「風魔小太郎なら、死神の好物を知ってとるかもしれん。」 「死神に好物ってあるんですか。」 「あるんじゃないか。」 「風魔小太郎さんは近くにいるんですか。」 「ここにいると、仲間に聞いたんだが。」 少し遠くで、ドラキュラの変装をした人が、妖怪温泉の宣伝看板を持って歩いていた。 「妖怪温泉にでも行ったのかなあ。」 「妖怪温泉に?」 「行ってみるかな。おまえさんも行ってみるか?」 若者は、腕時計を見た。ちょうど三時だった。 「そうですね。」 「じゃあ行こう。妖怪が出たら、わしが退治してやるから安心いたせ。」 「おねがいします!」 「お主は、親戚かも知れんからのう。」 「はい。」 二人は、公園の入り口に向かって歩き出した。
ハッシーの前を通ると、まだ<駒コーラ>の小野節子が仕事をしてた。 「気分がシュールになる。シュールミントガムは如何ですか〜!」 若者は立ち止まった。なぜか懐かしい人に再会したような気分だった。 「それ、二つください。」 「二つで二百円です。よろしいですか?」 「ええ。」 若者は、彼女の左手を見た。 「これなあに。」 「あっ、これですか。新発売の、どくだみコーラです。」 「どくだみコーラ?」 「身体を浄化する、どくだみが入ってます。」 「じゃあ、それも二本ください。」 「ぜんぶで、四百円です。」 若者は財布を出し、千円札を一枚、彼女の柔らかい手に渡した。 「ありがとうございます。」 彼女は彼に、百円玉を六つ、ひとつひとつ丁寧に渡した。 「わたしの名は、高坂一平です。私立探偵をやってます。」 「探偵さんなんですか!」 「ええ、ほんとうは公言しちゃいけないんですけど。」 若者は笑ってみせた。それから、名刺を出し、彼女に渡した。 「明日もやってるの。」 「ええ、やってます。三日までやってます。」 「じゃあ、また来ます。」 「待ってま〜す!」 侍の亡霊が、「拙者も来ようかな。」と言ったけど、彼女には聞こえなかった。
公園を出ると、若者は侍の亡霊に、シュールミントガムとジュースを渡した。 「これは、食べちゃだめですよ。噛むだけ。」 「あい、わかった。」 侍の亡霊は、缶ジュースをしげしげと眺めた。 「どくだみの飲み物か…、ここは、いろんなものを売ってるんだなあ。」 侍は取ろうとしなかった。 「亡霊は、実体を味わうことはできても、移動させることはできんのじゃ。」 「ああ、そうなんですか。じゃあ、わたしが持っていきます。」 「ここでひとつだけ飲んでいこう。」侍は、近くのベンチに腰掛けた。 「<ハッカ入り娘>でいいですか。」 「それをいただこうか。」 「はい。」若者は缶を開けてから、嬉しそうに手渡した。反応が楽しみだった。 「かたじけない。」 侍は用心深く口に運んだ。そして一口飲んだ。 「ほ〜〜〜、こりゃあいい!」侍は、目を丸くしていた。 「途中で出会うかもしれませんので、歩いて行きましょう。」 「籠(かご)などはけっこうじゃ。」 二人の上を、怪しいシュールな風が吹いていた。
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