その夢を見始めたのは、一ヶ月ほど前のことだ。 仕事上で多大なストレスを抱えつつも、功大はすぐに眠りにおちることができた。 ある夜、その道は突然「ちゃりーん」という音とともに、夢の中に現れた。 草いきれのする緑萌える大草原を、地平線へと続く一本の直線の道だ。 そこへ一歩足を踏み入れた時、懐かしさと昂揚感で胸が高鳴るのを覚えた。 普通自動車一台が走れる程度の道幅しかない砂利道だ。 清浄な大気に包まれ、群青の空にわきたつ白い雲を背景にした道を進むのは、 爽快そのものだ。 不思議なことに、この夢はセーブされたRPGゲームのように、筋が繋がった続き物 として見れるのだ。 また、五感を刺激する全ての要素が盛り込まれている。 たとえば空腹感だ。 功大は、すきっぱらを満たすため、食べられそうな物なら何でも食べた。 どんぐりの実、野苺、あけび等だ。 唯一この夢で彼の不満とするところは、この空腹感だ。 生きるために何かをしなければならないという所が、現実と同様で疎ましく感じられた。 草原を行く一本道の周りは自然に溢れている。 林や森があり、清らかな水の流れる小川もある。 野性の動物にも出くわす。 現実の世界と異なる点は、これまでのところ功大の忌み嫌う人間という生き物が誰一人として現れ無いことだ。また、小川の水をすくって飲もうとした時、水面に映った自分の姿も変わっていた。 夢の中で男は、多感な10歳の頃の少年に戻っていたのだ。 トレードマークの多重層の二重まぶたは、まだそれほど際立っていない。 利発そうでいて、憂いをおびた表情をした少年を目にしても、何の違和感も覚えない。 それは、これが夢だからであり、多少の不便を感じても、気楽な徒歩の旅を続ける ことに功大は満足していた。 あのシニカルなしゃべる野良犬に出くわすまでは..............
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