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作品名:永遠の詩 作者:英邑

第4回   第1章 〜信じたくない〜

 「どういう人かしら。」

3階に上る階段で、ランは目を輝かせて満面の笑みを見せる。

 「まだ、ここにいるかどうかもわからないし、本当に知っているかもわからないだろ  う。」

興奮しているランに、レインは冷静に対処する。
砂漠で出会った男を信じたいが、「何でも知っている」なんてことが本当かどうかは別だ。
「何でも」ということは、「全て」知っているということになる。
だが、この広い世界の「全て」を知る人物などいないだろうとレインは思っている。

 「そんなことはわかっているわよ。だけど、いてもらわないと困る。
 ここがダメだったら……」

満面の笑みだったランは、だんだんと顔を俯けてしまった。声も張りがなくなっていく。
そんなランを見て、レインはハッとした。

 「そうだよな!きっとここにいるし、教えてもらえるよな。」

はつらつとした口調でレインが言えば、

 「そうよ!ここにいるわ!
  そして、きっと立派で、端正でカッコよくて、すばらしい人に違いないのよ。」

ランはグッと握り締めた手を頭上に掲げた。
その顔は夢見る少女の輝きに満ちていて、

 「そう思うわよね。」

とレインに向けた顔は、悪戯っ子の顔だった。
レインは額に手を当て、やられたと思った。
先ほどのランのしおれたセリフは、レインを慌てさせるためのもので…
つまりは、レインはランに遊ばれていたのだった。

 ―それにしても…
  立派で、端正でカッコよくて、すばらしい人っていうのは…

レインはランの顔をさりげなく見て、ランの豊かな想像力に嘆息した。
砂漠の旅人に聞いた話は、ランの中では日々脚色されている。

バメロに到着するまでの旅の間、日に何度も〈百目〉の話を2人はしてきた。
主に話していたのはランなのだが。
砂漠の旅人と別れて、一日、二日と経つうちに、いつの間にか「立派で、端正でカッコよくて、すばらしい人」になり、ランの期待は急上昇だ。
確か、男は〈百目〉の容姿については何も言っていなかったはずなのだが。
「何でも知っている」という言葉と、「占術師ではない」という言葉がランの想像力をたすけているようだった。
曰く、占術師でもないのに何でも知っているような人は、賢者に他ならない。というのがランの言だ。
賢者が立派ですばらしい人物というのはすぐに繋がるのだが。
端正で恰好良いというのは、完全にランの希望に他ならない。
がっかりしないといいけど。

レインはランの興奮し、期待に満ちた顔をもう一度見て、もう一つ溜息をついた。
そして、レインの予想はばっちり当たった。


控えめなノックのあとに部屋に入ったランは、頭が真っ白になった。
ランの隣でレインも固まってしまった。
2人の目の前には、ベッドの上で美女を抱く男が軽薄そうな笑みを浮かべていた。



 「またね。」

長い髪をさらりと流し、艶のある美女が、男にしなだれかかっていた身体を、未練がましく離した。
去り際には、ベッドの男に向かっては媚を含んだ目を向け、ランには自分の豊満な肉体を見せつけ、貧弱な肉体のランを小馬鹿にし、出て行った。
レインは挑発的な美女をちらりと見たが、ランはそれどころではなかった。
女の挑発なんぞ目に入っていなかった。
というよりも、何もかもがランの目には入っていなかった。

部屋に入ったときの光景のせいで、ランは完全に凍りついたままで、そこから思考が動いてくれなかったのだ。
今のランは、半ば気を失っていた。


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