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作品名:シュールミント 作者:六角オセロ

第9回   メラメラ黒べぇ
「血の巡(めぐ)りの良くなる、心のジュース<ハッカ入り娘>は如何(いかが)ですかあ〜!?」
着物風のドレスを着た女性が、やってきた。
赤い帽子をかぶり、帽子にはソフトドリンクの会社<駒コーラ>のロゴが入っていた。
「身体もすっきりしますが、頭も心もすっりりして、目が覚めますよ〜!」
若者は足を止めた。
「心の優れない方に、ぴったりのハッカの入った、リフレッシュ・ジュースですよ〜!」
さっきと同じ売り子だった。
「心は優れていますか?」
「こころ…」
「ええ、こころです。これを飲むと心が癒されますよ。」
「ほんとに?」
「ええ、心が不愉快だと損をしますよ。」
「じゃあ、それください。」
「一つ二百円です。」
「一つください。」
「どうもありがとうございます!」
「たいへんだね。何時までやってるの?」
「五時までやってます。」
若者は缶を開け、一口飲んだ。
「あっ、ほんとだ。心がすかっとしてきた!」
「ほんとですか。」
二人は、顔を見合わせ笑った。
「あっ、そうだ。ハッシーって知ってます?」
「知ってますよ。案内してあげます。ちょうど移動しようと思っていたんです。」
「ああ、どうもありがとう。」
胸に名札がぶら下がっていた。小野節子と書いてあった。
「遠いんですか。」
「すぐそこです。」
二人は仲良く歩き出した。
彼女の後を追って、缶ジュースを載せた電子頭脳電動オートカートが動き出した。
ビュ〜〜〜
突然、枯葉を巻き上げながら、荒ぶった突風が二人を襲った。
「きゃ〜〜!」ドレスがめくれあがった。彼女は必死で押さえた。
「うわ〜〜、なんだこの風は!」
「まるで、邪魔してるみたいだわ。」
人の形をした黒い影が現れた。子供ほどの大きさで、メラメラした大きな赤い目玉が一つあった。
耳の近くまで裂けた紫色の口はあったが、鼻は無かった。
背中には、ゴキブリのような、あぶらあぶらした羽が生えていた。
「うわ〜〜〜、化け物だあ!」
四肢は昆虫のように細く、太い毛が生えていた。とても臭かった。
「うわ〜〜〜、なんだこいつぅ!」
「えっ、何か見えるんですか!?」彼女には見えていなかった。
「うわ〜〜〜、気持ち悪い!」
彼女は口を押さえた。「なに、この臭い!」
若者は叫んだ。
「とにかく、この場から逃げましょう!」
二人は風に向かって走り出した。

 寒いよ〜〜〜 寒いよ〜〜〜 心が寒いよ〜〜〜
   誰か一緒に 遊ぼうよ〜〜〜
 寒くて死にそうなんだよ〜〜〜
  こっちを向いて遊んでくれよ〜〜〜
   一緒に鬼ごっこしようよ〜〜〜
 僕はもう 息ができないくらい 退屈なんだよ〜〜〜
   退屈で寒くて 心が寒くて 今にも死にそうなんだよ〜〜〜
  枯葉で 死神のトランプ遊び しようよ〜〜〜
 
「あ〜、びっくりした〜〜!」
若者は後ろを見た。
赤い目玉の黒い化け物は、赤い息を吐き、バッタのように飛び跳ねながら追いかけてきた。
「ぅわ〜〜〜!」
「どうしたの?」
「妖怪、妖怪!」
若者は彼女の手を強く握ると、またも風に向かって走り出した。

 


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