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作品名:この宇宙の片隅で 作者:雲雀

第1回   1
 この宇宙の片隅で、人は生き死に、生まれ滅び、宙に彷徨い、土に還る。

 何十億回と繰り返す波は飽きるほど打ち寄せ、裾を引き戻す。

 暗黒の黒の中に、気泡を閉じ込め、幾つも幾つも希望の泡をはじかせ、絶望という暗闇に身を沈めていく。

 途方もない時間がただただ過ぎていき、私はいつの間にかひとつの石になっていた。

 石になっても私は考え続け、動こうともしなかった。

 石になりつつも私は意志をもち、しかし、イシには自由はなく、いつも何かに囚われていた。
 
 いつしか石肌に苔が生え、微生物が何万回と細胞分裂という生殖を繰り返し、死の埃が山となっても、私はいつまでも考え込んでいた。


 
  「これが自分の仕事なのだ」



 気づいた時、私はようやく自由を手に入れた。

 身は朽ち、もはや足は大地に縛りつけられていようと、私の意識は一気に大気圏を超え、無重力空間の中でさらに動から解放された。

 エネルギーの一端は、偶然そこにあった太陽の炎の裾先に触れ、気泡がはじけるように互いのエネルギーは衝突の軋みの音を上げた。

 
  喜びだった。


 宇宙の空気が一瞬にして切り裂かれる様は、氷にひびが入る冷たい音に似ていたが、確かに真空に情熱と歓喜の声が上がったのだ。


  「ようやく自由を手に入れたんだ」

 
 すさまじい喜びの戦慄が脊髄を貫いていく。

 その矛先は螺旋状にもつれ合い、数十億光年の星旅の後、再び私の身体に舞い戻ってくる。

 幾重にも織り込まれた遺伝子の金糸が、私に命という産着を纏わせる。

 私は思わず声を上げた。
 
 言葉ではない。

 原始的な社会的道具として何ら意味をもたない、ただ声帯を風が通り抜けた音だ。
 
 
  それは歓びの声だった。


 泣くという表現方法で、私は恥らうことなく、全身の全細胞を弦と化せ、空気を波立たせた。

 
  初めての出会い。

  そして、さようなら。


 もう二度と目にすることのない、この闇を私は目に焼き付ける。

 そして、瞳は黒になった。
 
 髪には闇が滲み出し、同じく黒になった。
 
 

 人は誰でも闇を内包している。

 闇とは決して悪いものではない。
 
 時に全てをリセットしてくれ、時に罪人を優しく包む衣となる。

 
  生まれて、死に、そして再生する。

 
 疑問をもって当然だった。

 途切れる意識は、以前の自分を決して意識はできないのだから。
 
 しかし、己の身体は、細胞は憶えている。

 螺旋状にもつれ合う遺伝子という機織をもつ人間は、常に自分を殺し、同じ新たな自分を織り上げていく。

 そこに恣意的なものはない。

 ただ、本能が、生まれもっての機能がそうさせるのだ。

 
 無意識に私は自分を殺し、自分を生み出す。

 はるかな空間を超え、時間の川を下り、私は新たな自分をつなぎ止める。


  さようなら、今の自分。

  よろしく、これからの自分。


 繰り返す、繰り返す、ずっと永久に繰り返す。

 水の分子がその手を互いにつなぐように、私の中の生命たちは様々な様相で手をつなぎ合い、生命の楔を互いに打ちつけ合う。


  さみしいのだな・・・・・・。


 互いに慰め合い、死を共するするため生を共にし、結果私は生かされている。

 
  『万有引力とはひき合う孤独の力である(※)』・・・・・・?


 固体に内包されるものは、孤独と歓びなのかも知れない。

 だから、私は今回も孤独と歓びを抱え、死を迎えるため、生に命を費やしていく。


  さようなら、今日の私。

  また会おうよ。どこかで・・・・・・。






(※)『二十億光年の孤独』谷川俊太郎著より引用しました。


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