第4話 誰がため雨は降る
僕はあの本を捨てた。
もうわけがわからなかった。
僕はベッドから出ずに、ただ眠っていた。
時々目が覚めた。
起きていてはいけないような気がしてまた目を閉じた。
また目が覚めたとき、もう夜になっていた。雨が降っている。
雨音を何も考えず聞いていた。
いや、本当は考えていた。あの本の事を。
あの本を捨てる前の「ドラゴンキングダム」のつづきがどうなったか。本当は気になっていた。モリスはついに国王軍に捕まってしまった。そこまでは読んだ。
そして僕は急に何かを思い出したように、慌てて本を窓の外に捨てた。
気味が悪かった。怖かった。だから本を捨てた。いや、自分の物語を捨てた。 自分じゃない誰かがつづきを描く、こんな事誰に話しても信じてくれないだろうと思った。そりゃ誰だってこうしただろう。
雨音が鳴る。
ウキウキしながら帰ってきた帰り道を思い出す。あの時は久しぶりに生きていた気がした。でももう僕の物語はここにはない。 誰かに奪われたの?いや、そうじゃない。
誰かに壊されたの?いや、そうじゃない。
僕が捨てたんだ。僕が放り出したんだ。「つづき」も何もかも。
雨音が強くなる。
捨てた物語はもう帰ってこないの?もう取り戻せないの? 誰かが僕に尋ねる。
だってあれはもう僕の物語じゃないんだ。 ―――君の物語だよ。君が描いた世界、君が描いた人が生きている君の物語だよ。 誰かが答える。
僕はベッドから起き上がった。そのままの勢いで外に飛び出した。一瞬でずぶ濡れになる。 窓の外側、草がぼうぼうに生えた空き地を睨みつける。
僕はそこに飛び込んだ。
ほとんど何も見えない。でも僕は必死になってあの本を探した。
外にいるのに雨音は耳に入らなくなっていた。
それから何時間たっただろう、ぐしゃぐしゃになった僕の手に僕の物語が握られていた。
僕は部屋に帰り、着替えもせず、本を開いた。 モリスはどうなったんだ。
モリスはキングドラゴンの背に乗っていた。
第5話へ「つづく」。
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