青く澄み切った空が眩しい。海はおだやかな波風に揺れている。夏の終りに 輝く太陽は過去の記憶を眼前に浮かび上がらせるようだ。 語りかけてくる。生きた証しを忘れたくはないと。 黒ブチの丸いメガネをかけた、頭髪はまだ40代であるがロマンスグレーに 染まりかかっているかつての紅顔の美少年が、側近従者である光郷名図美(こうごうなずみ)に話しかけた。
「戦後の日本は見せかけの繁栄を享受し、国民はいかにも豊かに暮らしているように見える。だが、あの戦争で日本は滅亡したのだ。今の日本は、日本の中の物は、民衆はすべて亡霊なんだよ。失われた物は大きい。私のいうことをきこうとしない連中のやったことだ。負けるくせして……よ。期待に応えることのできない奴等がまたこうして今なおデカイツラしているのだからな、日本は情けない 人間ばかりじゃい……」
「ほんとに面白いお話ですね。龍権さまと知り合えて私は本当に幸せ者ですわ」 光郷名図美は24歳、男の秘書であり、また弟子でもあった。 「ウッフフフフ、私もだよ。君が傍にいるだけでどれほど気持ちが和むかー、ありがとさんよ」 はにかみながら照れ笑いし男は若い女に感謝した。 「私の友人に垂也礼芯(たるなりれいしん)という男がいるが、君はまだ会ったこともないはずだが、名前は知っているんじゃないかい?」 「ええ、確かその人は龍権さまの友人でしたね」 「さっき私が友人だと言ったじゃ〜ん」 男はおちょくられてしまった。
「この人間界では「天狗」といえば悪者扱いだが、実際はそうとばかりはいいきれない。そこで人間にたいして悪さをする天狗を「邪テング」と我々は呼んでいる。 その邪テングの中にも極めて禍々しい奴等がいるのだが、奴等との霊戦で人間の身でありながら、その死闘を制した男がただひとりいる。それが私の友人の垂也礼芯(たるなりれいしん)だ」男はその戦いをまのあたりにしたかのように微かな興奮を隠さずに言った。
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