「お前の頭の中には、石ころが詰まってんだよ。」 斉藤だ。10歳にしてはニヒルな面構えをしている。 スポーツも勉強もできる。ただ功大は、彼の醒めた目が大嫌いだった。 頭がデカイことが、何とは無しに自慢だった彼の痛い所を突いたその一言が、 斉藤や社会を象徴している。 「強い者が弱い者を突く=ペッキングオーダー」の存在こそが、人を動物たらしめる 最たる証しであり、愛とかいうものの対極にあるものなのだろう。 『だから俺は人間が嫌いなんだよ。』と功大は一人ごちた。
昼食後、喫煙室で紫煙をくゆらせながら、20数年も前の出来事に思いを馳せ、腹立たしい気持ちで一杯になった。 午後からの新規事業計画のプレゼンテーションも、心に重くのしかかっている。 計画書をまとめるのに要した労力と時間のことを振り返るたび、こう思う。 『働くために生きるのでは無く、生きるために働きたい。』と。
男の風貌は若作りだ。肌につやがあり眉間に刻まれたもの以外に、皺とも無縁のようだ。中肉中背のバランスのとれた身体つきをしている。唯一人目を惹くのは、ロバート・ミッチャムばりの重層的なまぶたであろうか。眼窩は窪み、時に威圧的な眼光を放つ。 喫煙室のドアを開け放ったところに出くわした若い女子社員達が、下から上にパンするスキャニングの目線を投げかけ、眉を顰めた。 投げキッスでもしてやろうかと思ったが、やめておいた。 これ以上、社内で顰蹙を買っても益は無いからだ。 「仕事はできるが、とっつきにくい奴」なんてレッテルは、頭がデカイのと同様、自慢にもなりはしない。
午後の戦闘に戻る前に、功大の思考は完全に夜へと切り替わっていた。 『あの道の果てには何が待っているのか。』 それのみが彼の関心事で、今の彼はその夢を見るためだけに生きていた。
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