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作品名:終焉の先 作者:TAK

第37回   05-2 原因
フィランゼの様子を気遣いながら、ダルセは歩いている。
フィランゼは周りを見ながら、ダルセの話を聞いて足を動かす。

ダルセは今まで起こったことを、フィランゼが欲しい情報にまとめて説明をしてくれた。
フィランゼが眠りについたのは5日前。実際にダウンロードには4日かかり、そこから目覚めるまで1日かかったらしい。作業自体は順調だった。
今日午前中、フィランゼは体調が安定したのでICUから一般の部屋に移され、午後からは検査を行う予定だった。ダルセたちがその仕度をしていると、突然、爆発が起こった。
最初、緊急情報として、被害状況が報道されていた。報道によると、このエリアだけではなく、地上に存在する全てのエリアで爆発が発生したらしい。テロではないかとコメンテーターが語っているところで、報道が突如途切れ、そして二度と復旧することもなかった。
人々は思い思いに非難を始めたが、どこへ逃げても激しい爆発に巻き込まれて死んでいった。特に高層ビルが林立しているエリアでの爆発が激しく、研究所は少し離れたところにあるために、今はまだ爆発をしていない。
「しかし、爆発が起こる確率は多分高くなっているんじゃないかと思う。」
ダルセは周囲を見渡しながらフィランゼに話しかける。
「原因は?」
「結局、わからないままなんだ。ライフライン系の事故かとも思ってみたが、こんなに発生するとそうでもないようだ。」
「テロって線は?」
「最初はそう思ったよ。でも、こんな状況じゃテロリストだって逃げ惑う。」
確かに、これは人が人に加える危害というラインを大きく超えている。
歩けば歩くほどに、建物が粉砕され、見たこともないような平地が広がる。
「このあたりは生きている人はいないようだな」
瓦礫に混ざるように、死体が転がっていた。それは体の一部だったり、全部だったりするけれど、どれも既に動かなくなっている。1人だと悲しくてしょうがない人の死も、これだけの量になってしまうと、最早恐怖すら通り越してなんの感慨も湧かない。

「ん…人がいるぞ。」
「え?」
ダルセが指をさす。
遠くに確かに人影が見える。僅かに動いているようにも見える。
2人は顔を見合わせて、少し歩みを速める。

近寄ると、女性だということがわかった。
短いブロンドの髪、僅かにカールがかかっている。瞳は綺麗なブルー。
2人にはまだ気がついていないようで、遠くを見つめている。
彼女の視界、はるか遠くで爆発が起こっている。

その表情は、真剣そのものだった。茫然自失としているのかと思い近寄ったが、そんな様子は全く見られなかった。真剣に遠くで起こっている爆発を見つめている。時折、遠くから届く風にすら、瞬きもせずに。

「あの…。」
ダルセが声をかけた。女性は振り返らない。遠くで爆発が起こる。
反応がないのに2人で戸惑っていると、不意に女性は2人から顔を背けて、違う方向を見た。2人ともつられるように同じ方向に視線が向いてしまう。
彼女が視線を向けた先で、また爆発が発生した。遠くで霞んで見えていたビルが激しく光り、そして沈んでいく。連鎖するように、周りのビルも衝撃で崩れたり、あるいは爆発を起こす。
「すみません。」
もう一度、ダルセが声をかけると、女性はこちらを見た。2人は一瞬どきっとした。
不意に、後方から爆発音が響いてきた。彼女は2人を見ていたわけではないようで、2人が振り返ると、僅かに残っていたビルが崩れ落ち、破裂し、土砂を撒き散らしながら消えていく。
フィランゼは、頭の隅に浮かんだ考えを、思わず口にした。
「ダルセ。」
「ん?」
「これって…爆発が起きてる方向を彼女が見てる?」
「そうだな…。」
「それとも、彼女が見た方向に爆発が起こってる?」
「え。」
2人とも、ゆっくりと振り返るのをやめる。彼女は自分たちの方角、しかし遠くを見ている。爆発が背後で続いている。
「馬鹿な。見るだけで爆発なんて…。」
ダルセが、フィランゼだけに聞こえるような小さな声で呟く。
エザリムは、また別の方角を見た。そちらの方角に、爆発が発生する。そして、背後からは爆発の風が緩やかに2人に届き、爆発音が止まる。
「おい、まさか…そんな…。」
女性は、その真剣な眼差し以外に、全く体に力を入れている様子はない。見た目も、ちょっと見かけない程の美人という以外は、全く普通の女性である。2人は信じがたい表情で、彼女の視線の先を追った。爆発が起こっている。彼女はじっとそれを見ている。
「おい、やめろ!」
ダルセは思わず駆け寄って、女性の肩を掴んだ。
女性はようやく、ダルセに視線を移した。ダルセは怯む。
「ダルセ!彼女を殴って!」
フィランゼが思わず口にする。ダルセは間髪居れずに、女性のみぞおちに拳を入れた。
彼女は、短い声を出すと、崩れ落ちる。

爆発が止まった。
2人は、周辺を見渡す。静かな死の大地。
こうして、爆発はようやく止まった。


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