それは、まるで漫画か何かのストーリーのような出来事だった。 場所は、新宿歌舞伎町、時間は、朝の6時をちょっと過ぎた頃。 24時間営業の喫茶店から出てきた3人の男達のうち一人は酔いつぶれていた。 男二人が起そうと揺さぶったり、、、色々試みるが、、、結局、男は目を覚まさず、、 呆れた二人の男は、寝ている男を路上に放置して帰ってしまった。 その直後に、路上に寝ている男を見た通りすがりの若い男達が悪ふざけを思いつき、 寝ている男の靴を両方抜き取り右へ左へ投げ捨てた。 それでも寝ている男はピクリとも動かないのを見て、、、 若い男達は、寝ている男が着用しているジーンズを脱がして、、、 「これどこかのゴミ箱に捨てようぜ?」 と笑いながら消え去った。 「この後どうなるんだろう?」 立ち食いそば屋でそばを食べてる俺は、興味深く観察した。 しばらく何も変化がなかったのだが、そばを食べ終えようとした、その時に、、、 男が目を覚ました。 と、そこへ、寝ていた男の仲間らしき、男を放置した二人の男が戻ってきた。 「うわっ、、、こいつ身ぐるみはがされてるよ。」 一人の男が笑った。 目を覚まして意識がぼ〜っとしていた男が「ハッ!」となった。 「おい!お前ら悪ふざけが過ぎるんじゃねえか?」 男は目を覚ましたそばから仲間二人に食ってかかった。 仲間の一人を喫茶店のガラス窓に叩きつけ、もう一人をぶん殴って路上に倒して、 馬乗りになって殴り続ける。 下半身パンツ一丁で暴れ続ける男を見た通りすがりのヤクザぽい男がパンツ男の背中に蹴りを入れた。 「シャブ(覚醒剤)でも効いてるのか?コラッ?」 ドスの効いた声でヤクザぽい男が怒鳴る。 騒ぎが大きくなってきたところへ警察官3人が駆け寄った。 そこで騒動は一旦幕を閉じた。 立ち食いそば屋でそばを食べてた俺はそば屋を後にしながら、、、 「なんだこれで終わりか、、、いいところだったのに、、、」 胸のうちでそうつぶやいた。 それから、ふと、、、「あのジーンズは、、、どうなったんだろう?」 そう思って、悪ふざけをして、寝ていた男のジーンズを脱がせた男達が立ち去った方角へと歩きだした。 「これどこかのゴミ箱に捨てようぜ?」 確かそう言ってたな?と思いながらゴミ箱を目で探した。 センター通りからコマ劇場の手前を右に折れて少し進むとゴミ箱を見つけた。 「お!あそこにあるのか?」 そう思ったがゴミ箱には、ふたがかぶさっている。 「どうしたものか?用もないのにゴミ箱のふたを開けたらホームレスと間違われそうだし、、、」 そう思ってるそばからホームレスがゴミ箱をあさりはじめた。 ゴミ箱の中から手にしたジーンズを見つけたホームレスが歓喜した。 「ひゃっほ〜〜〜〜〜〜〜う。」 拾ったジーンズを小脇に抱えたホームレスは、俺の視界から姿を消した。 立ち食いそば屋から一連の流れを観察していた俺はニヤニヤ笑みを浮かべて、、、 「そうだ交番を見に行ってみよう!」 と考えて歌舞伎町の交番へと向かった。 交番には、パンツ男とその連れの二人とヤクザぽい男が取り調べに応じていたが、、、 パンツ男の連れの二人がまず最初に帰され、、、次にヤクザぽい男が帰された。 事情を考えれば、、、先に暴れて襲いかかったのは、パンツ男で、暴れるパンツ男を制したのがヤクザぽい男。 そう考えると、、、「なるほど!そうなるか!」と、納得した。 だが納得いかない模様のパンツ男は警察になおも吼え続けている。 それから少し時間が経ってパンツ男は交番から追い出された。 「こんな格好でどうしろって言うんだよ?」 パンツ男が怒りに震えながらつぶやいてあたりを見回した。 パンツ男と目を合わせそうになった俺は、待ち合わせを装い腕時計に目をやった。 まさか「さっきから君の行動が面白くて観察しているんです。」とは、言えない。 「くそっ、あのジーンズ、ビンテージモノで高いんだぞ?」 パンツ男は怒りながらも肩を落としてとぼとぼ歩き出した。 西武新宿線に乗って帰るようだが、、、面白そうだからと俺は距離をおきながら後をつけてみる事にした。 西部新宿駅の入り口付近でパンツ男が突然走り出した。 パンツ男が走るその先には、さっきのホームレスがジーンズを小脇にかかえて歩いている。 俺は、とっさに叫んだ。 「逃げろおおおおおおお!」 振り向いたホームレスの目に、ものすごい形相で駆け寄ってくるパンツ男の姿が映った瞬間、 「パンツ一丁、、、間違いない俺が拾ったジーンズの持ち主だ!」 ホームレスの脳裏では、こんな考えが浮かんだに違いない ホームレスは、慌てて駆け出した。 「誰だよ?逃げろなんて言ったのはあああああああ?」 パンツ男が荒ぶる。 そんな中、俺は、ほくそ笑みながら走って後を追った。 この後どうなるのか?ワクワクしている。 裸足で走るパンツ男と靴を履いて走るホームレスの距離はどんどん離れていく、 このホームレスにとってどうやら新宿は、庭のようだ。 逃げるルートがあらかじめ決まっていたようにさえ思える。 一旦JR新宿駅へ逃げたかと思うとそれから地下にもぐり、、、 もうどこへ消えたのか?わからない。 無事逃げる事が出来たホームレスは、きっと中央公園に行けば探せそうなのだが、 それを教えてあげる優しさなど持ち合わせていない。 多分今ごろテントに入り嬉しそうにジーンズを眺めている事だろう。 ふと、ポケットの膨らみに気づいて探ってみると、、、財布が入ってる事に気づいて 「うぉっ!財布まで?中身は、、、わっ、、13万円も!ひゃっほおおおおおおおう。」 無事に逃げる事ができて良かった。お金まで手にする事ができて良かった。 でも、、、あの時誰が逃げろなんて言ってくれたんだろう? あの声が聞こえなかったら、、、間違えなく捕まってたに違いない。 もしかしたらあれは天の声か? 神様が俺に人生をやり直せとチャンスをくれたのか? そうだ!きっとそうに違いない、、、 「この金で身なりを整えて仕事を探そう!」 ホームレスは、公園のトイレで体を洗い髪の毛を洗った。 それから拾ったジーンズに着替え、洗って干した服の中で一番見てくれのいい服に着替えた。 そしてテントの中の荷物のほとんどをそのままにしてテントを、、中央公園を後にした。 駅で男を撒いたから電車を使って移動するのを避けて、甲州街道沿いに初台方面に向かって歩いた。 まずは、そこで床屋を探そう。そう考えたのだ。 「新しい人生万歳。」 ホームレスは空を見上げつぶやいた。 もしかしたら、そんなドラマが展開しているかも知れない。 こう想像したらなんだかとても楽しくなってきた。 ホームレスを見失ったパンツ男は、迷路のような新宿駅の地下で途方に暮れている。 「金もジーンズも靴もなくて、、、どうしろって言うんだよ?」 壁によりかかったままズルズル、、、と腰を落とした。 そして、、、深い絶望に、、気絶するように意識をなくした。 しばらく何の変化もない時間が過ぎて、、、 遠めに眺めてた俺もいいかげんに観察する気が失せてきたのだが、、、 ズボンを脱がせて捨てたあの3人の男達が登場したから目を離せなくなった。 「おいおい、コイツ今度はここで寝てるぞ!」 「懲りねえ奴だなあ。」 「おい、お前マジック持ってねえ?」 「あ!あそこのキオスクで買ってくるよ。ちょっと待ってろ。」 男が一人ダッシュでマジックを買ってきた。 どんな事になるのか?俺は目を輝かせた。 男達のイタズラが終わった頃合を見計らって、パンツ男の前をそ知らぬ顔で通ると、、、 なんとパンツ男の額に「肉」と書かれていた。 俺はそこで寝ているパンツ男を携帯のカメラで画像を収め結果に満足し家に帰った。 それから何年か経ったある日、新宿駅地下通路で額に肉と書かれたホームレスを見て驚いた。 パンツ一丁のそのホームレスがすれ違いざまにつぶやいた。 「俺のジーンズを返してくれよ。」
終わり。
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