道の両脇に群生した針葉樹がそそり立っている。 陽光は遮られ、森の奥は暗闇が支配している。 見上げれば、道の相似形に切り取られた細い空が、どこまでも続いている。 タロウは相変わらず功大に寄り添いながら歩調を合わせている。
森閑として鳥のさえずりさえ聞こえない。 森を分け行く道の周りは行けども行けども、代わり映えしない景色が続く。
細い空を、あっという間に太陽が横切って行った時に、森に異音が響き渡った。
グウ・・・・・・・ 功大の腹の虫が鳴いた。
「ウヘッ。こりゃまた大そうな音をたてやがる。」 とタロウが吐き捨てる。 功大は丸一日、満足に食べ物を口にしていない。 高台では、短い草が地表を被っていただけで、収穫を全く得られ無かったのだ。
タロウは道の両脇に視線を走らせて、 「この森で食い物をさがすのは、かなり厳しいぞ。」と言う。 しばらくキョロついてから、鼻先の照準を何かに合わせた。 「おいっ。あそこに茸がはえてるぞ。」
功大もそれを目にした。 黒味がかた紫の傘のふちを暗褐色の輪が取り巻き、白い斑が点々と浮いている。 「食べたら、即あの世逝きだね。」 功大はため息をついた。 そんな彼を一べつしてタロウは、 「えり好みしてる場合じゃないだろ。とりあえず食ってみろよ。」 と勧める。 「俺も腹がへったな〜。ちょっくら食事に行って来る。」 そう言うと、そそくさと森の奥へ消えていった。
功大は、取り残された侘しさを凌駕する安堵感におおわれた。 地べたをはいずりまわって、茸にむしゃぶりついてる姿を、タロウに 見られたくはなかったのだ。
細い空から漏れた陽光は、道の周りを遠慮がちに照らし出しているだけだ。 もし、その光の恩恵を無視して、森の奥に分け入ったら、二度と道には 戻れない気がする。
功大は必死で、茸をあさった。 しめじやなめこのような、なじみの色をしたものをさがす。 これぞと思うものを見つけると、親指の爪で茸の表面を少しこそぎ取り、 舌でころがしてみる。 どれもこれも、酸味がきつかったり、苦味が強すぎたりする。 ようやく見つけ出したものは、粘菌が巨大化したような形をしていた。
チュッパチャプス状のそれは、わずかな苦味の後、かすかな甘味が口に広がる。 とりあえず2、3本を口に運ぶ。そして次は10本と闇雲に口に詰め込み出した。 しかし徐々に空腹感が満たされてくると同時に眩暈がしてきた。 しばらくすると、目の前の空間が歪んで見え始めた。
『やばいっ..................道に戻らなくちゃ。』 文字通り下草の上を這いずって、何とか道に戻った。 しかし、症状はさらに悪化して行く。 視野が狭まり、目の前が暗転し始める。 そして、功大は意識を失った。
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