ベンチに座り、侍の鎧姿で槍を持ち、血だらけの顔でハッシーを見ている者がいた。 「なんだ、あの人!」よく見ると、亡霊だった。 「このあたりは、古戦場だったんですか?」 彼女の返事は無かった。彼女は近くでジュースを売っていた。 「おっかしいなあ、あのケンケンケンの姉さんに肩を叩かれてから、妖怪や亡霊が見える…」 「新発売の<ハッカ入り娘>は如何ですかあ。心も身体もが爽やかになりますよお。」 亡霊がやってきた。 「ひとつくれ。喉が渇いている。砂金と交換してくれ。」 彼女には聞こえていなかった。 「駒コーラの<ハッカ入り娘>は如何ですかあ〜。彷徨(さまよ)える心が癒されますよ〜。」 「それくれ!」彼女には聞こえなかった。 「如何ですかあ〜。」 亡霊は肩を落として去って行った。 亡霊の歩いて行った方向に売店があった。ハッシーの御面(おめん)らしいものがあった。 若者は見に行った。ハッシーの御面(おめん)だった。五百円で売っていた。クチバシが金色のもあった。 「あの不思議な姉さんは、金色なら何でもいいと言っていたな…」 おばさんの店員が尋ねた。 「買いますか?」 「この金色のクチバシのをください。」 「ありがとうございま〜す!」 財布の中に、五百円硬貨が二枚あった。「はい、五百円!」 おばさんは、ハッシーがプリントされたビニールの袋に入れ、若者に手渡した。 「いいおとしを。」おばさんは、ほっぺにハッシーのシールを貼っていた。 「ハッシーと金色、これなら大丈夫だ!」 ハッシーの金網の前で、老婆が手を合わせていた。 「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」 売り子の彼女は忙しそうだった。 若者は彼女の前まで行き、「どうもありがとう。」と言うと、 「そのジュースを十本ください。」と言い、二千円を出した。 「えっ、十本もですか。」 「ええ。」 「そんなに飲むんですか。」 「ええ。」 彼女は、十本の<ハッカ入り娘>を、駒コーラのロゴが入ったビニール袋に入れ、彼に渡した。 「どうもありがとうございます。」 「じゃあね、頑張って!」 「あっ、ちょっと待ってください。これ、私の名刺です。」 「えっ、名刺。」 「営業用の。」 『あっ、そう。じゃあもらっとくね。』 若者は、ハッシーを見ている子供たちのところに行き、ひとりひとりにジュースを配った。子供たちは喜んだ。 ハッシーも人々も、風の音を聞きながら、何かを見ていた。それぞれが、ひとりっきりで。
人間は沢山いるけど ひとりっきりなんだ 沢山いるけど 自分ひとりっきりなんだ みんなと一緒に風の音を聞きながら ひとりっきりで 生きているんだ
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