グワッシャーン 公園の前の三叉路で、豚みたいなワゴン車と、サメのようなスポーツカーが衝突した。 ワゴン車の左側面に真っ赤なスポーツカーがめり込んでいた。ワゴン車から婦人が出てきた。 「な〜にやってんのよ〜!」 スポーツカーには、サングラスをかけた若者が乗っていた。 「あんたこそ、なにやってんだよ!」 「あなたが突っ込んできたんでしょう!」 「あんたが合図もしないで、もたもたしてるからだよ!」 「スピード違反じゃないの!」 「あんたこそ、信号無視だろう!」 「ちょこちょこ、ゴキブリみたいに走らないでよ!」 「なんだとぉ。あんたこそ、ブタみたいなクルマで、のろのろ走ってるんじゃねえよ!」 「そんなの、勝手でしょう!」 「こんなので一人で走ったら、地球に迷惑なんだよ!」 「あなたこそ、迷惑な騒音だしてたじゃない!」 「なんだと。ばばあ!」 「なによ〜、チンピラ!」 「今なんて言った。チンピラって言ったな。」 「ええ、言ったわよ!」
野次馬が集まってきた。 交通事故で死んだ浮遊霊が、手を叩きながらやってきた。
もっとやれ〜〜 もっとやれ〜〜 死ね〜〜 お前も死ね〜〜 お前たちも死ね〜〜
侍の亡霊はびっくりした。 「すごい世界じゃなあ。」 「いつもこういう感じですよ。」 「ふたりとも、鬼みたいな顔しとったのう。」 「妖怪みたいですね。」 「ありゃあ、妖怪よりも凄いぞ。」 「そうかもしれませんねえ。」 「病んでる世の中じゃのう。こんなところにいたら、気が変になってしまうぞ。」 「もうなっていますよ。」 「恐ろしい世の中じゃのう。気の毒な世の中じゃ。」
人々は心を失い 闇雲に走り回る 人々は 我も我もと 闇雲に走り回る 行き場の無い毎日のなかで 闇雲に走り回る
「妖怪温泉は、こっちです。」 「日が暮れると、妖怪たちが出てくるから急ごう。」
道路には、黄土色の空気の死骸が、メラメラとはじけながら漂っていた。 排気ガスで汚れた一メートルくらいのダンボール箱が歩いてきた。四角い覗き窓があり黄色い目が光っていた。 そして、ゴホンゴホンと中で咳をしていた。 「今のは、何ですか」 「あれは、喘息妖怪小僧じゃ。」
喘息妖怪小僧の後ろから、 しきりに「さぶい、さぶい!」と言いながら、頭から毛布をかぶった、同じような二匹の妖怪がやってきた。 「あれは、寒がり妖怪ブルブル兄弟じゃ。」 「寒がり妖怪ぶるぶる兄弟。」 「家の中に入れると、そこの家の者は皆、血のめぐりが悪くなり寒がりになる。」 「そうなんですか。」 「みんな、寒がり妖怪のように野菜嫌いになり、血のめぐりが悪くなるんじゃ。」 「野菜を食べないと、血のめぐりが悪くなるんですね。」 「そういうことじゃな。」 「なんだか、また雲行きが怪しくなってきましたね。」 「急ごう。」 「あっ、UFO(ユーフォー)だ!」 「あれは、雲隠れ妖怪じゃ。」 「雲隠れ妖怪?」 「雲行きが怪しくなると、雲の中に隠れるんじゃ。」
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