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作品名:にゃーと聞こえたらそれは多分猫の鳴き声 作者:BaL

第2回  
第一部 Vol.1 第1話−俺−



俺がまだ5歳の頃、小さな田舎町に住んでいた俺達家族に、「国」から一通の手紙が届いた。父への徴兵命令だった。

当時の俺には何もわからなかった。その日の夕食が、三人で食べる最後の晩餐になるなんて、思いもしなかった。だって、父も母も普段どおり明るくて、まるで手紙のことに触れなかったから。
でも、今思うと、あれは触れなかったんじゃなくて、触れられなかったんだと思う。きっと、最後だってわかっていたからこそ、精一杯の笑顔で、精一杯の思い出を繕っていたんだと思う。

翌日も、母は普段どおりの笑顔で父を見送った。そして父も、普段どおりの笑顔を残して出かけていった。
いつもと違うこと、それは、父が夕方になっても帰ってこなかったこと。
その日、昨日までは三人で囲んでいた食卓に、今まではなかった空間が、ぽつんと出来た。

10年後、残された二人の下に、再び「国」から手紙が届いた。
俺への入隊許可証が同封してあったその手紙を見たとき、母は珍しく泣きじゃくり、一晩中、俺に「どうして?」と聞き続けた。今では、俺は母にものすごく残酷なことをしてしまったと、反省と後悔の念にかられている。

その時、母を説得するためにどんなことを言ったのか、その内容は覚えていない。
一つだけ覚えているのは、それが当時の俺が持っていた、揺るぎない意志だったということだけだ。

その後、俺は軍の兵士養成機関へと送られ、5年間みっちりしごかれた。その辛さといったら、とても言葉で表せるような生易しいものではない。もう二度とやりたくない。本当にそう思った。

5年後、俺は訓練兵生活を無事に終え、軍人としての第一歩を踏み出した。
その時のことは、今でも鮮明に覚えている。

全ては、あのとても暑い日から始まった―


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