20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:パラディウムの炎 作者:凡次郎

第1回   1
 「お前の頭の中には、石ころが詰まってんだよ。」
 斉藤だ。10歳にしてはニヒルな面構えをしている。
 スポーツも勉強もできる。ただ功大は、彼の醒めた目が大嫌いだった。
 頭がデカイことが、何とは無しに自慢だった彼の痛い所を突いたその一言が、
斉藤や社会を象徴している。
 「強い者が弱い者を突く=ペッキングオーダー」の存在こそが、人を動物たらしめる
最たる証しであり、愛とかいうものの対極にあるものなのだろう。
 『だから俺は人間が嫌いなんだよ。』と功大は一人ごちた。

 昼食後、喫煙室で紫煙をくゆらせながら、20数年も前の出来事に思いを馳せ、腹立たしい気持ちで一杯になった。
 午後からの新規事業計画のプレゼンテーションも、心に重くのしかかっている。
 計画書をまとめるのに要した労力と時間のことを振り返るたび、こう思う。
 『働くために生きるのでは無く、生きるために働きたい。』と。

 男の風貌は若作りだ。肌につやがあり眉間に刻まれたもの以外に、皺とも無縁のようだ。中肉中背のバランスのとれた身体つきをしている。唯一人目を惹くのは、ロバート・ミッチャムばりの重層的なまぶたであろうか。眼窩は窪み、時に威圧的な眼光を放つ。
 
 喫煙室のドアを開け放ったところに出くわした若い女子社員達が、下から上にパンするスキャニングの目線を投げかけ、眉を顰めた。
 投げキッスでもしてやろうかと思ったが、やめておいた。
 これ以上、社内で顰蹙を買っても益は無いからだ。
 「仕事はできるが、とっつきにくい奴」なんてレッテルは、頭がデカイのと同様、自慢にもなりはしない。

 午後の戦闘に戻る前に、功大の思考は完全に夜へと切り替わっていた。
 『あの道の果てには何が待っているのか。』
 それのみが彼の関心事で、今の彼はその夢を見るためだけに生きていた。

 


次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 6