第5話 世界の境目
物語は絶えず進んでいた。そして僕はもう食い入る様に物語に入りこんでいた。
モリスがキングドラゴンの背に乗る前―――
モリスは薄暗い洞穴に追っ手から逃げるため入り込んだ。自分の息が耳に跳ね返ってくるほど息苦しい。しかしモリスは思う。 今捕まるわけにはいかない。俺が捕まったらドラゴン達は終わりだ。バカな王のために、常に世界を守ってきた竜が死ぬのは絶対におかしい。
モリスは洞穴の奥へと足を進めた。進めば進むほど、洞穴はどんどん狭くなる。モリスは足を止めた。何かが聞こえたからだ。
耳を澄ます。
「ガヤガヤ…」
モリスは先ほどよりも早く、洞穴の奥に進みだした。モリスはわかったからだ。音の正体が国王軍の放つ雑音だという事に。 もう洞穴はモリスがしゃがんでやっと通れる程の狭さになった。 音はどんどん近づいてくる。
早く。早く。
モリスは急に目が痛くなった。突如洞穴を抜け、太陽光を目にしたからだ。 次第に目が慣れてくる。そうすると何か目の前に大きな物がある事がわかった。
そこにあったのは、巨大な翼、巨大な足、巨大な手、巨大な尻尾そして金色に輝くたてがみを持った一つの竜だった。 モリスは理解した。これがキングドラゴンなんだ。 モリスは何も出来なかった。というよりその雄大な存在に惹きこまれていた。 今まで様々な竜を見たが、これほどまでに偉大な竜は見たことがなかった。
モリスは意識を取り戻したようにハッとして、口を開いた。 「わ、わたしはモリスと申す人間です!今あなた達ドラゴンが我が国の国王に狙われています!」
キングドラゴンは大きな頭を振りモリスへとその視線を向けた。 ドラゴンには言葉は通じない。それでもモリスはつづけた。 「私は守りたい!あなた達ドラゴンを!」
キングドラゴンの大きく鋭い瞳はモリスを串刺しにし続ける。 モリスは気圧された。しかし、しっかりと瞳を見つめた。 突然、キングドラゴンが翼を羽ばたかせた。物凄い風が巻き起こる。モリスは顔を両腕で覆った。 風が止み、両腕をゆっくりと下げる。モリスは見た。キングドラゴンの頭が自分の目の前にある事を。そしてその偉大な目を見て、モリスは頷いた。
そこに国王軍が到着した。それぞれが口々に叫んでいる。 「ドラゴンだ!」 「殺せ!」
モリスはキングドラゴンの首に飛び乗り、しっかりとつかんだ。 再び翼から強風が吹く。モリスを乗せたキングドラゴンは国王軍を尻目に目がくらむほどの大空へ飛び立った。
モリスは世界の広さを知った。空から見る世界はまるで違う世界だ。風がモリスを通り抜けていく。気持ちがいい。 モリスはキングドラゴンの手を見た。あれが魔法の石「ドランス」か。真っ赤な輝きを放っている。モリスは囁いた。 「ドランスの力を貸してください。」 モリスはキングドラゴンの瞳を見る。キングドラゴンの思いが伝わる。
モリスは願った。
「俺たちをどこか異なる世界へ連れて行ってください」
ドランスの輝きが強くなる。
その時だった。モリスの体が、文字になったのだ。いや文字がモリスの体を形成していた。無数の文字がモリスの体をかたどり、指先から足、頭全てになっている。モリスだけではない。キングドラゴンもだ。
―――僕は急展開に驚き、古びた本から顔をそらした。 「ふぅ。」 何だか疲れた僕は、ため息をついた。 「モリスがんばるなぁ」
ドンッ!!!!!!!!!!
突然、本から何かが飛び出た。黒い塊に見えた。僕はいすごと床に転げ落ちた。状況が掴めない。 その黒い塊は窓を弾き飛ばし、外へと飛んでいった。何なんだ一体。その時後ろから声がした。 「イテテテテ、振り落とされたのか?ん?ここが、異なる世界?」 僕が頭で描いていたモリス、本の中で走り回っていたモリスが僕の部屋に居た。
物語は大きく動き始めた。
第6話へ「つづく」。
|
|