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作品名:パラディウムの炎 作者:凡次郎

第6回  
 道の両脇に群生した針葉樹がそそり立っている。
 陽光は遮られ、森の奥は暗闇が支配している。
 見上げれば、道の相似形に切り取られた細い空が、どこまでも続いている。
 タロウは相変わらず功大に寄り添いながら歩調を合わせている。

 森閑として鳥のさえずりさえ聞こえない。
 森を分け行く道の周りは行けども行けども、代わり映えしない景色が続く。

 細い空を、あっという間に太陽が横切って行った時に、森に異音が響き渡った。

 グウ・・・・・・・
 功大の腹の虫が鳴いた。

 「ウヘッ。こりゃまた大そうな音をたてやがる。」
 とタロウが吐き捨てる。
 
 功大は丸一日、満足に食べ物を口にしていない。
 高台では、短い草が地表を被っていただけで、収穫を全く得られ無かったのだ。

 タロウは道の両脇に視線を走らせて、
 「この森で食い物をさがすのは、かなり厳しいぞ。」と言う。
 しばらくキョロついてから、鼻先の照準を何かに合わせた。
 「おいっ。あそこに茸がはえてるぞ。」

 功大もそれを目にした。
 黒味がかた紫の傘のふちを暗褐色の輪が取り巻き、白い斑が点々と浮いている。
 「食べたら、即あの世逝きだね。」
 功大はため息をついた。
 そんな彼を一べつしてタロウは、
 「えり好みしてる場合じゃないだろ。とりあえず食ってみろよ。」
 と勧める。
 「俺も腹がへったな〜。ちょっくら食事に行って来る。」
 そう言うと、そそくさと森の奥へ消えていった。

 功大は、取り残された侘しさを凌駕する安堵感におおわれた。
 地べたをはいずりまわって、茸にむしゃぶりついてる姿を、タロウに
 見られたくはなかったのだ。

 細い空から漏れた陽光は、道の周りを遠慮がちに照らし出しているだけだ。
 もし、その光の恩恵を無視して、森の奥に分け入ったら、二度と道には
戻れない気がする。

 功大は必死で、茸をあさった。
 しめじやなめこのような、なじみの色をしたものをさがす。
 これぞと思うものを見つけると、親指の爪で茸の表面を少しこそぎ取り、
舌でころがしてみる。
 どれもこれも、酸味がきつかったり、苦味が強すぎたりする。
 ようやく見つけ出したものは、粘菌が巨大化したような形をしていた。

 チュッパチャプス状のそれは、わずかな苦味の後、かすかな甘味が口に広がる。
 とりあえず2、3本を口に運ぶ。そして次は10本と闇雲に口に詰め込み出した。
 しかし徐々に空腹感が満たされてくると同時に眩暈がしてきた。
 しばらくすると、目の前の空間が歪んで見え始めた。

『やばいっ..................道に戻らなくちゃ。』
 文字通り下草の上を這いずって、何とか道に戻った。
 しかし、症状はさらに悪化して行く。
 視野が狭まり、目の前が暗転し始める。
 
 そして、功大は意識を失った。


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