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作品名:影響 作者:タブ朗

最終回   1
ある朝、ある家のお父さんが長い時間トイレで用を足しながら新聞を読んでいると、
遅刻しそうになった少年がたまりかねて家を飛び出し学校へ向かった。
少年は、困っていた。ギョウチュウ検査のウンコを用意してないからだ。
「一郎君オハヨウ。あれ用意した?」
「あ、オハヨウたかし君。」
一郎は、友人のたかし君に聞かれた質問に顔を曇らせた。
「昨日出なかったから朝がんばろうと思ったんだけど、、、お父さんがトイレ長くて、、、」
「えええ?じゃあ用意してないの?」
「うん。」
一郎君は、悩みながら視線を電信柱におしっこをかけてる犬に向けた。
「あ!あれを使えばいいんじゃない?」
電信柱のわきにウンコを見つけてつぶやいた。
「マジで?」
「うん。持っていかないよりマシでしょ?」
「そうかも知れない。」
これが恐ろしい事件の始まりだった。
午後になって学校に救急車がやってきてとんでもない騒ぎになったのだ。
「人間の体内で見たこともない寄生虫を体内に宿してる生徒がいる。」
と病院の先生が救急車に乗ってやって来たのだ。
一郎君が「朝までに用意できなかったから道に落ちてたウンコを拾ったんです。」と、事情を説明するも、
「怖がらないでいいんだよ?ちゃんと病院で検査して対処するから。」
と信じてもらえず、結局クラスの担任の先生が病院まで付き添った。
検査の結果、何事もない事がわかってもらえたわけだが、その後で担任の先生に2時間も説教される羽目になった。
「お父さんのバカ。」
家への帰り道で一郎君は大声で叫んで拾った小石を川へと投げた。
その川で釣をしていたおじさんがいた。
いつもここで釣りをしているが釣れたためしがない。
と、そこへ小石を投げる少年を見つけたものだから腹いせの対象に少年を選んだ。
「何するんだ?このくそ坊主〜っ。」
突然怒鳴られた一郎君は慌てて逃げた。
腹いせの対象を逃がした釣り人のおじさんは、釣り道具を片付けだして、
しばらくして自転車を走らせた。
定年退職後、趣味が何もない事に気づき、釣りなら道具代もそう高くないし簡単にできそうだと始めたのだが、
これがやってみると全く釣れない。かえってストレスをためているのだ。
途中スーパーへ寄って晩酌のおつまみを何にしようか?選別していると、、、
「今日は旦那にお刺身を買うって約束してるのよね〜。」
と友人に話してる主婦を見かけて、次に刺身の盛り合わせに目を向けると、、、
一品しかないのを見て慌てて刺身の盛り合わせを手に取った。
鮮魚コーナーに貼られたチラシを見ると今日は刺身の盛り合わせの特売日らしい。
「悪いね奥さん。今日は刺身で晩酌って決めてたんだ。」
と嘘をついて立ち去った。
釣り人のおじさんは上機嫌で家に帰った。
「あの、、店員さん。刺身の盛り合わせは、、もう用意できないのかしら?」
主婦がたずねるも、
「ハイ。申し訳ありませんが、、本日は特売でさっきのが最後なんですよ。」
と、鮮魚部の店員に言われて渋々納得した。
「あの人、絶対私の話を聞いて買ったのよ。やーねえ。」
「世の中には、意地の悪い人がいるから、、」
「旦那のお刺身はなしね。」
実は、この主婦。一郎君のお父さんの奥さん。つまり一郎君のお母さんなのだ。
この世の中の全ての出来事は、多かれ少なかれ他の事になんらかの影響を与える。
しかもそれは、良い事をすれば回りまわって良いことが返ってくるのだが、
悪い事をした場合も回りまわって悪いことが返ってくるのだ。
しかも大きくなって返ってくるから騒ぎになったりする。
一郎君のお母さんは、嫌な事があると後に引きずる性格だった。
目の前で目当てのモノを奪われて不機嫌になっている。
一郎君のお母さんの性格を知ってる友人の女性は用を思い出したといそいそと逃げた。
「なんで私がこんな思いをしなければいけないの?
これというのもうちの旦那がたまには刺身でも食べたいなんていうからよ。」
スーパーで急遽別のメニューを考えなきゃならなくなった事にもイライラしだしたところに、
インスタントのお茶漬けが目に映った。
「あの人には、これで充分よ。後はお湯さえ用意しておけばいいわね。」
一郎君のお母さんは家に帰ると一郎君に話を聞いて驚いた。
「まあ可愛そうにお父さんのせいでそんな酷い目にあったのね。
わかった。お母さんに任せて。お父さんには罰として今夜の晩御飯はお茶漬けだけにするから。
ほら!こうしてお茶碗とお茶漬けの袋とポットを置いておくだけ。今晩はお刺身はなし!」
最初から買ってもいないのに息子をたてに自分の行為を正当化して大満足である。
そして、あなたのせいで一郎がとんでもない目にあったからお刺身はなし。晩御飯はお茶漬けよ。と書置きを添えた。
大好きな刺身を楽しみにしてた一郎君のお父さんは愕然とした。
「おいおい、どういう事だよ?」
妻に聞くと一郎君の事件の一部始終を話されて口を閉ざしてしまった。
「そうか、、、そんな事が、、それは悪い事をした。」
実は一郎君のお父さんが楽しみにしてたのは刺身だけではなかった。
大好きな刺身を食べたその夜は決まって夜の営みで良い仕事をしている。
その証拠に朝目を覚まして朝食を済ませて仕事に出かける時、自分の革靴を見ると、、、
昨日はありがとうと言わんばかりに、ピカピカに磨かれているのだ。
お父さんはそれも楽しみにしていた。
だが、楽しみにしてたお刺身をお茶漬けに変えられちゃあそんな気分にもなれない。
この世の中の全ての出来事は、多かれ少なかれ他の事になんらかの影響を与える。
このお話はそんなお話。
じゃあ、お母さんに意地の悪いことをした釣り人のおじさんはどうなったか?
あいかわらず、つまらない毎日を過ごしてるだけですよ。

お終い。


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