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作品名:終焉の先 作者:TAK

第50回   07-5 北へ
翌日、昼過ぎには2人は慣れた服に着替え、入口に立った。
老人とヒロオミの兄が傍に居る。

「それでは、行ってまいります。」
ヒロオミが頭を下げる。レジェも合わせて下げる。
「うん。これが仕上がった刀だよ。」
ヒロオミの兄は、ヒロオミに刀を手渡す。
「ありがとう。」
「気をつけて。セタ侯爵にもよろしく伝えてくれ。」
「わかった。」
「それから、レジェさん。」
「はい。」
「これは、父から。」
ヒロオミの兄は、懐から小さな刀を取り出した。ペーパーナイフのような大きさの、しかし立派な鞘をしつらえた刀だ。
「神官をしているということだがな。それは守り刀と言って、お守りだ。それならば、刃物でも構わぬと思うが。」
老人が言葉を添える。ヒロオミの兄は、レジェの目の前で、ヒモを解いて見せた。
「こうやって、ヒモを解かないと鞘から抜けないんです。刃も入っていますが、普段は鞘から抜くことなく持っていてください。きっとあなたを守ってくれます。」
再びヒモをきちっと締める。レジェは、それをありがたく受け取った。
「ありがとうございます。お心遣いに感謝します。」
「それではヒロオミ。レジェ殿。今生の別れだ。自らに恥じることなく生きよ。」
「はい。」
「おう。」
ヒロオミもレジェも、老人の言葉に少しの寂しさと、気が引き締まる思いを持つ。

2人は、そうやって村を出た。
来た道を戻るように北上して、いよいよ首都を目指す。
「ヒロオミ。」
「うん?」
「とても、いい方でした。司祭様のように、大きく温かい。」
「うん。」
短い会話。振り返ると、老人とヒロオミの兄が立っている。
「さぁ。行こう。侯爵がきっとしびれをきらしている。」
「はい。」
前を見る。ヒロオミの背中がある。
2人は馬を走らせて、前へと進み始めた。

ヤマの首都アスカへは、北へ6日程北上しなくてはいけない。途中には宿場町が1つあるだけである。
首都に着いたら、ようやく侯爵に会う。
そして、本当に旅が始まるのだ。

レジェは、風を受けながら考えた。
村に立ち寄ることができてよかった。世界は広い。
これからも色々な人との出会いがあるに違いない。
いい出会いばかりではないだろうが、きっと胸を張って生きていくのだ。
どんな時でも。

ヒロオミと一緒に。


(第7章 終わり)


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