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作品名:天使と堕天使の関係 作者:夢与人

第1回   現在と過去の関係
遠くで悲鳴がする。
 誰の声なのかは知らないが、原因は分かる。寂しくて、悔しい気分になるのは仕方がないのかもしれない。
 あれは、俺が殺したも同然だから・・・・・・だから、「ごめんなさい」と言いたい。でも、決して、父は許してくれないだろう。
 悲鳴が無くなり、代わりに男たちの歓喜の声が響く。俺の願いとは裏腹にまた成功してしまった。いつか、誰かにとめて欲しいと願っているのに。終わりは来ない。
 終わりの見えない苦しさにもがいているのか。現実の怖さにもがいているのか。自分でも分からなくなってしまった。

                  ※

 一人の青年の目が覚める。
 額には汗が浮かび、今にも嘔吐しそうなほど顔色が悪い。それは、夢見が悪かったことを示しているのだろう。しかし、顔色の悪さがありながらも、その顔立ちの良さには目が留まる。体は無駄な筋肉が無く、綺麗な流動線を描いている。特に金色の髪の毛は印象深い。今、噂の天才騎士とは彼のことだ。本人はまるで知らないのだが。
「くそっ。またか・・・・最近は続くな」
 微笑気味に、投げ捨てるように言葉を使った。
 青年は立ち上がり、水をコップに注ぐ。
 あたりは、白みかけている。どちらにしろ、起きる時間は近かったらしい。その証拠に部屋の外では物音がしている。既に誰かが起きて仕事をしている証拠だ。
 コップの水を飲みほし、少し安堵すると扉が開く。
「失礼します。国王陛下が謁見の間にご足労を願われております」
「わかった。すぐに行く」
 自分の声が震えているのが可笑しかった。きっと口元に笑みが出来てしまっただろうと思いつつ、青年は外を見る。外のしらみが増してきている。また、なんだか可笑しくなったのだろう。笑みが浮かび、声さえ漏れる。
(さあ、君主殿がお呼びだし、行くとするか・・・・・今日は何かな)
 余裕の笑みというのは正にこれだ。という顔をしている。
帯剣をして、扉を開く。謁見の間に行くまでも笑みが絶えなかった。
 謁見の間に着くと、国王陛下の前に立ち、ひざまずく。
 この国、ファサムの国の国王は女王だ。背が高く、美形の顔をしている。物腰がゆったりとしているが、目には大きな野望があるかのようにギラギラさせている。正にできる大人の女性のようだ。しかし、見かけよりも女王は若く、二十一歳だ。
 「よく来たのぅ。面を上げてよいぞ」
「ありがたき幸せ」
青年は顔を上げる。
 右側には王国最強の騎士団を導く七将軍がたっている。逆の左側には、女王の信頼が一番厚いと噂の名軍師ナグラムがいる。十六〜七ぐらいの歳ながら、アゴにはひげを生やしているが、似合っていない。理由は後で分かるのだが、「若いから、バカにされないように」らしい。完璧に意味を成していないコトに気づいているかどうかは怪しいところのようだが・・・・・
 青年が周りを見回してひとつのことに気づいた。それは、七将軍が六人しかいないことだ。訝しむように顔色を変える。
「気づいたようだな。その通り。先日、南の国境付近の見回りを担当していた七将軍ロースレンが何者かによって暗殺された。こちらとしては喜ばしくないことだ。しかし、お主にとっては喜ばしいことだのぅ。そのため、七将軍の席が一つ空いたのでな、その席を主に譲ろうと思うのだ。どうだね?ファミエル」
「ありがたき幸せ」
 口元にまた笑みが漏れてしまう。
(予想通りの展開だな。少し、予定より遅れているが)  
「ふむ。最近は南の国がどんどん不可思議なことに潰れていく。一説には魔人の軍隊が攻めてきたとも言う。嘘だと思うが巷の噂もバカにできんのでな。
 命ずるぞ、七将軍ファミエル。主は騎士団を編成し、終わりしだい南に赴き、原因を確かめて参れ」
「了解した。編成が終わり次第、すぐに任務に取り掛かります」
 あいさつをすませ、軽い足取りでファミエルは謁見の間を出る。
 自室まで戻ると先客がいた。
 赤い髪を短く刈り込んだひげもじゃの中年のおじさん。ファミエルの第一印象は絶対にそうだったといっても過言では無い。それほどまでに、今の表現がピッタシだった。
「ええ〜っと・・・・・どちらさん?」
 ファミエルがもっともの質問をする。
 赤髪のおじさんはというと、自分の部屋のようにくつろいでいる。部屋の主がまるで逆になっているかのような状態だ。
 赤髪のおじさんはパッと顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。ひとなつっこい笑顔が歳を若く見せる。
「おお。お戻りかな。将軍殿。俺は、傭兵上がりで騎士をやってるジュウってもんだ。どぉかひとつ俺を雇ってくんないかね」
 豪快に用件を言ってのけた男を見て、ファミエルも興味を持った。
 しかし、実力が分からない。そのため、殺気をジュウと名乗る男にたたきつけた。殺気とは、一流の剣士が発する気のようなものだ。ファミエルは、一流も一流。超一流なので、ファミエルに殺気をたたきつけられたら、並大抵の者は腰を抜かして立てなくなるだろう。
 だが、ジュウはそれを受けても豪快に笑って「おお〜、すごいな。わしには真似できん」などと抜かしている。どうやら、相当のバカか、相当の腕利きということになる。ファミエルの目から見れば後者なのは丸分かりなのだが。
「なるほどな。いい面構えだ。よし、俺はこれから騎士団を作る。お前には副長をやってもらうぞ」
「なに?本当か。そりゃあ、嬉しいな。いやいや、めでてぇ」
 ジュウがジュウならファミエルもファミエルである。普通、勝手に部屋に入っていた男を騎士団の副長などにはしないものだが。しかし、それはジュウもいえる。普通、仕官するなら、いきなり将軍の部屋に行ったりはしないものだ。
 簡潔に言えば、二人ともバカだ。
「いや、でもよ。スパイかも知んないぜ?俺は。いいのかい?そんなに簡単に決めちまっても」
 やっと、ここで常人の考える言葉が出てきた。
「関係ないね。俺はお前なんかに寝首をかかれるほど落ちぶれちゃあいねぇよ」
「確かになぁ」などと軽い返事をする。誰かが見ていたらアホらしいかもしれないが、彼らにとってはまじめである。
 そんな話をしているとノックがあった。「どうぞ」とファミエルが言うと、謁見の間にいた男の一人が入ってきた。
「こんにちは。七将軍ファミエル殿。我は七将軍の一人、名をカジュサールという。挨拶に参ったのだが、お邪魔をしたかな?」
 なんともかたい挨拶をしたカジュサールを見て、ファミエルも少しは将軍らしい挨拶を返そうと考えているのだろう。少し難しい顔した。
「俺は、お堅いコトを考えるのは不得意なんだ。言葉遣いは許してくれ。別にあんたを見下してるんじゃないからな」
 口調は強いものの、内容には嘘の無いようにカジュサールは感じた。それどころか、少し好感的な感じもした。
「わかった。私もあまり考えないことにする。これからよろしくお願いする」
「おう。こちらこそ、よろしく。カジュサール殿」
 元気な声が場違いな感じもしたが、ファミエルは気にしていないようだった。まあ、カジュサールも気にしないが・・・・
 一通りのあいさつが終わるとカジュサールの目がジュウに向いた。軽い観察のまなざしを向けた後、ファミエルに聞いた。
「あの方は誰なのかな?ファミエル殿」
 当たり前といえば当たり前の反応である。というか、自然にそうなる。
「ああ。今日・・・ていうか、今からうちの騎士団の副長にすることにしたジュウだ。まあ、よろしくやってくれ」
「ジュウです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いしたい」
 簡単な挨拶を済ませる。確実に疑いを掛ける目でジュウをカジュサールが見ていたのは言うまでもない。しかし、そればかりも気にしていられないのが将軍である。
「ところで、南部遠征だが、かなり気をつけたほうがいいぞ」
 話題をあの事件のほうに持っていく。仕方が無いことではある。本当にここ1年だけで、特に理由も無く五つの国が滅びたのだ。しかも、南の国ばかり。
 先月には、隣国のヤイトルが滅びて、次は我が国という噂が絶えない。しかも、そんな中のこの事件である。心配するなという方が無理である。
「わかってる。俺も細心の注意は払うつもりだ。まあ、何処までやれるかは現場に行かないと何とも言えないけど・・・・まあ、どうにかなるだろう。心配ばかりしていても始まらん」
 もっともながら、適当な答えを返すファミエル。それを聞いて、カジュサールも苦笑してしまった。あまりにも、簡単に言ってのけるはコイツぐらいだな。と思いつつ。
「まあ、あれだ。今日は俺たちの出会いに乾杯といこうか」
 などと音頭をとって酒を取り出し、コップにつぎはじめる。そして、酔いで眠りに落ちていった。
 ファミエルはまた夢を見た。
                  ※
 右手の感触は最悪だ。周りは夜で真っ暗なのに遠くまで見えるかのように遠くを見ている。本当はただ呆然としているだけであるが。周りからはそう見える。
 人間だった物体から剣を抜く。剣が刺さっていた物体は崩れ落ちる。
(俺が殺した。俺が・・・・・・・やった)
 その事実が胸にのしかかる。
 男たちが村から戻ってきた。
(やつらも殺さなければ、俺が殺される)
(死にたくない。死にたくない。死にたくない)
 ただ、自分が生きるため、また人間をただの物体に変える。それはおぞましいことだが、今の俺に生きる道はこれしかない。
「うわぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ」
 叫ぶと同時に走り出す。狂ったような叫び声。近隣の村に生き残りがいれば何事かと驚くことだろう。しかし、村に生きている人はいづ、決して驚く人はいない。
                  ※
 目が覚める。
 過去の夢。ファミエルの親父さんは盗賊の頭だった。毎日、毎日、村を変え襲う。それの繰り返し。
 そのたびに、誰かが死ぬ。名前も知らない人だけど、確実にこの世から一つの命がなくなる。その永遠のサイクルが続いていた。そのサイクルを止めるために、ファミエルは親父を殺し、盗賊団の仲間を殺した。
「あれでよかったんだ。あれ以上犠牲を出さないためにも・・・・・絶対に」
 口に出さないと、確認できないくらい現実がおぼろになる。
(絶対に、あれが正解だったんだ)
 心の中で、もう一度つぶやいた。そうしないと、現実と夢・・・・いや、現実と過去の境が分からなくなるから。


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