第3話 開幕ベル
ドラゴンキングダムは佳境に入っていた。
モリスは国王軍に見つかり、キングドラゴンが住むとされる森を走り、逃げ回っている。
−頑張れモリス。
自分にそっくりな主人公を描いている内に、知らずと応援するようになっていた。 一休みするか。ふと時計を見る。夜中の4時。
しまった。夜更かししすぎた。
…でもこんなに遅くまで起きてるのって久しぶりだな。いつも会社、会社って決まった時間に寝てたもんな。
シャワーを浴びて僕はベッドに不時着した。多分寝につくまで15秒とかかっていないだろう。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
朝の開幕ベルが鳴る。 く。つらい。こんな朝久しぶりだ。目覚まし時計が憎たらしい。
僕はフラフラしながら、朝食を食べ、身支度し、会社へ向かった。
今日の残業はこたえた。 でも今の僕はそれでもウキウキしていた。だって明日は休みだ。ゆっくりドラゴンキングダムと遊べる。
アパートに帰り着く。誰もいないのに「ただいま」と言う。その言葉を使ったのは久しぶりだった。
さっさと着替えて、机に座った。何だか本を開くのに抵抗を感じた。昨日の事があったからかな?でもあれは気のせいだ。
ドクン。
一つ心臓が鳴った。
ドクン。
ゆっくりと本を開ける。
ドクン。
モリスは国王軍に見つかり、キングドラゴンが住むとされる森を走り、逃げ回っている。
追っ手がそこまで来ている。
――まさか。僕は手に汗を握った。
モリスは思った。走るしかない。国王軍より早くキングドラゴンを見つけ出すんだ。
――そんなバカな。
モリスがキングドラゴンに詳しいのは祖父の影響だ。モリスの祖父は国民の中で竜と共存する希少な存在だ。竜の背についているウロコを商品として生計をたてていた。竜のウロコの輝きは人を魅了する。竜にとっても、古いウロコは邪魔なだけの存在であり、完全に利害が一致していた。
僕はそこまで読んで本を落とした。いや、持っていられなかった。やはり誰かがつづきを書いている。 その事実が僕の頭を何度もハンマーで打ち付けるようにガンガンと飛び交っていた。
――誰が。
――なぜ。
――どうやって。
――いつ。
その時、僕は無造作に落ちただけの本の上に信じられないものを見た。
字が増えていく。透明な誰かが、透明のペンで文字を書くように、文字が増えていく。目を擦り、凝視する。それでも文字が増えていく。つづきが描かれていく。
僕は何もできず、頭では理解できない事をただ眺めて理解しようとしていた。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ
何かの始まりを告げる開幕ベルが頭の中で鳴っている気がした。
第4話へ「つづく」。
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