「遅くなってすいません、浩平さん!久しぶりだね。」
美容師の浩平さんの元へ駆け寄り、お辞儀をして謝るあたし。 なんか、毎回このパターンだな。 いい加減遅刻やめよう・・・。
「久しぶりっすね。じゃ時間無いんで、すぐ始めちゃっていいっすか?」 「うん。お願いしまぁーす。」
浩平さんはうちのお店の専属のヘアメイクさん。 日中は美容室で普通に働いてる人で、二つの仕事を掛け持ちしているタフな人だ。 背が低くて童顔で、少年のような彼はトークがおもしろくてお店でも人気者だ。
あたしも浩平さんと過ごす、このごくわずかな時間がとても好きだった。
着替えが終わっても、かすかに手足の振震は残っていた。浩平さんに気づかれないようにしなきゃ。大丈夫かな。 そんな風に考えながら笑顔をつくり、浩平さんとの時間を楽しんだ。
「さぁて、今日はどんな感じにしましょうか。」 気合の入った声で浩平さんがあたしに聞いてきた。 鏡張りのヘアメイク室の椅子に腰掛けて、あたしは答える。
「何でもいいよ。」
あたしはいつもこう答えてしまう。 特に希望なんて物は無いし・・・。 それに、浩平さんは毎回違う髪形で、かわいく仕上げてくれるから安心してるんだ。
「ミサちゃん、前回はおろしてたから、今日はアップにしよっか?」 「えっ。前回のこと覚えててくれてるの?すごーい!ってか、アップさんせーい♪」
「当たり前じゃん。覚えてるよ。おれ、この仕事だいっすきだからさー」
・・・仕事が好き、か。
そんなに楽しいのだろうか。 キャバクラで働く女の子はワガママな子が多い。 客にちやほやされ、思い上がってしまうから。 あたしはそんなキャストの子達ばかり見てきた。
そんな女の子たちの相手をするのが楽しいのだろうか。 きっと、今日の髪型は気に入らないなどと文句を言う子も多いだろうに。
「・・・好きなんですか?この仕事。」
思わず浩平さんに聞いてしまった。
「好きだよ。そうじゃなきゃやってないよ。」
そうだよなぁ・・・。でも、どこが好きなんだろう。あたしには分からない。
「なんで美容師になったの?」
あたしは質問を続けた。
「んー・・・人を綺麗にしたいって思って。人の喜ぶ顔が見たくて。あと、こうやって色々な人と話すのも好きだし。」
へぇ。この人は、夢を叶えたってわけか。
「でも俺、ヘアメイクを中心にやりたくて。だから勉強を兼ねて掛け持ちして仕事してるんだ。 あっ、あと今はマッサージも習ってるんだよ。有名なマッサージ師の先生のところに通ってさ。」
「えっ!?ほんとですか? なんで?ヘアメイクがやりたいんでしょ?」
「うん。だけど、最近思うんだ。 人を綺麗にするってどういう意味だろうって・・・。 外見ばかりをいくら着飾っても、中身がきれいじゃないとダメなんじゃないかって、思うんだ。 だから今後は本格的にマッサージの資格取って働きたいって思ってるんだ。」
あたしは言葉が出なかった。 ただただすごいな、と、思うばかりで。
人にとって[夢]や〔目標〕って、常々変わり行き、終わるとこのない、永遠のモノなんだな。 そして彼はそれを恐れず、突き進んでいる。そう悟った。
そして浩平さんの言葉が頭の中にこびりついてしまった。
『外見ばかりをいくら着飾っても、中身がきれいじゃないとダメなんじゃないか』 『人の喜ぶ顔が見たくて』
体の振るえが増していくのを感じた。
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