鎧兜(よろいかぶと)を身に着けた侍の亡霊たちが、 「変な空気だなあ。変な空気だなあ。」と言いながら歩いていた。 若者は、それを横目で追いながら、彼女の手を引いて前を走っていた。 彼女の手が、彼の手を強く引っ張った。 「こっち!」 黒い化け物は二人を追いかけながら、赤い息を吐き、嫉妬した赤い目玉を大きく見開いていた。 「手を繋(つな)ぐな〜〜!」 彼女は、金網の前で止まった。 「ここよ!」 彼女は、必死で金網のなかを覗いた。 「あら、いないわ!」 黒い化け物がやってきた。 「負けたら死ぬ死神のトランプ遊びしようよ〜!」 「いやだよ、そんなの!」 「どうせいつかは死ぬんじゃないか〜。」 「臭い!あっちに行け、化け物!」 「ハッシー〜〜。」彼女は若者の隣で金網の向こうの何かを呼んでいた。大きな、鶴が飛べるほどの金網の囲いだった。 黒い化け物は、ゴキブリのような手を出し、枯葉を若者に見せた。 「ここに枯葉が五枚あります。一枚には猫の血がついてます。それを取ったら負けです。」 「そんなの、やりたくない!」 彼女が不思議そうに若者に問いかけた。 「誰と話しているの?」 「好きな数字を言ってください。」 「そんなの、言いたくないよ!」 「四ですね。分かりました。」 「なんにも言ってないよ。そんな縁起の悪い数字はいやだよ!」 「早く取ってください。」 「いやだよ。そんなの!」 黒い化け物の目が光った。若者の手は自分の意思に反して枯葉に伸びていった。 「ぅわ〜〜〜、手が勝手に動いてる!?」 若者の手は、真ん中の枯葉を取った。 「それでよろしんですか。」 「よろしくないよ〜〜!」 「ひっくり返してください。」 「いやだぁ〜!」 枯葉は自分でひっくり返った。 「残念。血はついていませんでした。はずれです。」 「わ〜〜、良かった!」 「取って下さい。」 「今、取ったでしょう。なに言ってんの!?」 「四番目に、血のついたのを取ったら負けです。」 「な〜んだって!」 「早く取ってください。」 若者の手は自分の意思に反して枯葉に伸びていった。二番目のを取った。 「それでよろしんですか。」 「よろしくないって、言ってるだろう!」 「ひっくり返してください。」 「いやだぁ〜!」 枯葉は自分でひっくり返った。 「残念。血はついていませんでした。はずれです。」 彼女の後を追ってきた、缶ジュースを載せた電子頭脳電動オートカートが彼女の前で、チャイムを鳴らして止まった。 化け物は、オートカートを睨んだ。 「なんだこいつは。」細いゴキブリ脚で蹴っ飛ばした。コンと音がした。 「変な音だな…三番目のを取ってください。」 「取りたくない!」 若者の手は勝手に枯葉に伸びていった。最初のを取った。 「それでよろしんですか。」 「よろしくないよ〜〜!ひとの手を勝手に動かすな〜!」 枯葉は自分でひっくり返った。 「残念。猫の血はついていませんでした。はずれです。」 「これ、インチキだあ!」 「四番目のを取ってください。これで決まりです。」 「いやだぁ〜〜!」 「早く取ってください。」 若者の手は自分の意思に反して枯葉に伸びていった。
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