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作品名:20歳のスタート 作者:☆mari☆

第3回   疑問。

「遅くなってすいません、浩平さん!久しぶりだね。」

美容師の浩平さんの元へ駆け寄り、お辞儀をして謝るあたし。
なんか、毎回このパターンだな。
いい加減遅刻やめよう・・・。


「久しぶりっすね。じゃ時間無いんで、すぐ始めちゃっていいっすか?」
「うん。お願いしまぁーす。」

浩平さんはうちのお店の専属のヘアメイクさん。
日中は美容室で普通に働いてる人で、二つの仕事を掛け持ちしているタフな人だ。
背が低くて童顔で、少年のような彼はトークがおもしろくてお店でも人気者だ。

あたしも浩平さんと過ごす、このごくわずかな時間がとても好きだった。



着替えが終わっても、かすかに手足の振震は残っていた。浩平さんに気づかれないようにしなきゃ。大丈夫かな。
そんな風に考えながら笑顔をつくり、浩平さんとの時間を楽しんだ。



「さぁて、今日はどんな感じにしましょうか。」
気合の入った声で浩平さんがあたしに聞いてきた。
鏡張りのヘアメイク室の椅子に腰掛けて、あたしは答える。

「何でもいいよ。」

あたしはいつもこう答えてしまう。
特に希望なんて物は無いし・・・。
それに、浩平さんは毎回違う髪形で、かわいく仕上げてくれるから安心してるんだ。


「ミサちゃん、前回はおろしてたから、今日はアップにしよっか?」
「えっ。前回のこと覚えててくれてるの?すごーい!ってか、アップさんせーい♪」

「当たり前じゃん。覚えてるよ。おれ、この仕事だいっすきだからさー」




・・・仕事が好き、か。

そんなに楽しいのだろうか。
キャバクラで働く女の子はワガママな子が多い。
客にちやほやされ、思い上がってしまうから。
あたしはそんなキャストの子達ばかり見てきた。

そんな女の子たちの相手をするのが楽しいのだろうか。
きっと、今日の髪型は気に入らないなどと文句を言う子も多いだろうに。


「・・・好きなんですか?この仕事。」

思わず浩平さんに聞いてしまった。


「好きだよ。そうじゃなきゃやってないよ。」

そうだよなぁ・・・。でも、どこが好きなんだろう。あたしには分からない。


「なんで美容師になったの?」

あたしは質問を続けた。



「んー・・・人を綺麗にしたいって思って。人の喜ぶ顔が見たくて。あと、こうやって色々な人と話すのも好きだし。」



へぇ。この人は、夢を叶えたってわけか。


「でも俺、ヘアメイクを中心にやりたくて。だから勉強を兼ねて掛け持ちして仕事してるんだ。
あっ、あと今はマッサージも習ってるんだよ。有名なマッサージ師の先生のところに通ってさ。」



「えっ!?ほんとですか?
なんで?ヘアメイクがやりたいんでしょ?」


「うん。だけど、最近思うんだ。
人を綺麗にするってどういう意味だろうって・・・。
外見ばかりをいくら着飾っても、中身がきれいじゃないとダメなんじゃないかって、思うんだ。
だから今後は本格的にマッサージの資格取って働きたいって思ってるんだ。」






あたしは言葉が出なかった。
ただただすごいな、と、思うばかりで。

人にとって[夢]や〔目標〕って、常々変わり行き、終わるとこのない、永遠のモノなんだな。
そして彼はそれを恐れず、突き進んでいる。そう悟った。


そして浩平さんの言葉が頭の中にこびりついてしまった。

『外見ばかりをいくら着飾っても、中身がきれいじゃないとダメなんじゃないか』
『人の喜ぶ顔が見たくて』



体の振るえが増していくのを感じた。



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