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作品名:永遠の詩 作者:英邑

第5回   第1章 〜
 
 「あなたが〈百目〉さんですか?」

懐疑を滲ませ、レインは口を開いた。

 「さっき返事をしただろう。」

目の前の男は、へらりと笑った。
美女が出て行ったあと、ランとレインは備え付けの二脚の椅子に腰掛け、男はベッドに腰掛けている。

窓を背にしている男の髪は、白金色で、昼の強烈な太陽光のせいで本当なら輝いて見えるはずだが、レインの目にはくすんで見えた。
顔は端正とも取れるが、へらへらとしている口元のせいで軽薄な印象は拭えない。
年齢はレインの年齢と近く感じられ、20代前半のように見える。
レインは若すぎることと、軽薄な容貌に落胆した。
ランの想像力の賜物の話しを聞きすぎて、我知らずレインも〈百目〉が立派な人物だと思い込んでしまったようだ。
目の前にいる男のことをどうしても信用しきれず、口が勝手に開いてしまった。
レインの横に腰掛けているランは、いまだに自分の空想から立ち直れず固まっている。
想像を否定されたことと、さっきのベッドシーンはランには衝撃的過ぎた。
実際は、ベッドに胡坐をかいている男の膝に、美女が身体をあずけ、男と戯れていただけなのだが、男女のことなど知らないランにとっては、それこそ雷が落ちてきたような衝撃だった。

可哀想に。
レインはいまだに隣で呆然といしているランを憐れに思ったが、ランには何もいわずに男に視線を合わせる。

 「では、〈百目〉さんなんですね。
  私はレイン。そしてこっちはランです。」

レインはもう一度、自分のために確認を取り、ついで自分の名と隣で固まっているランの名を言った。その際に、レインは密かに一つ息をつき、気合を入れなおした。

 「何のようだい?」

軽く、そしてやや怠惰にも見える様子で〈百目〉がレインに笑いかけた。
その顔は一見、はじめの印象通り軽薄に見えるが、目の奥には老獪な光がちらついていた。

 「あなたが、噂どおりの方なら、是非教えていただきたいことがあるのです。」

ごくりと唾を飲み込み、レインは話し始めた。


レインの話は、ごく短く簡潔に語られた。

『神の涙』を求めて旅をしているが、どこにあるのかの検討すらつかずに困り果てている。『神の涙』の場所を知っているようなら教えて欲しい。

といったものだった。
〈百目〉は簡潔に語るレインを見、ついで低い口調で口を開いた。

 「俺のことは誰から聞いた?」

 「ここから南に広がるタキ砂漠で、旅の男からだが……」

レインは〈百目〉の口調に眉根を寄せて、注意深く〈百目〉を見た。
だが、〈百目〉はそんなレインの様子を全く意に関していない調子で、

 「あのジャガルめ。」

とふて腐れたようにつぶやいただけだった。

ジャガルとは。
とレインは〈百目〉の口から飛び出した単語を頭の中から探した。
ジャガルは、砂漠の民が崇める神、〈シャン〉に仕えるとされる巨鳥のことだ。
〈シャン〉を助け、空中から〈シャン〉の意志を砂漠の民に伝え、砂漠の民は〈シャン〉へ意志を伝えることで神に仕えるとか何とか……
レインは、なんで目の前の男が、今ジャカルのことを言っているのかわからなかったが、きっと神の使者ともいえる巨鳥にあやかって、その名を名乗るものもいるのだろうと軽く考えるに止めた。
というよりも、止めさせられたといったほうが正しい。
レインが考えを廻らそうとした瞬間、ガタッと勢いよく隣の椅子が後ろに転げたのだ。
その音に慌てて横を向くと、怒りも露にランが立っていた。

 「どうしたお嬢ちゃん。」

〈百目〉はさして驚いた様子もなく、ランのことを面白そうに見ている。

 「ど、どっどうしたも、何もっっ」

ランは、怒りのためか真っ赤になって言葉につまり、

 「なんで、あんたが、〈百目〉なのよ!!」

と。一語一語区切るように、ハッキリと大声で怒鳴った。しかも、ズビシッと行儀悪く〈百目〉を指差しながら。

 「〈百目〉様だったら、もっとこう、なんていうか…
  カッコよくて、ステキじゃなきゃダメなのに!
  なんで、あんたみたいな奴が〈百目〉様なのよ!!
  信じられない!!!
  なにかの間違いでしょう。そうよね、レイン!」

身振り手振りで、騒ぎ立て、最後にはレインにも懇願交じりに同意を求めてきた。
ランは完全に頭に血が昇ってしまい収集がつかなくなっていた。
肩で息をし、語調厳しく、真っ赤になっているランを見て、〈百目〉はブハァッと堪えていたものを噴き出すと、盛大に笑い出していた。
レインはなんと言ったらいいものかと、一人苦悩してしまった。


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