第一部 Vol.1 第2話−本番−
汗の臭いが充満した鼻の曲がるようなロッカーで、男は眠たい目をこすりながら、まるで気合の入っていない顔で、ズボンのベルトを締めた。 5年間の訓練兵生活を終えて、いよいよ今日から実戦部隊へと配属になる。 男はロッカーの内側についている鏡で簡単に身なりを確認した後、帽子を目深に被り、鏡に向かって締まりのない敬礼をした。これから厳しい軍人としての生活が始まるというのに、なんとも能天気なその姿は、端から見れば首を傾げざるを得ない光景だろう。
自分が想像していたような、格好いいようなものなどではない。男はこの道を選んだことを、心底後悔していた。ただ辛いだけの毎日。月に一度、遠く故郷で暮らす母親と食事する機会を与えられる以外は、娯楽なども一切ない。どうして5年前はあんなことを考えていたんだろうかと、自分の無鉄砲さを痛感していた。 強く抱いていた父への思いも、いつしか消え去ってしまっていた。
早朝ですら30℃近い気温のあるユニバース南西部の町、カデ・リナ。 日中ともなれば立っているだけで汗が身体中から噴きだし、目まいを起こすほどの熱気に包まれるこの地で、男に初めての任務が与えられた。
それはここ、カデ・リナにある対旧連合軍用兵器開発施設、ヴィノ・ティントでの見張りというものだ。しかし、正直なところ全く気が進まない。もともと暑いのは得意な方ではない上に、見張りなんて退屈なことを一日中やるなんて男には耐えられなかった。 唯一の救いといえば、持ち場が屋内だったということだ。 空調があまり効いていないためお世辞にも涼しいとは言えないが、直射日光を浴びずに済むことで気休め程度ではあるが外よりはいくらかマシな環境だった。もしもこれが外での見張りだったら、本当に逃げ出していたかもしれない。
男はロッカーの奥に立てかけてあったケースから真新しいAK-47を取り出し、朝礼を済ませるため、ロッカールームを後にした。
※:AK-47・・・アサルトライフル(突撃銃)の一種。
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