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作品名:焦慮なき恋情〜いつか何処かで 作者:ジャンティ・マコト

第19回   19
発足するプロジェクトに関する説明会は、設立に至った経緯の説明と参加企業各社のメンバー自己紹介から始まり、各社の技術的担当分野の説明があった。
土木工事関連から大型鋼管製作会社、プラントエンジニアリング、店装インテリアデザイン、総合食品関連、化学関連、映像関連、舞台プロダクション等に加え、スポーツ関連のスケートボード、インラインスケート、BMX(バイシクルモトクロス)関連の企業が名を連ねていたのは意外だった。

プロジェクトでデザインされた全施設と、これに関わる全ての完成プランについては丸住商事が施設プラントとして商品化し、商品登録も行う事。
本プロジェクトに寄与する各社の責任分野における新案、新造新作製品、ノウハウについては、各社の責任に於いて公的登録や所有権を明確にすること。
商品化されたプラントを丸住商事が受注した場合は、プロジェクト参加各社と直接契約で発注すること等が確認された。

最終日に、初めてプロジェクトの具体的なプランが知らされた。
国内の二か所、実際の所在地は明らかにされなかった。
一件は、嘗ては大規模のボーリング場と駐車場が在った郊外の約7,000uの土地を利用した施設プランの作成。
二件目は、統廃合により廃校となった市街地に隣接した町立小学校跡地で9,600uの土地利用した施設プランの作成。
二件について丸住商事が概要と条件を説明した。
敷地の外周を取り巻く形で、屋内周回コースが可能な建造物とすること。
周回建物はランニングコースとインラインスケートコースを並行させる。
周回構造物は中央に建てる三階建て建造物に繋げる。
周回コース内側の、十の字に分割された敷地の一つのスペースは多目的ステージを設ける。
他にスケートボード用ストリートスタイル施設とパークスタイル施設を設ける。
もう一つはBMX用のフラットランド施設と、スペースによってストリートコースを設ける。
中央三階建ての一階は半地下構造とし、電気室など管理設備と冷凍冷蔵庫室、ロッカールーム等を配置。
二階は全周観覧用ガラス張り窓とし、スポーツ用品店舗、受付、更衣室、シャワー室、貸出用具保管庫等を配置。 
三階も全周観覧用ガラス張り窓とし、全フロアをレストランとして利用すると云うものだった。
プラン作成に要する期間は、四月から作業を開始し十月までの七か月間とし、十月末には完成図書を作成してプロジェクトを終了とすることも伝えられた。

最後にプロジェクト推進担当者が、YOSIN.PE.Co.水野純一を指名した。
純一は突然のことに動揺したが、指名されるまま立ち上がった。
「今回のプロジェクトに関しましては、最終的にはプラント施設建設に通ずると我々は考えております。
海外などでも大規模のプラント建設に従事され、総合的な建設技術とノウハウを持っておられる陽新プラント様に計画推進役をお願いしたいと考えております。
今回ご出席頂いております水野様には、突然、耳にされて驚かれたと思いますが、御社の幹部の方とは話がついておりますので、近日ご連絡があると思います。宜しくお願い致します。
此処においでの皆様には、このことをご了承いただき、協力のほど宜しくお願い致します。
水野様にはプロジェクト作業開始時にご挨拶を頂きますので、本日はご紹介だけと云う事で、宜しくお願い致します。水野様、どうぞお掛けください……」
参加者の拍手だけを受けて純一は軽くお辞儀をしてから着席した。

最終日のミィーティングは午後三時に終わり、次回はプロジェクト作業の拠点となる大垣市のホテルに集合するよう指示を受けた後、散会となった。
参加メンバーは互いに挨拶を交わし、会議室を出てロビーに下りて行く。

ロビーでタクシーを待つ間、佐伯沙織が純一に話しかけた。
「大役ですね。宜しくお願いします……」
「突然なんだもんな……驚いたよ。何も聞いてないし、」
「水野さんなら大丈夫ですよ。それより、今日はこれからどちらへ?」
「このまま東京本社に行って、この三日間の報告をすることになっているんだ。沙織さんは?」
「わたしも今日は東京よ」
「今日はって?」
「うん、わたし、このプロジェクト参加が終われば、区切りをつけようかと思っているの……」
「区切りって、会社を?、それとも仕事?」
「まだはっきりとは決めてないのよ。東京の独り暮らしを両親が心配してるの……大学を出てからずっとでしょ。それにこの歳だから」
「そうか、分からないでもないな……。ねえ、プロジェクトの作業は各社の担当分野に関わる時だけ参加することになると思うけど、何処から通うの?」
「東京からになると思うけど、何日か続くことになれば伯母の所か実家からと思っているんだけど……」
「長岡京だったよね?」
「そう、兄が後を継いでいるんだけど、まだ独身なの。だから小姑って訳じゃないから、しばらくは実家でと思っているんだけど、遅くなるようだと伯母の所にお世話になろうかとも……」
「伯母さんの処って、高校時代に下宿していた西陣の?……。今日は一度長岡京に帰ってから東京に?」
「ううん、実家には寄らないわ……。新幹線の切符は取ってるの?」
「いや、何時に終わるか聞いてなかったから……」
「じゃあ一緒していいかしら?」
「もちろんだよ。ひとりじゃ退屈だなって思っていたんだ、助かるよ……」
長谷野が近づいて来た。
「いょー、ご両人。これからどっちに帰るんだ?」
「僕は東京に行きます。本社に報告に行かなきゃならないんで……」
「沙織ちゃんは?」
「わたしも東京に、水野さんと一緒に帰ろうって話していたところなんです」
「そうか。じゃあ僕はこれで帰るから、気をつけてな。それと、これから宜しくな……。水野は大変な役だけど、君なら大丈夫だ……。じゃあな、お先……」

純一も沙織も新幹線の品川駅で下車する。
三時半過ぎの“ひかり”指定席の二列席を当たったが取れず、その五分後の“のぞみ”で指定席の二列席が取れた。
“のぞみ”を待つ間、ボトルコーヒーとチョコレート菓子を幾つか購入した。

純一と沙織が会うのは大学卒業後、初めてだった。
三日間、隣同士の席で過ごしたことで、お互いが一気に学生時代の友人同士に戻った気がしていた。
新幹線の中で並んで座っていても、お互いに気兼ねすることなく、旅行をしているカップルの様に気楽に会話し、よく笑った。学生時代に戻っていた。
品川駅までの92分は短く感じられた。

品川駅で、純一が沙織の帰りのことを心配しながら食事に誘うと、東急東横線の祐天寺近くに住む沙織は、タクシーで帰るからと言って、誘いを受けた。
二人は品川駅を出ると、駅近くのイタリアンレストランに入った。
サラダを三種とグラスワイン、後で純一はピザを沙織はスパゲッティを頼んだ。
向かいに座り、互に目が合うことがあっても、ごく普通で居られた。
学生時代と変わらず、沙織が優しい眼差しで純一を見詰めると、純一は笑みで応えた。
互いが独身でいることは新幹線の中で、それとなく分かっていた。

ワインを飲み、生ハムとグリーンサラダを口にした後、純一が話しかけた。
「今回のプロジェクトは年内には終わる予定だけど……、それからどうする予定なの?」
「うん、東京からは離れようと思っているの。上司からは大阪の関連会社を紹介するように上に話すから、仕事は続けたらどうかって言われてるけど……」
「仕事が嫌な訳じゃないんだろ?」
「まあね、でも純ちゃんの仕事と似てるの、最近は現場に出向くことが多いのよ。
今の会社は男女差別は無いから、担当した設計デザイン現場は責任者として現場を監督することになっているの。
この前の仕事も、今回のプロジェクトを主宰する丸住商事から受けた郊外型アウトレットモールの現場でね、地方だったんだけど、長期出張で現場に詰めていたの。
わたしはそんなに体力的にタフじゃないから、店舗や屋内インテリア設計の机上仕事の延長で、現場の進捗状況や出来映え確認するくらいなら大丈夫だけど、現場監督のような仕事には限界を感じているの……」
「そういうことか……。ねぇ、仕事とは関係ないけど、訊いていい?」
「なに?」
「結婚とか、恋人は?」
「純ちゃんと一緒じゃないかしら……」
「仕事が忙しくて?……。長谷野先輩に言われたよ。忙しいからと云って、恋愛ができない理由にするなって……」
「そうね。純ちゃんは高校時代から大学の頃も、そんなに女子学生に興味を持ってないみたいだったわ。本心は分からなかったけどね……」
「興味が無いわけじゃ無かったけど、他にすることがあったからだと思うけど……。
沙ー(サー)ちゃんだって知ってるだろ、高校のときは英語部以外の日は科学部で校外に出ていたし、雨の日は図書室にこもっていたから……」
「それは覚えているわ。純ちゃんの家に遊びに行っても、お母さんの方がわたしの相手をしてくださって、純ちゃんは他のことをしてることが多かったもの……」
「そんなことあったね。家では何をしていたか覚えてないけど、大学の頃は研究室に詰めていることが多かったし……。
でもピアノサークルの日は必ず顔を出していただろ……。そんなのが理由で女性と遊ぶ時間が無かったのは事実だと思うけど……」
「わたしが純ちゃんに付き合って欲しいと思っていて、それを知っていたら同じだった?」
「そうだったの?。それは、気付かなかったら今でも同じかも知れないな……。
でも、久しぶりに沙ーちゃんに逢えて、なんか嬉しいんだよな……」
「どうしてなの?」
「何て云うかな……付き合っていた彼女と離れていただけみたいな、変な錯覚と云うか……、妄想なのかな……。
そう云えば高校時代に英語部で会って、大学はピアノサークルでも一緒……。
沙ーちゃんは家に遊びに来ていたけど、七年も一緒だったのに卒業まで一度も一緒に遊びに行ったことは無かったなあ……」
「それって、純ちゃんは、そうすれば良かったと思っているってことかしら?」
「多分、そうだと思う……。沙ーちゃんは仲間に人気があったし、みんなに優しかっただろ……」
「そんなこと……。ほんとに人気があったら、今も恋人が居ないなってことないでしょ?」
「ほんとに?……。長谷野先輩からは、当時から君らは好い感じだったって言われたけど、ちょっとピンと来なくて……」
「そうよ。長谷野先輩はあの頃から、わたしがピアノサークルに行くと、そう言ってからかっていたのよ……」
「ねえ、変なことを言うと思わないでくれる?」
「ええ、いいわよ……」
「あの頃の僕は沙ーちゃんに優しかったのかな?……僕は沙ーちゃんに恋をしていたのか?」
「していたんじゃないのかしら……わたしには特別優しかったもの……。
それとね、長谷野先輩以外にも、水野くんとデートしないのかって、何人から言われたか知れないもの……」
「それって、沙ーちゃんに悪いことしたってことか?」
「そうよ……。なんて、冗談よ。悪くはないわよ。わたしも自分の想いを純ちゃんに伝えてなかったから……。
あの頃の純ちゃんは学生の本分を忠実に守っていただけよ……。それはみんなが認めていたわ」
「それじゃ、僕たちの関係は破局したとか、僕の失恋とかじゃないよな?」
「無いわね。だって純ちゃんには恋愛をしていたと云う実感が無いんでしょ……。
空想の恋愛みたいなものじゃない?。地に着いていないし、普通の男女の恋愛のような付き合いも行動もしてなかったんだから……」
「と言うことは、僕は沙ーちゃんの気持ちに気付かず、考えることもせず、訊くこともしないで七年間過ごして卒業して、沙ーちゃんと離れたってことか……。
なんて僕はノー天気なんだ、勿体ない……。気付いていれば、もっと楽しい学生時代を過ごせたかも知れないってことだもんな……」
沙織は微笑みながら呆れて聴いていた。
「ねえ、沙ーちゃんの気持に有効期限とか時効はあるのかな?」
「いままで独りってことは、無いんじゃないのかしら……。純ちゃん、その質問、わたしは喜んでいいの?」
「もちろんだよ。そうか……そうだったんだ……」
「なんか、ひとつも変わってないわね……。ほんとうに海外で活躍していたしっかり者なのかしら……」
「それは本当だよ。ただ、海外に行くと胃腸に異変が起きて、帰国するとケロッと治ってしまう……。苦戦しながらだったけど成果は上げたよ。
それで、僕も沙ーちゃんと同じように、退社か国内勤務転属を考えたことがあったんだ。会社の方針転換と上司のバックアップもあって、結果、今は広島に派遣駐在しているってことだよ……」

二人は互いの連絡先を伝え合い。これからは何でも相談し合うことを約束した。
純一は高揚した気持ちと、もう少し一緒に居たいと云う想いを抑えながら、沙織をタクシーに乗せた。
沙織は満面の笑みを見せながら、走り始めたタクシーの車内から手を振っていた。


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