定食屋の親父は3,764種類のタレのレシピをまとめたメモを見ながら満面の笑みを浮かべた。 「仮にうちの店が年中無休だったとしても10年以上毎日違うメニューを用意できる。」 定食屋の親父は笑いを堪えられずにいた。 「ふ、、、ふふ、、、ふふ、、、」 一つ一つのタレに女優や有名人の名前と番号をふった。 ピリッと辛く、舌を刺激して食欲をそそる一つ目のタレに、海外の女優の名をつけた。 アンジェリカジョリーと名をつけた。自信作だ。 一口、舌に乗せると濃厚な味に身を包まれ夢心地になる二つ目のタレにも海外の女優の名をつけた。 二コールキッドマンと名をつけた。もちろん自信作だ。 自分で作ったたくさんのタレ、、つまりソースのレシピを記したメモを次々にめくりながら、 満悦の表情で想いをめぐらせた。 「ここまで長かったなあ〜〜〜〜。」 リブタイラーという女優の名前がついたソースのレシピを見て、 「これは正しく彼女のイメージのタレだ!」 と、うなづいた。 透き通ったソースは薄味を予想させるのだが、、、一口食した瞬間、まるで夢の世界に踏み入れたかのような錯覚に落ちるほどの 濃厚な味に包まれる。そうだ!俺はこの瞬間に恋焦がれていたんだ!そんな気さえした。 「よし!この3,764種類のタレでファミリーレストランなんか全て蹴散らしてやる。」 定食屋の親父は、拳に力を込めた。 さて、、、いつから、、どんな風に始めようか? そう考えている時に、ふと、目に止まった名前のレシピがあった。 そのレシピには、妻の名前がつけられている。 ちょっと考えてみたが、、、どんな味か?思い出せない。 「俺が考えたレシピなんだよな?」 一人つぶやいて悩んだ。 「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、、、、」 どんな味だっけ?思い出せない。 悩んでいてもわからないな?と調理場に入ってレシピ通りに作ってみる。 「ふむふむ、、、で?あ!そうするわけか?」 あれこれ作業を続けて30分が過ぎた。 「ちょっと、、、これ、、、、手間が、かかりすぎるけど、、、、」 12時間後にやっと妻の名前をつけたソースのレシピ通りのソースを完成させて、味見をして、男は涙を流した。 「こんな美味いモノ他人に食わせられるかよ!まさしくうちのかみさんのイメージだ!」 いつも黙って仕事を手伝ってくれる妻に感謝の気持ちを伝えられるのはこのソースしかない。 そう思って結婚記念日にかみさんにだけ作ってあげる特別料理に使う特別なソースにしました。 ただ、、困った事にこのソースを味見した後はどのソースもイマイチ味気なく感じるようになってしまった。 彼は悩んだあげくに日替わり定食を作るのをやめる事にしました。 代わりに今後値段を一切上げない経営を続けてお客さんに喜んでもらおうと決心しました。 彼のお店が今でもパッとしない理由にこんな理由があります。 でも、その店に日替わり定食はありませんが、、、 そこのメニューで紹介される料理の全ては身代わり定食と言っても過言じゃないでしょう。 汁物以外は全品味噌汁付で39年間変わらない料金、、、おっと、これ以上書いたらお店の宣伝になるから書けません。 小さなお店にもたくさんの素敵なドラマがあります。 探してみて下さいね。 私はこの小さなお店を微笑ましく眺めるのが精一杯。 身代わり定食を美味しい美味しいと言って喜んでるお客さんを見るのが楽しかったりします。
お終い。
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