大きな街は好きだ。 特に、それが城下町で、人の動きが活発なら申し分ない。 目の前に広がる大通りに、ところ狭しと並ぶ出店。宿の客引きの声。 そして、ドンと構えてある昔ながらの店が、一体となって旅人を迎えてくれる。 それが、嬉しくて楽しい。 ただ……不恰好なこの赤い腕輪だけが気に入らない。 大通りを眺めた後、その腕輪を見ると自然、顔が曇る。 「そんなに気にすることか?」 赤い腕輪を憎憎しげに見ていた少女の横で、大剣を腰に下げた男が軽く言い放つ。 革の鎧に身を包み、威丈夫そうな身体に人懐こい顔をした男が、少女を見下ろしながら。
「するわよ!」
不機嫌に言った少女は、見下ろしてくる男を睨みすえた。が、迫力は微塵もなかった。 肩にかかる赤茶けた髪に、かわいい顔をした少女は、小さくて幼い。いくら睨み付けたところで、大きな丸い目では愛嬌はあっても、迫力はない。 あくまで男から見れば。 「だって、レインは剣を持って入ってきているのよ。なのに、わたしはこれよ!」 不恰好な腕輪をつけた腕を、男の目前に突き出そうと思いっきり背伸びして、少女は言い募った。 「しょうがないだろう…ランは魔女なんだから。」 レインは人懐こい顔で苦く笑った。 「だったら、レインは剣士じゃない。剣士だったら剣を預けるべきよ。」 「そんなことできるわけないだろうが……ったくガキが……」 言い募るランに、レインはランを見ずに小さく言う。その声にランは「何よ」とは言ったが、それ以上は何も言わなかった。 ランも解ってはいる。剣士と魔女の違い。その危険度の違いは。 ランのつけている腕輪は魔封じで、魔力を持つものならば、誰でも街に入る前につけられる。 それは、どこででもするかと言えば、そうではない。一般的には大きな街や、城下町、王都での<決まりごと>である。 3歳児の子どもでも知っていることだ。 つまるところ、国の要人がいる場所での規則なのである。 ランが文句を言ったところで、変わることはない。 剣士よりも、魔法使いは危険視されている。 要人を守るのに、剣では対抗できても、魔力には素早く対抗できない。 護衛する立場からすれば、差は歴然とありすぎる。 ただそれだけのこと。
ただそれだけのこと……ではあるのだが、
「ね〜、これってもっとかわいくできないのかな?」
ランはレインをちらりと見て、赤い腕輪についてぶつぶつとつぶやく。 レインはそれにため息でこたえていた。 結局は、魔力どうこうというよりも、容姿の問題なのだ。ランにとってすれば。 魔力を封じられることよりも、自身にそぐわない腕輪がお気に召さない。ただそれだけのことなのだろう。 ―しかも、赤だしな……
レインはランに着けられた腕輪をちらりと見、そして納得しつつ話しをそれとなく逸らす。今回の目的の場所にもう近い。
「そろそろか。噂の男のところは……」
レインの言葉に、ランはこくりとただ頷いた。 暑い日差しに射されながら、ランとレインは街を歩く。 二人の姿は、すぐに人波にのまれていった。
|
|