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作品名:人間村 作者:六角オセロ

第8回   8
正男は、ヨコタンにおぶられて帰って来た。
「あらあら、寝ちゃったぁ。」
母親は、ヨコタンの後ろを歩いていた。
「昨日から、電車ばっかりで、あんまり寝てないんですよ。」
「そうなんですかあ。」
ヨコタンは、事務室のソファーに寝かせた。
「ちゃっと待っててください。毛布を持ってきますから。」
「ありがとうございます。」
ヨコタンは出て行くと、すぐに戻って来た。寝入っている正男に、毛布を優しく掛けてやった。もう一枚の毛布を母親に渡した。
「眠くなったら、遠慮しないで、ここでよかったら横になって休んでください。」
「いろいろと、ありがとうございます。」
「わたし、ちょと用があるので、保土ヶ谷さんが帰ってきたら、お知らせします。」
「よろしくおねがいします。」
ヨコタンは、集会室に戻った。そして、新しく来た若者と話していると、龍次が帰って来た。
「ただいま〜〜!」
「あら、龍次さん。ショーケンさんは?」
「彼は、自転車で橘さん家に行ったよ。」
「ああ、そうですか。」
ヨコタンは立ち上がって、おごそかに龍次に歩み寄った。
「保土ヶ谷さん…」
「なんだい、神妙な顔をして?」
「保土ヶ谷さん…、何か私たちに隠していることありません?」
「えっ、何のこと?」
「ありませんか?」
「何もない、と思うけど…、どういうこと?」
「奥さんが来てるんですけど。」
「えっ!?」
「保土ヶ谷さんの奥さんが。」
「え〜〜〜〜ぇ!?」
「子供も来てますよ。」
「え〜〜〜ぇ!何のこと?冗談は止めてよ。」
ポンポコリンが出てきた。
「冗談は、そちらでしょう。」
「何言ってるんだい、ポンポコリン!」
ポンポコリンは、軽蔑の眼(まなこ)だった。
「最低!」
「え〜〜〜!?」
ヨコタンの目は、いたって冷静だった。
「事務室に待たせてあります。」
龍次は、狼狽(ろうばい)しながら事務室に入って行った。ヨコタンとポンポコリンも入って行った。龍次は、ソファーの親子を見ると立ち止まった。親子は、毛布をかぶって寝ていた。ヨコタンとポンポコリンに尋ねた。
「この人たち?」
ヨコタンが答えた。
「はい。」
母親が、起き上がった。龍次を見ていた。龍次も、その女を見ていた。
「えっ、この方が、わたしの妻って?」
「はい。」と言いながら、ヨコタンが龍次を紹介した。
「この方が、保土ヶ谷龍次さんです。」
女は、首を傾げた。
「違う!」
「えっ、何が違うんですか?」
「この人じゃないわ。この人、保土ヶ谷龍次じゃないわ。」
龍次も、ヨコタンもポンポコリンも、唖然としていた。
「この人、わたしの主人じゃないわ。」
龍次が答えた。
「わたし、保土ヶ谷龍次です。詳しく聞かせてくれませんか。」
龍次は、子供の寝てる側のソファーに座った。
女は、リュックから小さなバッグを取り出すと、写真を取って、龍次に手渡した。
「主人です。」
三十代くらいの、細長顔の男だった。そして、女はバッジを出した。
「これ、彼の組織のバッジです。ニート革命軍と言ってました。」
「ニート革命軍のバッジ?」
見たこともないバッジだった。R・Hのイニシャルが入っていた。
「R・H…、確かに、保土ヶ谷龍次も、R・Hですけど…」
ヨコタンが手を伸ばした。
「ちょっと見せてください。」
龍次は手渡した。
「見たことある?」
「これ…、ひょっとして、新赤軍のバッジです!」
「え〜〜〜!?」
龍次と、ヨコタンとポンポコリンに、緊張が走った。
「すみません、その写真、ちょっといいですか?」
女は、「いいですよ。」と言ったので、龍次が手渡した。
ヨコタンは、受け取ると、事務室のパソコンの前に座った。検索を始めた。
「龍次さん、やはりそうです。」
龍次がやってきて、パソコンを覗いた。
「このバッジ、新赤軍のバッジと同じです。」
「ほんとだ!」
「指名手配中の名前が載っています。」
「R・Hに該当するものはいるかね?」
「R・H…、あっ、います。長谷川怜治です。」
「長谷川れいじ…」
「顔写真が出ました。」
「この男か…」
「眼鏡をかけていますが、眼鏡を取ったら、この写真と似てると思います。」
「そうだなあ…」
龍次が、手招きして女を呼んだ。
「すみません。ちょっと見てくれませんか?」
女は急いでやって来た。パソコンを覗き込んだ。
「そうですね、眼鏡を掛けたら、こういう顔になるのかなあ…」
「日頃、眼鏡は掛けていなかったんですか?」
「はい、掛けていませんでした。」
ヨコタンが、クリックした。
「これが、眼鏡を掛けていない顔です。どうですか?」
「ちょっと違うけど、似てます。」
「整形してるんじゃないかしら?」
龍次が答えた。
「そうかも知れないなあ。」
龍次は女を見ると、改めて尋ねた。
「どうして、ここへ来たんですか?」
「一週間に一度、高野山から帰って来てたんですけど、三ヵ月ほど前から、急に帰って来なくなったんです。」
「それで、こちらへ?」
「はい。お金も無くなってしまって。」
鶴丸隼人が、「いやあ〜、参った参った、八幡宮!」と言いながら、事務室に入って来た。




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