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作品名:パラディウムの炎 作者:凡次郎

第10回   予感
 功大の説明にタロウは黙って耳を傾けている。
 しかし功大の熱気を帯びた口調とは裏腹に、タロウの眉をひそめている。
 功大は夢中で、そんなタロウの様子にはおかまいなしだ。
 「・・・・・僕がかけ声をかけるタイミングは分かったね。
敵は飛び掛かってくるはずだ。その時反動をつけるために、必ずいったん
体を沈めるんだ。僕がかけ声をかるのは、その瞬間だよ・・・・・・・」

 最後まで横槍を入れずに聞き終えたタロウは、一言問うた。
 「この作戦の成功の鍵は、コーダイが握ってるな。いいか、先頭のコーダイが
怖気づいたら、すべては水の泡なんだぞ。」
 「大丈夫、僕は逃げないさ。」
 功大の瞳が煌く。
 じっとその目を見据えていたタロウの心の声がつぶやく。
『是非そうあってもらいたいものだ。もう裏切られるのはまっぴらだ。』
 その言葉にタロウもまた、厚い霧の向うに記憶の断片を垣間見た気がした。
『ずっと前に、俺は裏切られて痛い目にあっているのかもしれない......................』

 二人はもときた道にとって返すことにした。
 この空き地が敵の狩場であると同時に、身を隠す場所などどこにもないからだ。
 功大は、去り際に簡単な武器をしつらえた。

 自分の背丈をこえる太い枝に細工をした。
 先端部に、切れ目を入れ、うさぎをさばくのに使ったナイフ状の石をはさみこんだ。
 その出来具合をためすすがめつした後で、功大は満足したように何度かうなずいた。

 暗闇が支配する森へ入ったとたん、下草をかき分けて走る獣の足音を耳にした。
 「あいつかな?」と功大が問う。
 耳をぴくつかせながら、「たぶんな。」とタロウが答える。
 「こんな所で襲われたら、一巻の終わりだね。」
 「それは無いな。ただ俺たちをビビらせてるだけだ。
あいつは最高の登場の仕方をするはずだ。」
 「どういうこと?」
 「天国から地獄へ突き落とすってことだ。まあ今に分かるさ。」

 何事も無く、道に戻った時には、細い空はオレンジ色に染まっていた。
 「どこで寝ようか。」
 功大の声は心もとなげだ。
 「道の周りしかないだろう。心配するな。お楽しみはこれからなんだからさ。」
 タロウの口調は落ち着いている。
 「俺の耳や鼻は、コーダイよりも効く。今のところ敵の気配は感じられないよ。」
 コーダイは不安を紛らわすように辺りを見回す。
 そして、タロウの目を覗き込んだ。
 そこには、もとの感情を宿さないガラス球に似た瞳があるだけだった。

 二人は、森の下草を集め、道端に寝床をしつらえた。
 コーダイはすぐに眠りに落ちていった。
 タロウは五感のスイッチをいれっぱなしで、そっと目を閉じた。

 森の暗闇では、一対の瞳が緑色に輝いていた。


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