奴以外の人間はなぁ、『仕事』とか子どもでも『学校』とかいうものに行って生きている。今は、理解もしてるしそれが生きることだとも知っている。でもな、そのときの俺は、それすらも分からなくて、どうして奴が他の人間と違うかも分からなかったんだ。 そして、それが知りたいと思ったときにある出来事があった。まあ、結果俺と奴との別れにもつながったが…。
一年ぐらい奴と一緒にいて、気づいた。俺は、もっと奴の言う『広い世界』というのが知りたいと…。だから、そばを離れようとしたんだ。そして、その日が来た。俺にとっては旅立ちの日。奴にとっては、過去に戻る日が…。
こんな雨の降る日だったな。突然、奴の『娘』が現れた。そして奴にこういった。 「父さん。私、結婚するの。とても迷ったけど、昔の父さんに戻ってほしいの。あの、優しかった父さんに。母さんは、反対したわ。でも、私にとってはただ一人の父さんだものね。死にたかったときに支えてあげない母さんにだって問題があったはずよ。私は、そんな家庭には、絶対にしない。そしてね、父さんにも一緒に暮らしてほしいのよ。父さんは、きっと人の優しさがほしいと思うから。ねえ、だから戻ってきて…。」 俺は、そのときに潮時だと思った。俺と奴との生活が…。 奴は、とても驚いていたがそれからしばらくして、泣きながら娘に肩を抱かれて立ち尽くしていた。言葉がなかったんだろうと思う。 しばらくそうしていたけど、俺に気づいて迷った顔をした。だから俺は、気持ちを込めて一声鳴いた。「行け」と。 奴は、うなずくと娘と一緒にどこかに消えて行った。 そして、俺は旅に出た。『広い世界』を探検するために。
ドラ吉の長い話を聞きながら、キキはなおさらドラ吉を尊敬の目でみた。 「ドラ吉様を育てたその奴という方は、とても素晴らしい人間だったんですね。オレもそんな人間になら会ってみたいですね。」 ドラ吉は、キキの言葉に暖かさを感じながらもただ、降り続ける雨を眺めていた。 雨は、何もいわずにしとしとと降り続けた。
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