この宇宙の片隅で、人は生き死に、生まれ滅び、宙に彷徨い、土に還る。
何十億回と繰り返す波は飽きるほど打ち寄せ、裾を引き戻す。
暗黒の黒の中に、気泡を閉じ込め、幾つも幾つも希望の泡をはじかせ、絶望という暗闇に身を沈めていく。
途方もない時間がただただ過ぎていき、私はいつの間にかひとつの石になっていた。
石になっても私は考え続け、動こうともしなかった。
石になりつつも私は意志をもち、しかし、イシには自由はなく、いつも何かに囚われていた。 いつしか石肌に苔が生え、微生物が何万回と細胞分裂という生殖を繰り返し、死の埃が山となっても、私はいつまでも考え込んでいた。
「これが自分の仕事なのだ」
気づいた時、私はようやく自由を手に入れた。
身は朽ち、もはや足は大地に縛りつけられていようと、私の意識は一気に大気圏を超え、無重力空間の中でさらに動から解放された。
エネルギーの一端は、偶然そこにあった太陽の炎の裾先に触れ、気泡がはじけるように互いのエネルギーは衝突の軋みの音を上げた。
喜びだった。
宇宙の空気が一瞬にして切り裂かれる様は、氷にひびが入る冷たい音に似ていたが、確かに真空に情熱と歓喜の声が上がったのだ。
「ようやく自由を手に入れたんだ」
すさまじい喜びの戦慄が脊髄を貫いていく。
その矛先は螺旋状にもつれ合い、数十億光年の星旅の後、再び私の身体に舞い戻ってくる。
幾重にも織り込まれた遺伝子の金糸が、私に命という産着を纏わせる。
私は思わず声を上げた。 言葉ではない。
原始的な社会的道具として何ら意味をもたない、ただ声帯を風が通り抜けた音だ。 それは歓びの声だった。
泣くという表現方法で、私は恥らうことなく、全身の全細胞を弦と化せ、空気を波立たせた。
初めての出会い。
そして、さようなら。
もう二度と目にすることのない、この闇を私は目に焼き付ける。
そして、瞳は黒になった。 髪には闇が滲み出し、同じく黒になった。
人は誰でも闇を内包している。
闇とは決して悪いものではない。 時に全てをリセットしてくれ、時に罪人を優しく包む衣となる。
生まれて、死に、そして再生する。
疑問をもって当然だった。
途切れる意識は、以前の自分を決して意識はできないのだから。 しかし、己の身体は、細胞は憶えている。
螺旋状にもつれ合う遺伝子という機織をもつ人間は、常に自分を殺し、同じ新たな自分を織り上げていく。
そこに恣意的なものはない。
ただ、本能が、生まれもっての機能がそうさせるのだ。
無意識に私は自分を殺し、自分を生み出す。
はるかな空間を超え、時間の川を下り、私は新たな自分をつなぎ止める。
さようなら、今の自分。
よろしく、これからの自分。
繰り返す、繰り返す、ずっと永久に繰り返す。
水の分子がその手を互いにつなぐように、私の中の生命たちは様々な様相で手をつなぎ合い、生命の楔を互いに打ちつけ合う。
さみしいのだな・・・・・・。
互いに慰め合い、死を共するするため生を共にし、結果私は生かされている。
『万有引力とはひき合う孤独の力である(※)』・・・・・・?
固体に内包されるものは、孤独と歓びなのかも知れない。
だから、私は今回も孤独と歓びを抱え、死を迎えるため、生に命を費やしていく。
さようなら、今日の私。
また会おうよ。どこかで・・・・・・。
(※)『二十億光年の孤独』谷川俊太郎著より引用しました。
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