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作品名:シュールミント 作者:六角オセロ

第4回   けんけんけん
「こら〜〜〜!」
突然と、大声が発せられた。金色のボールが飛んできて、少女の背に当った。少女は「ぎゃ〜〜〜にゃあ!」と唸って逃げていった。
若者は頭を、コンコンコンコンと小突かれた。
「もう駄目だ、すずかちゃ〜〜ん!」
「もしもし、もしもし。だいじょうぶですか、お兄さん。なんだったら肩でも揉みましょうか?」シナモンの香りに若者は我に帰った。
目の前には、さっきのピンク色の自転車に乗った不思議な女性の顔があった。
「猫の化け物は?」
「もういません。逃げて行きました。」
「ああ、よかった。死ぬかと思った。」
「すずかちゃ〜〜んって言ってましたよ。」
「すずかちゃん…」
「あれが、風の死の妖精なんです。」
不思議な女性は、金色のボールを脇にかかえていた。
「魔物は金色を嫌うんです。」
「そうなんですか。」
「魔物は普通の人には見えません。死にたがる人にしか見えません。」
「おかしいなあ。もう死にたくないのに。」
「まだ、死神がついています。まだ、あなたの隣で棺桶を叩きながら喜んでいます。」
「どうしたらいいんでしょう?」
「一ヶ月、死ぬことを考えなければ、死神はいなくなるでしょう。」
「一ヶ月…」
「根競べですね。でも、死神はかなりしつこいですよ。」
「やってみます!」
「今のような魔物がやってきたら、金色のものを見せると逃げて行きます。キラキラと光るものが嫌いだから。」
「死神は逃げて行かないんですか?」
「死神は、神ですので、そんなものでは逃げては行きません。残念ながら魔物だけです。」
「分かりました。」
「金色ですよ。」
「銀色は駄目なんですか?』
「本物なら、銀や宝石でも大丈夫です。いちばんいいのは、本物の金です。」
「金がいちばんいいんですね。」
「死にたくなったら、金や宝石を見つめてください。金や宝石の妖精が貴方を守ってくれます。」
「妖精が?」
「はい!」
「金の指輪なんかが、いいんですね。」
「はい。」
「今から買いに行きます。」
「お金持ちなんですねえ。」
「とんでもない。貧乏持ちですよ。」
「貧乏持ち?」
「はい。」
「お金が無かったら、金メッキの物でもいいんですよ。」
「わかりました。」
「あっ、あなたは金歯がありますねえ。魔物に食われそうになったら、それを見せるといいですねえ。」
「こんなもので大丈夫なんですか?」
「微妙ですねえ。やっぱり、その程度じゃ駄目かな?じゃあね。気をつけて。」
「駄目なんですか、これじゃあ?」
「やってみたら分かりますよ。」
「そんな〜〜〜!」
その不思議な少女のような女性は、ピンク色のミニ自転車に、「けんけんけん。」と言いながら、けんけん女乗りで、シナモンの香りを残して去って行った。
着物を着た3人の娘がやってきた。
「あ、けんけんけんの、けんけん姉さんだ!」
けんけん姉さんは、「にゅ〜あけおめ〜〜〜!」と言いながら手を振っていなくなった。
「あっ、さっきの人だ!」声を掛けたのは、サッチーという娘だった。
小さな蟻を目で追いながら、若者は涙を流していた。涙が蟻にあたり溺れそうになった。
「こんな小さな命でも、懸命に生きているのに、なんて俺って情けないんだろう…」
気がつくと、若者の前に着物姿の3人の娘が立っていた。
サッチーが、「大丈夫ですか?」と言って、少し屈んで若者の肩に手をそえた。それは、温かい人間の手だった。若者はほっとした。
若者は、彼女の行為が嬉しかった。
「ありがとう。大丈夫です。」と言って、立ち上がった。
サッチーの右隣の長い髪の娘が心配そうに尋ねた。
「ちゃんと食べていますか。ピロリ菌には、乳酸菌LG21が利きますよ。」
「大丈夫です。ちゃんと食べています。LG21も飲んでいます。」
サッチーの右隣の短い髪の娘が心配そうに尋ねた。
「ちゃんと寝ていますか。枕カバーは、ちゃんと洗っていますか。」
「大丈夫です。ちゃんと寝ています。枕カバーは、ちゃんと洗っています。」



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