第2話 ドラゴンキングダム
ジリリリリリリリリリリリリリリ
平凡な朝がやってきた合図が、がなりたてる。
僕は机の上で目が覚めた。そうだ。昨日僕は、自分だけの物語を描き始めたんだった。妙な興奮がまだ体に残っている。書きかけの本を手にとって、僕はしばらく眺めていた。
…しまった。遅刻する。
朝飯はコンビニだ!走れ!
飛び乗った電車の中で、僕は自分だけの物語を思い返していた。
ジャンルはファンタジーさ。タイトルは「ドラゴンキングダム」!どう?かっこいいだろ?
時代設定やら世界観なんて無視。どうせはじめっからそんな難しい事はできないんだし。
――竜が住む国。それがこの物語の全てさ。王様は竜が凶悪で乱暴で悪いものだと言う。だから兵隊はおとなしく竜狩りをする。…ドラゴンハントって言った方がかっこいいかな?うん。そうしよ。 その一方でドラゴンハントを嫌う国民もいた。竜は温厚でこの世を見守る守護神なんだ、と。そして主人公のモリス(自分の名前をもじった。)もその考えの1人だった。もちろん設定は僕と一緒の平凡普通凡才。 竜の中でも最も大きく、偉大な竜をキングドラゴンと言う。キングドラゴンが死ねば、全ての竜が死に絶えるくらいの偉大な竜だ。何で死ぬかは理由を考えてないけど。 王様はついにそのキングドラゴンを退治する事を決意する。 モリスは竜を守るため、キングドラゴンを守るため、たった1人で国王軍に立ち向かう。
おもしろそうだろう?昨日はここまで書いたんだ。
会社についてから会社を出るまで僕はずっとドラゴンキングダムの事を考えていた。 早く家に帰りたい。ドラゴンキングダムを完成に近づけたい。
こんなにドキドキする帰り道ははじめてかもしれない。だって自分だけの物語をついに描き始めたんだから!
アパートに着き、シャワーも浴びずに僕は創作活動に入った。
夢の本を開く。ペンを執る。
昨日まで描いた部分までのページを読み返し始める。
モリスが国王軍が出発するのを目撃するくだりだ。 …あれ?僕こんな事書いたんだっけ?
モリスが国王軍を尾行し始めた。モリスはたった1本の棒きれしか持っていない。
…僕は書いた記憶がないぞ。
モリスは知っていた。ドラゴン達を救う方法を。
…何だって!?そんな方法あるのか??どういう事だ…。僕は背筋に悪寒が走るのを確かに感じていた。僕は書いていない。僕はこんな事書いていない。何故!?どういうことだ! 寝ぼけてここまで書いたのか!?いいや、朝読んだ時は確かになかった! パニックになる僕を置いていきぼりに物語は進み続ける。
ドラゴン達を救う方法、それは一つ。キングドラゴンの手にある、魔法の石「ドランス」を使う事だ。
…汗が噴出す。誰だ。僕だけの物語に「つづき」を書いたのは。この部屋に勝手に入ったやつがいるのか。泥棒!? あたりを見回したが部屋が荒らされた形跡はない。 何が目的でこんな事をするんだ。
「ドランス」は魔法で別の世界に生命体を移動させる事ができるのだ。その「ドランス」でドラゴン達を別世界に送る。モリスは固い決意を胸に、棒きれを握り締めた。
僕が書いていない物語はそこで終わっていた。
頭が真っ白になる。やっぱり僕が寝ぼけて書いたのか…。それしか考えられないよな。でもそれなら朝読んでるはずだぞ。考えがループする。何か気持ち悪くなって僕はベッドに転がった。 …誰かが僕の物語につづきを書いた。 そんな考えを否定したくて、僕は頭を振った。
…ドランスか。中々おもしろいなぁ。
…これからどうなるんだろ。
いつの間にか作者から読者になっている事に気がついて、慌てて僕は目を閉じた。
よし!考えるのはやめにして、続きを書くか!疲れていてちょっと頭がボケただろう!
そして、僕はまた多分自分だけの物語に入っていった。
第3話へ「つづく」。
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