ヘアメイクが終わっても、あたしは待機している女の子が集まる場所へは向かわない。
仕事前にするべきことがあるのだ。
ヘアメイク室をでて、厨房へと向かうあたし。 水をもらいに行く。
あたしは薬を飲まなければならなかった。
「修ちゃん、お水もらっていい?」 「ん?あぁ。いいよ。・・・また薬?」 「そうだよ。」
厨房でタバコをふかしている修ちゃんが横目であたしを見ていた。気にせずあたしはコップに水を汲み、薬を飲む。これが仕事前のあたしのするべきとこ、だ。
「ミサさぁ。体大丈夫なの?今日も顔色悪いけど。しかもその薬の量・・・多いし。」
修ちゃんが心配そうにあたしを見た。 「んー寝不足なんですよ。でも大丈夫。頑張るから。」
言えるわけがない。
・・本当は大丈夫なんかじゃないよ。 毎日辛いんだよ。 本当は・・今すぐにでも壊れそうなんだよ。
そんなこと、言えるわけがない。
「そっか。あんまり無理はしないでいいからね。」 そう言って修ちゃんは厨房を出て行った。 「・・・うん。」
小さく答えたあたしの声は、彼に聞こえただろうか。 あたしは薬をさらに飲み続けた。
あたしが飲んだ精神安定剤と類されるその薬たちは、半年ほど前から通院している精神科で処方されているものだ。
薬は、半年前から比べると今は倍の処方量を飲んでいる。
悪化している証拠だった。
分かっていた。 限界が近いとこを。無理だと言うとこを。
でも、薬がないと体が動かない。
あたしは動かさなければならなかった。体を。頭を。 何としてでも。
だから依存性の高い薬だと知りながら、乱用する危険があると知りながら、飲み続けていた。
もう完璧に歯車が狂っていた。
待機のソファに向かうと六人のキャストの子が座っていた。あたしも一番端の椅子に腰掛けた。
やっぱり眠い・・・帰りたーい!体もダルイし。 あーぁ。来るんじゃなかったぁ。
ぼーっとしてるあたしに話しかけてくれたのは華奈。 「ねぇミサ、今日終わったら飲みに行かない?」
「無理無理。眠いもん〜。」 即答しちゃった。だって今日はさすがに無理だし。
「アクア行きたくない?ねー行こうよっ」
・・・アクア!
「行きたい!」 「じゃ決定〜」
やばい。行くことになっちゃった。 あー。あたしって何でこう優柔不断なの?
アクアって言うのはあたしと華奈の行きつけのホストクラブだ。あたしも華奈も指名しているホスト君がいて、最近ちょくちょく通っていた。 あたしの誕生日パーティーもアクアで華奈がやってくれるらしい。
「あー仕事が終わったら翔に会える〜。幸せ〜。」
「ちょっと華奈、まだ仕事始まったばっかりだよ?あと九時間くらいあるんだからまだまだじゃん。」
「えーだってぇ。嬉しいんだもん。」
華奈は完璧にホストの翔にはまっていた。華奈は一人でもアクアに通っているし、翔を指名してもう一年近くになるらしい。
あたしはまだ、一ヶ月程度しか通ってない。最初に行った時もこうして華奈に誘われて行った。その時あたしはホストクラブに行くのが初めてだった。 そこで出会った新人ホストの優を、私は指名している。
優・・・。あたしも早く会いたいな。
華奈の手前ではなかなか言えなかったが、あたしもホストクラブと言うものにハマりつつあった。
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