「わあ、見て!車があんなにちっちゃい。すごいね〜。」 「おいおい、お子ちゃまじゃないんだからはしゃぐなって。」 「もう、透はすぐいじわる言うんだから〜。」 彼女は、佐倉 優。今日は大学入学を前に、従兄弟の透に東京を案内してもらっていた。
そろそろ展望台に到着するかと思われた時、いきなりエレベーターの照明が消え、少々の衝撃とともにエレベーターが急停止してしまった。 「なっ何?びっくり。どうしちゃったの?」 「おい。外見てみろよ。どうやら地震らしいぜ。」 透につられて外の景色を見下ろすと、ちょうど真向かいのビルに大型モニターがあって、そこで地震速報が映し出されていた。 「ほんとだ。地震の時にエレベーターの中にいたの始めて。止まっちゃうんだね。」 「まあ、ここは大きなビルだし、すぐ動くか助けがくるよ。」 「うん。」 二人はエレベーターの壁にもたれるように座って、動き出すのを待つことにした。 外は地震なんて関係ないような快晴だし、エレベーターの中は二人っきりで、のんびり他愛のない話で盛り上がっていた。 ふと、優が変な感覚に目を上げると、目の前の景色がなんだか歪んだように見える。 「ねえ!透! 前見て前。なんだか歪んでる気がするんだけど?」 「うえっほんとだ。なんだかだんだん大きくなってないか? うわっこっちにくる!?」 「ええっ!!やだやだ!きゃ〜〜〜〜〜!!」 逃げるまもなく、二人は歪んだ黒い大きな固まりの中に覆われてしまった。 優は目も開けられず、肌に感じる歪んだ空気に包まれた。それも一瞬で、急に周りが霧が晴れるように清々しく感じられて、強ばっていた体がゆるんだ途端
「おおっ成功です!」 「これで我が国も安泰ですな〜!」 「素晴らしい!!」 急におじさん達の歓声がわき上がり、優は吃驚して目を開けた。 「何?ここ、、、、。」 目に映るものは先ほどのエレベーターの中ではなく、以前、優が好きで読んでいたファンタジーに出てくるような、神殿のような部屋だった。 優の目の前にいるおじさん達も神官だと思われる服を着ていたし、床も大理石、天井はステンドグラス 見渡す限り、現実の世界ではありえない状態だった。 ー 何、このファンタジーな世界は。夢でも見てるの? 優は呆然と目の前で喜ぶ神官達を見回す。 「おまえ達よく見ろ!男がいる。衛兵!早くそいつを引っ捕らえよ!」 いきなり響き渡る冷たい声に、優がびくっと体を震わせて声のした方に目を向けると、そこには神官服ではない1人の青年が立っていた。 青年の声に周りにいた人たちが我に返り、兵士と思われる男達が数人、優の後ろにいた透を捕らえて行って しまった。 「あっ!透?ちょっと、待って!なんで?どうして?」 優が気づいた時には、呆然とした様子の透が連れていかれた後だった。
「あの男はおまえの知り合いか?」 先ほどの冷たい声の青年が優の前に立ち、冷たい表情のまま優を見下ろして言った。 「そうよ、私の従兄弟なの。どうなるの?私達。ここはどこ?なんでいきなりこんなこと、、、。」 冷たい視線に、相手を直視できずにうつむき加減に訴える。 「女神になるのだな。そうすれば、自分であの男を助けられるだろう。」 「えっ?どういうこと? 女神って?」 言われた言葉に驚いて優が見上げると、青年は部屋を出て行くところだった。 「あっ、待って!今の意味は?」 慌てて立ち上がろうとして、今までの緊張からか足がもつれて転びそうになる、転ぶ寸前に さっと優を支える人物がいた。 「大丈夫ですか?女神様。」 その声に驚いて見つめると、まだ年若い神官の青年だった。 「お部屋を用意してあります。ご案内いたしますので。」 優が戸惑っていると、やさしく微笑みながら 「多分、女神様がお聞きになりたい事を知っている方が待っていらっしゃいますので。」 その言葉にようやく少しだけ落ち着いて、神官について行くことにした。
|
|