ダルセとフィランゼは、ゼアノートとミーゼリアを連れて、再びエザリムの眠る部屋へと戻った。 「本当に、この女性が?」 ゼアノートは眠る女性を見て、驚いたままの表情でダルセとフィランゼを見る。 「あら。綺麗な人ねぇ。」 ミーゼリアは相変わらずだ。
フィランゼは、3人に自分の推論を話した。 ダルセが時折、言葉に説明を加えて、ゼアノートとミーゼリアはそれを信じられないという表情で聞く。 「まさか、ありえないよ。」 ゼアノートは真っ先に、ダルセと同じ感想を述べた。 「宇宙では位相を曲げるということは考えたりもしますけど…地上では、難しいですよね。」 ミーゼリアも、流石に話題にきちんとついてくる。 「位相を曲げる?」 ダルセが質問する。 「はい。解りやすく説明しますね。」 ミーゼリアは適当にテーブルの上にあったコピーの紙を手に取る。それから、ペンを探してうろうろとする。ゼアがポケットからペンを取り出して、ミーゼリアに渡す。 「あら、ありがとう。」 ミーゼリアはにっこりと笑ってそれを受け取り、紙の左下に小さな黒い丸を、右上に小さな白い丸を書いた。そしてペンをダルセに手渡して、紙をテーブルの上に置く。 「ダルセさん。この黒い丸と、白い丸を最短距離で結んでください。」 「え?」 ダルセはペンを抜いた。少し考えて、結局紙の上にナナメのラインを引く。」 「これですね?」 「そうです。これが、普通の最短距離。フィランゼさん、もっと短い線を見つけられますか?」 「…近づければいいわ。紙を丸めて。」 「そのとおりですね。」 ミーゼリアは、紙をナナメに丸めて、白い丸と黒い丸を重ね合わせる。 「これが位相を変えた、最短距離です。」 「ふむ…。」 「この考え方を元に開発されたのが、皆さんも知ってる「ワープ航法」です。宇宙はとっても広いので、位相を変えて、移動しないととても距離を稼ぐことができないんです。」 「でも、地上では難しい、と。」 ダルセは質問をする。 「地上でもできるんですよ?でもやらないのは、位相を曲げる必要があるほどに遠くないというのが理由の1つです。それに、距離が0になってしまうということは、その空間の物質が重なってしまう、ということなんですよ。」 「重なると問題が?」 「簡単に言うと、核融合に似た現象が発生します。爆発ですね。」 「あっ。」 「物質は質量が0になるわけじゃないので。ワープ航法だって、星のない宙域を選んで使うものでしょう?」 「なるほどね…。」 「あら。でも、そうすると、今回の爆発は、位相を変えたから、ということなのでしょうか。」 「だからありえないんだよ。だって、ほいっと変えて変わるものじゃないよ?位相は。」 ゼアノートがミーゼリアに言う。 「そうですね。でも、それなら残骸の量が多いのだって説明がつくのでは?」 「…それは…。」
それで、フィランゼはエザリムのことを説明した。 ゼアノートとミーゼリアは、エザリムに会わせてくれと言った。そして、現在、こうやってエザリムの眠る部屋に来ているわけである。 「信じるか、信じないかは、私も正直強制できないの。」 フィランゼは、ゼアノートとミーゼリアに向かって言う。 「けれど、私たちは見てしまった以上、それを本当だとしてあなたたちに言うしかない。」 「僕はね。あんたたちがもっとパニックを起こして、大騒ぎをしていたら、多分間違いなく一笑して取り合わない。」 ゼアノートは、難しい表情をして答える。 「けれど、あんたたちは正常だ。どう見てもね。だから、信じるしかない。」 「すごい方なのねぇ。目だけで位相を変えてしまうなんて。」 「…それに、ミーゼリアは疑ってもいないようだ。」 ゼアノートはゼスチャーで飽きれ返った、と表現する。 「あと、このことなんだけど、私は公表をせずにいようと思うの。」 フィランゼは、今度は3人に向かって言う。 「ううむ、俺も、公表できる自信はないな。」 ダルセは腕を組んで答える。 「というか、公表する相手が居ればいいけどね。」 ゼアノートは皮肉る。 「私も。むしろ、エザリムさんには力の使い方をちゃんと覚えていただいた方がいいと思います。」 ミーゼリアはピンボケる。
それから、4人は、エザリムをどうしていくか、今後どのようにしていくか、という話に移っていった。4人の打ち合わせが続く中、エザリムは、眠り続けていた。
(第5章 終わり)
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