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作品名:焦慮なき恋情〜いつか何処かで 作者:ジャンティ・マコト

第26回   遅れた告白
純一が広島から大垣市に通い始めた同じ年の十一月始め、名古屋のホテルで丸住商事プロジェクトチームの解散式パーティーが催された。
プロジェクトチームは、三件の設計モデルを完成させ、丸住商事のテープストレージにデータ保管した時点で終了となった。
施設モデルの周回建造物の形状については、概ね、陽新プラントの原案が採用され、担当工場で作成された既成パーツをノックダウン方式により、現地で組み立てる。 
長さ15mと20m、幅2.5mの造形パーツは、現地搬入にセミトレーラーとフルトレーラーを利用して搬入する為のサイズである。
現地で接続すると7.5m幅の走路ができ、これを接続して数百mの周回路が完成する。
建造物の構造材は、三件の設計で異なり、鉄筋入りコンクリート製に関してはコムラコンクリート企画工業が設計、鋼板鋼管製に関しては構造鋼管工業が設計した。
造成を含む基礎工事は京明土木工業、プラスチック構造材については粕谷化成化学研、組み立て工事は陽新プラントが担当することに決まっていた。
スポーツ、音楽、レストラン、店舗を展開する本館建物の設計は関係各社がプロジェクトチームとして設計。
内装調度品関係に関しては相国インデリアデザインが受け持ち、本館建築は丸住商事系列の建設会社が受け持つことで設計プランは完成を見た。

パーティーが終わると、名古屋市内の社宅に住む構造鋼管工業の長谷野達明が、大学の後輩でもある水野純一と相国インテリアデザインの佐伯沙織を夕食に誘った。
長谷野はふたりを市内に在る高級ではないが、地元では有名な料亭に連れて行った。
六畳の座敷に落ち着くと、直ぐに料理が運ばれてきた。
長谷野は何故か機嫌が良かった。
「よし、まずは、お疲れさん。ふたりとも良い仕事をしてくれたよ。乾杯しよう……」
ビールで乾杯し終わると、沙織が笑顔で長谷野に行った。
「上機嫌ですけど、先輩は主宰者じゃないのに改めてお疲れさんだなんて、どうしたんですか?」
「沙織ちゃん、そっちこそ機嫌がいいんじゃないか?。水野、相変わらず恋愛に関しては不器用だなあ……」
「なにがですか、突然そんなこと……」
「他のメンバーはともかく、僕は大学四年間、ピアノサークルで君らと一緒に居たんだぞ……。水野、僕の口から言わせるのか……」
沙織は長谷野の言っていることに勘づいて純一の顔を見た。その様子を見た長谷野が言う。
「間違いないな、僕の勘も捨てたもんじゃないだろ……」
純一が答える。
「先輩、分かりましたか?」
「ああ、沙織ちゃんも水野も、こうなるまでに何年掛けるんだよ……。サークルのみんなが知ったら、今更かって言うだろうな……」
「先輩のお陰でもあるんです。初日に、あの頃のことを言われなかったら、そのままだったと思います。感謝しています、ありがとうございました」
「そうか、沙織ちゃんはこれで良かったのか?」
「先輩、分かっているなら、もういいでしょ。でも、気にかけて頂いて、ほんとにありがとうございました」
「そうか、それでいいんだ。当時はピアノサークルでふたりを見守って、今頃になって、こう云う席にふたりを誘うことができるとはな……。今日、声を掛けたのは無駄にはならなかった訳だ……。
そうだ先に聞いとこうか、ふたりとも、これからどっちに帰るんだ?。東京か?」
「いえ、僕は、今日は京都に帰ります」
「ふたりともか……。そうか、もう両家の家族は承知してるんだな?。よし、時間まで飲んで食べてくれ、先輩からの早めのお祝いだ……」

思い返せば、沙織がプロジェクトに加わって来たのは、八月の盆明けの頃からだった。九月末まで、西陣の伯母の家から大垣に通っていた。
当然のように、純一と同じ電車で京都と大垣を行き来した。
ふたりは機会があれば、プロジェクト終了後のお互いの事を話し合っていた。

相国インテリアデザインが担当する店舗周りとレストラン部分の内装設計作業が終了した九月下旬の金曜日だった。
この日は大垣でのミーティングが五時前に区切りがつき、週末と云うこともあって、全員が早めに作業終了となった。
純一と沙織は六時前まで待って、乗り換えの無い“特急ワイドビューひだ”で京都に帰ることにした。
七時過ぎに京都駅に着いた純一と沙織は、大垣の作業場を出る前に予約を入れておいたJR京都伊勢丹の上層階にある、イタリアンの店に行く。
店内では、通路に面した壁沿いの対面二人席のテーブル席が準備されていた。
ふたりが話すのには丁度いい空間と雰囲気だった。
ふたりからは特に深刻な気配は感じられず、長い期間、仲良く過ごしてきた恋人同士の様だった。
食事をしながら、純一から話し始める。
「あれから僕の家族には全く問題は無かったよ。両親も妹も沙ーちゃんのことは高校生の頃から知っているんだから……」
「良かった。それはわたしの家も同じ。東京から帰って来ると思っていたのに、長野県になるかも知れないって話したら、なんて言ったと思う?」
「さあ、残念に思ったんじゃないの……」
「ううん、結婚して落ち着いてくれるのなら何処でも良いって……。気が抜けちゃったわ……」
「結婚式のことは話したの?」
「話したわ、わたしも純ちゃんも、引継ぎや次の仕事の契約や打ち合わせがあるし、純ちゃんの会社は既婚者じゃなきゃ社宅を準備して貰えないから、時間が無いから籍だけ入れて既婚者になるって……」
「まあ、その通りなんだけど……。お母さんは何も言われなかった?」
「花嫁姿がみたいとか?……。そんなのは無いの。母は意外と新しい考えのひとだし、あまり形式とか慣習に捉われないひとだから……」
「そうかな、そうは見えないけど……」
「純ちゃんだから話すけど、兄はできちゃった婚で生まれてるの……だからね、西陣の伯母さんは、そう云うことには厳格なクリスチャンでしょ、ちょっと合わないのよ……。
そう云う母だから、父は親戚や近所付き合いで苦労しているみたい……。でも、優しいから母に愚痴を言ったりはしなのよ……。純ちゃんの方は?」
「籍を入れて、そのまま遠くに住むことに関しては、別に何も思わないみたいだったな。
水野食品は叔父さんが継ぐことも決まっているし、遠くに居るのは今迄と同じだから。
それより、最初に沙ーちゃんと結婚するって話したときの方が色々と言われたよ。
母と妹には、長いこと何もしないで放っておいて、呆れて物が言えないって……。
父には、何をしてたんだって言われて、参ったよ……」
「それは気にしないで。わたしが何も思っていないんだから……。理屈っぽくいえば、わたしが純ちゃんに何かして欲しいって言わなかったのは、わたしの恋愛の処し方だから……」
「それは僕も同じだけど、先輩からも色々と言われてるし、学生時代に悪いことしたのかなって思ってる……」
「そんなこと無いわよ……。純ちゃんは高校の時から、ずっと、わたしにとっては恋人だったし、純ちゃんはそれに応えて優しくしてくれていたから……」
「僕が沙ーちゃんを恋人だと思っていなかったとしても?」
「そうよ、純ちゃんはわたしを特別に見てくれていたわ。何時もクラブ活動から帰るとき、送ってくれてたでしょ……。ふたりは好き合ってるって、みんな噂してたのよ」
「そうか……。十年以上も前からなんだ……。一度もデートに誘ったことは無いし、今になってごめんとも言えないし。申し訳なかったと言った方がいいのかな……」
「そんなこといいわよ、わたしも同じなんだから……。高校の時も大学の時も、想いを言葉で純ちゃんに伝えなかったのは自分でも変わっていると思っていたから……。
普通の女子だったら、もっと積極的にアピールしてたと思う……。周りの友達はそうだったから……」
「そうかなあ……。ねえ、大学を卒業してから随分になるけど、この間の僕たちって、どういう状態だったと考えたらいいのかな?」
沙織は天井を見るように視線を浮かせて考えていた。
「そうねえ……、アコーディオンの蛇腹みたいに考えたらいいんじゃない?」
「そうか……。こう云うことかな。普通のカップルは過ごして来た楽しい時間で、蛇腹が閉じているような状態で、密度が高くて短いんだ。
僕らは何もなく開いて伸びきっていて長いってこと?……。でも、閉じれば直ぐに短くなるか……。伸びきっていても後で取り返せるから、それでも良いのか……。笑えるな」
「いいのよ……。蛇腹が大きく開いていたら閉じる時には、たくさんの音が出せるわ、それも長く……これから密度を増せばいいんでしょ……」
「沙ーちゃん、それいい……、そう思うことにしよう。僕らだけの考えとして……」

この日、沙織と純一は、プロジェクトが終了したら両方の家族で食事をして、結婚式は今後の状況次第にしようと決めたのだった。

プロジェクト終了前に、純一は簡単な引っ越し荷物を、東京田町の以前住んでいた寮に送っていたが問題が生じていた。
本社復帰と同時に、年明け四月からと聞かされていた諏訪市への移転が、大型電算機設置と稼働の調整遅れで延びることになり、企画設計部と電算機室の移転は、下期九月に延期になりそうだと知らされた。
純一は本社企画設計部に戻ると直ぐに、中東に海外派遣される弓野と引継ぎ作業に入る。
その時点で海外に出ている企画設計部員は、インドとアフリカに二名ずつ居た。
弓野の仕事は国内外を問わず、現場に居る部員と常に連絡を取りながら、現地から届く問題を本社で検討し、解決策を現場に指示支援することだった。
純一は弓野から引継いだ全ての現場の仕様書と工程表を熟知することに努めていた。

十二月下旬だった。丸住商事からプロジェクトで設計した商標名“マルチパーパス.サーキュラー.ファシリティー”(多目的円形施設)の初受注の報告が入った。
純一には、管理部から、数日後に丸住商事東京本社ビルに行くよう指示があった。
純一が指定された日時に丸住商事本社ビル行くと、会議室使用案内ボードには“マルチパーパス.サーキュラー.ファシリティー”“オーダー.レポート.ミーティング”とあった。
会議室に向かうとき、懐かしいプロジェクトチームメンバーが三々五々姿を見せていた。
会議室で旧交を温めていると、担当者が入室して来て、出席者に着席を促した。
担当者二名が、建設規模の説明と契約手順に関する分厚いバインダー綴じの資料を机の上に配布して回った。
丸住商事の責任者が挨拶をしてミーティングが始まり、施設予定地は茨城県日立市の廃工場跡敷地、約5,900uに建設。
地質調査と整地作業は年明けから始め、完成予定は同年七月と説明があった。
相国インテリアデザインの佐伯沙織には、若い男性社員が同行しいた。
構造鋼管工業は、東京本社から担当者が出席していて長谷野の姿は無かった。

この日、純一と沙織は顔見知りのメンバーに、自分たちが結婚する間柄にあることを隠していた。
純一が沙織と簡単に言葉を交わすだけにしたのは、週末に品川で会う約束を数日前にしていたからだ。

純一は妹藍子の結婚式が六月に決まった時には、三月始めに自分たちの婚姻届を出す予定にしていた。
五月下旬には同期で電算機室所属の稲村宗次郎の結婚式があり、夫婦として出席することにしていたからだ。
稲村とはお互いに新婚夫婦として、四月には諏訪市の社宅に入居する予定だった。
沙織はプロジェクトが終わった時点で、結婚予定と退社の意向を会社に伝えていた。
そのことにも変化が生じていた。
このこともあり、藍子の結婚式には出席できないかも知れないと家族に伝えていた。

諏訪市への移転が延期になったことで、出席できると京都に連絡すると、母の美菜子から連絡があった。
沙織さんに関わることなので、ふたりで会って沙織さんの考えを確認するようにと言って来ていた。





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