翌日、昼過ぎには2人は慣れた服に着替え、入口に立った。 老人とヒロオミの兄が傍に居る。
「それでは、行ってまいります。」 ヒロオミが頭を下げる。レジェも合わせて下げる。 「うん。これが仕上がった刀だよ。」 ヒロオミの兄は、ヒロオミに刀を手渡す。 「ありがとう。」 「気をつけて。セタ侯爵にもよろしく伝えてくれ。」 「わかった。」 「それから、レジェさん。」 「はい。」 「これは、父から。」 ヒロオミの兄は、懐から小さな刀を取り出した。ペーパーナイフのような大きさの、しかし立派な鞘をしつらえた刀だ。 「神官をしているということだがな。それは守り刀と言って、お守りだ。それならば、刃物でも構わぬと思うが。」 老人が言葉を添える。ヒロオミの兄は、レジェの目の前で、ヒモを解いて見せた。 「こうやって、ヒモを解かないと鞘から抜けないんです。刃も入っていますが、普段は鞘から抜くことなく持っていてください。きっとあなたを守ってくれます。」 再びヒモをきちっと締める。レジェは、それをありがたく受け取った。 「ありがとうございます。お心遣いに感謝します。」 「それではヒロオミ。レジェ殿。今生の別れだ。自らに恥じることなく生きよ。」 「はい。」 「おう。」 ヒロオミもレジェも、老人の言葉に少しの寂しさと、気が引き締まる思いを持つ。
2人は、そうやって村を出た。 来た道を戻るように北上して、いよいよ首都を目指す。 「ヒロオミ。」 「うん?」 「とても、いい方でした。司祭様のように、大きく温かい。」 「うん。」 短い会話。振り返ると、老人とヒロオミの兄が立っている。 「さぁ。行こう。侯爵がきっとしびれをきらしている。」 「はい。」 前を見る。ヒロオミの背中がある。 2人は馬を走らせて、前へと進み始めた。
ヤマの首都アスカへは、北へ6日程北上しなくてはいけない。途中には宿場町が1つあるだけである。 首都に着いたら、ようやく侯爵に会う。 そして、本当に旅が始まるのだ。
レジェは、風を受けながら考えた。 村に立ち寄ることができてよかった。世界は広い。 これからも色々な人との出会いがあるに違いない。 いい出会いばかりではないだろうが、きっと胸を張って生きていくのだ。 どんな時でも。
ヒロオミと一緒に。
(第7章 終わり)
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