しだした魔女に、慌てて優は駆け寄った。

「えっと、違うの!私がここに来る前の時代には、アルバートは王様でとても怖い、冷たい人だったの。
 それがここじゃ、すごくやさしそうで、なんだか別人って感じで!」

「ふむ。おまえさんは少し後の時代からやってきたんじゃな。アルが王様か、、、。」

考え込んだ魔女を見ていて、そう言えばアルバートは第二王子って言ってたような、と思い出した。

「アルバートって、第二王子なんですよね? 第一王子ってどうなったんだろう、、、?」

「うむ。第一王子のヒューバートはちゃんとおるぞ。ただ、今の王は病がちでな、そうは長くないとは
 思うんじゃが、、、、ふむ、、、アルが王様で、変わっておると、、、。」

「何かあったんでしょうか、、、、?」

「そうじゃな。何があったのかは分からんが、おまえさんがここに今おるのは意味があるのじゃないか?
 私からも頼むよ、アルはいいやつじゃ。アルの時代の愛し子のおまえさんじゃ、アルを助けてやって
 くれ。」

真剣なまなざしで見つめられ、優はふとアルに買ってもらった指輪を見つめた。
 何かできるのかしら? あの笑顔をいつまでも見ていたい。と優は願うようになった。


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